【パリ発コラム】アカデミー賞フランス代表決定 合作映画が増えることで浮上する映画の国籍の問題
2024年9月29日 13:30
来年のアカデミー賞に向けて、各国で代表作品が続々と選出されている。国際長編映画賞フランス代表に選ばれたのは、今年のカンヌ国際映画祭で女優賞(主演4人のアンサンブルに送られた)と審査員賞をダブル受賞した、ジャック・オーディアール監督の「Emilia Pérez」だ。最終選に残ったのは本作に加え、フランスで800万人を超える動員を集めた「Le Comte de Monte-Cristo(モンテ・クリスト伯)」、アラン・ギロディ監督の「Miséricorde」、カンヌでグランプリに輝いた、インドが舞台の「All We Imagine as Light」の3作。
オーディアールの作品はミュージカル・コメディで、カンヌでの人気ぶりを考えるならこのチョイスは妥当と思えるが、メキシコが舞台ゆえにじつはフランス語が出てこない。メキシコのドラッグカルテルのボスが、性転換手術を受けて女性に生まれ変わる、というストーリーで、主人公を自身もトランスセクシュアルのカルラ・ソフィア・ガスコンが演じる他、ゾーイ・サルダナ、セレーナ・ゴメス、アドリアナ・パズら、国際的なスターが顔を揃える。まったく「フランスらしさ」がないことを考えると、選出されたことは驚きと言えるかもしれない。
だが、この背景には1年前の「失敗」が影響している。昨年の今頃、選考委員会はトラン・アン・ユンの「ポトフ 美食家と料理人」とジュスティーヌ・トリエの「落下の解剖学」のあいだで意見が分かれ、最終的にフランス文化を打ち出した前者を選んだ。だがその結果、本作は最終リストに残らず、かたやトリエの方は、脚本賞を受賞するに至った。「ポトフ~」が駄作とはまったく思わないが、ある意味、観る人を選ぶタイプの映画には違いない。それに引き換え、先の読めないスリラーである「落下の解剖学」は万人向けであり、評価もされやすい。
こうした経験があるゆえに、今年はフランスらしさにこだわるよりは、スター・バリュー、大胆さ、オリジナリティに賭けたのではないだろうか。たしかにオーディアールのミュージカル・コメディは、意表を突く面白さに溢れている。ミュージカル・シーンの迫力も見もので、ゴメスが歌が上手いのは当然としても、サルダナのダンスと歌の上手さには瞠目させられる。さらに「奇跡の発見」とも言うべきガスコンの存在が、映画を牽引している。
合作映画がますます増えているなか、今後映画の国籍の問題はなおさら複雑になっていくだろう。たとえば今回、ドイツでも、イランが舞台でドイツ語がまったく出てこない、さらに監督もドイツ人ではない、モハマド・ラスロフの話題作「The Seed if the Sacred Fig」が代表に選ばれた。一方、ベルリン国際映画祭で金熊賞に輝いたマティ・ディオップの「Dahomey」はフランスとセネガルの二重国籍ゆえに、結果的にセネガル映画の代表におさまった。
これからは各国とも、「その国らしさ」より、いかに賞に有利かが選択の基準になっていくのかもしれない。(佐藤久理子)
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。