【「ブラッド・スウェット&ティアーズに何が起こったのか?」評論】“血と汗と涙”の結晶。“鉄のカーテン”をぶち破った伝説のライヴへ!
2024年9月29日 19:00
(C)2023 James Sears Bryant All Rights Reserved Exclusively licensed to TAMT Co., Ltd. in Japan1967年、アル・クーパーの呼びかけでブラッド・スウェット&ティアーズ(以下BS&T)が結成された。一目見た米コロムビアの重鎮が契約を即断しメジャーデビューを果たす。バンドはホーンセクションを加えた9人編成、ジャズのエッセンスにロックを融合させたブラス・ロックの始祖となる。だが翌年2月にリリースされたファーストアルバムは不発に。メンバーによるとヴォーカルのインパクトが欠けていたからだ。翌月アルはバンドを去る。
さあ、どうする。オーディションが続く中、2曲しか覚えていないカナダ出身のデヴィッド・クレイトン・トーマスがスタジオに呼ばれる。怪童がワンフレーズ歌った瞬間メンバーは喜色満面に。うってつけの存在が見いだされたのだ。1968年12月、グループ名を冠したセカンド「血と汗と涙」を発表。アルバムはヒットチャート7週連続1位に君臨。ライヴにはファンが殺到し、シングル3曲も快進撃、瞬く間にトップクラスへと躍進する。
すべてが順風満帆だと思われたその時、魔の手が静かに迫る。カナダ時代のデヴィッドの前科に難癖がつけられ、居住権剥奪の危機に晒された。ヴェトナム戦争へのデモが激化し、反戦を叫んだジョン・レノンらを厳しく監視させたニクソン政権はグリーンカードを取り消すと脅した。窮地を救ったのは囚人上がりのマネージャー、ラリー・ゴールドブラット。米国務省との裏取引に応じ、米ソの冷戦下でソ連の影響下にあるユーゴスラビア、ルーマニア、ポーランドでプロパガンダライヴ出演を交換条件にNDA(機密保持契約)を結んで米国居住権を保障させた。
1969年8月17日、ウッドストックで熱演するが主催者の不手際でギャラの支払いに問題が発生。怒った当時のマネージャーは数曲歌った後で撮影を禁じた。このパフォーマンスが映画「ウッドストック 愛と平和と音楽の3日間」(1970)に盛り込まれていたとしたら、バンドへの評価は別格になっていたに違いない。
1969年、ラスヴェガスのシーザーズパレスで公演。今でこそ当たり前となったセレブ向けホテル興行がカウンターカルチャー支持者から体制派だと叩かれ、ロック信者への裏切り行為とみなされた。
1970年のグラミー賞授賞式で最優秀アルバム賞は、次点の「アビイ・ロード」に大差をつけた「血と汗と涙」だった。BS&Tはジャズ界の重鎮ルイ・アームストロングからトロフィーを授与された。4冠に輝いたグラミー賞だが、授賞式のテレビ放送が始まったのはこの後からだった。
1970年6月17日、破竹の勢いのバンドは“鉄のカーテン・ツアー”を敢行、初公演となるユーゴスラビアのザグレブの舞台に立つ。映画化も決定し、新人監督とクルーが同行して東欧での10公演が撮影された。しかし、共産圏の民衆が熱狂する様は国際問題につながると政治の思惑で“無かったこと”にされてしまう。
1970年9月、東欧から帰国したバンドを待っていたのは容赦ないバッシングの嵐だった。民主主義プロパガンダの尖兵となった彼らは、右派からは反戦・反体制の象徴とされ、左派からは国務省の回し者の烙印を押され、両派からの攻撃に晒された。
政権の思惑に翻弄され、半歩違いでアーカイブ化のトレンドに乗り遅れたBS&T。だが、鉄のカーテンをぶち破った“血と汗と涙”の結晶たるライヴを活写した本作には、メンバーが「自分の記憶の中でも最高のコンサートのひとつ」だと語る圧巻のワルシャワ公演が記録されている。
半世紀を経て発見されたフイルム5本(実際は18本あった)を元に作品を仕上げたジョン・シャインフェルド監督は、「この映画は音楽やBS&Tファンのためだけではなく、政治スリラーであり、驚くほど力強い共鳴と、現在世界で起こっていることとの類似性を持っている」と語っている。彼の脚本は高く評価され、2024年の全米脚本家組合賞を受賞している。
それでも糸車は回り続ける
悩みごとを愚痴ったって始まらない
ペイントされたポニーに乗って糸車を回そうぜ 「スピニング・ホイール」より
瞬く間に時代の寵児となり、トップシーンから姿を消したバンドのオリジナルメンバーが当時を振り返る。政治とは無縁だった彼らがいかにして政治の餌食にされたのか。沈黙を続けた理由とは…。今でこそ笑い話だと悠然と語るヤツらはマジにカッコいい。創始者たちが姿を消したバンドはメンバー交代を繰り返しながら現在も活動を続けている。
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
感情ぐっちゃぐちゃになる超オススメ作!
【イカれた映画を紹介するぜ】些細なことで人生詰んだ…どうにかなるほどの強刺激
提供:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
映画ラストマン FIRST LOVE
「ドラマの映画化か~」と何気なくつぶやいたら後輩から激ギレされた話「これ超面白いですから!!」
提供:松竹
年末年始は爆発・秒殺・脱獄・名作!!
【全部無料の神企画】今年もやるぞ!ストレス爆散!!劇的チェンジ!! 1年の疲れを吹き飛ばそう!!
提供:BS12
“愛と性”を語ることは“生きる”を語ること
【今年最後に観るべき邦画】なじみの娼婦、偶然出会った女子大生との情事。乾いた日常に強烈な一滴を。
提供:ハピネットファントム・スタジオ
こんなに面白かったのか――!!
【シリーズ完全初見で最新作を観たら…】「早く教えてほしかった…」「歴史を変える傑作」「号泣」
提供:ディズニー
映画を500円で観よう
【2000円が500円に】知らないとめっっっっっっっちゃ損 絶対に読んでから観に行って!
提供:KDDI
今年最大級に切なく、驚き、涙が流れた――
双子の弟が亡くなった。僕は、弟の恋人のために“弟のフリ”をした。
提供:アスミック・エース
ズートピア2
【最速レビュー】「前作こえた面白さ」「ご褒美みたいな映画」「最高の続編」「全員みて」
提供:ディズニー