【ひろしまアニメーションシーズン2024】世界の才能が集結した5日間、短編コンペグランプリは“男らしさ”の複雑性探求する作品
2024年8月18日 21:30
8月14日から広島市で開催されていた、2年に1度のアニメーション芸術の祭典「ひろしまアニメーションシーズン2024(HAS)」コンペティション授賞式と閉会式が18日行われた。短編コンペティション部門のグランプリにベルギー、フランス合作、ニコラス・ケッペン監督の「美しき男たち」が選ばれた。
HASは、「ひろしま国際平和文化祭」メディア芸術部門のメイン事業で、世界4大アニメーション映画祭のひとつとして知られた「広島国際アニメーションフェスティバル」が2020年に終了したのち、2022年に新たな形で生まれ変わり、アニメーション映画祭としては日本唯一のアカデミー賞公認の催しだ。
短編に限らず、長編、テレビ、ウェブメディアなどアニメーションの可能性と未来をパーソナルかつユニークに掘り起こすクリエイターたちを、古今東西・商業非商業の枠を超えて紹介し、今年設けられた3つのコンペティション部門は、97の国・地域から、2634作品の応募があり、全76作品(短編72本・長編4本)が入選作品として選出された。
グランプリには、賞金のほかアカデミー賞ノミネート資格が授与される短編コンペティション部門は、全世界の作品(30分以内)を対象に、「社会への眼差し」「寓話の現在」「虚構世界」「光の詩」の4つのカテゴリで30作品が選出・上映された。ホアキン・コシーニャ、和田淳、バルトラウト・グラウスグルーバー、劉健(リュウ・ジエン)、王綺穂(ワン・チスイ)という5名の国際審査員が各カテゴリ賞に加え、全体のグランプリを選出した。
グランプリに輝いた「美しき男たち」(原題:Beautiful Men)は、薄毛を気にする3兄弟が植毛のためにトルコに向かい、そこで起きたハプニングや兄弟のやりとりを、人間味溢れるパペットでコミカルに描いたストップモーションアニメ。審査員は、授賞理由を「優れたストーリーテリングと見事な演出、男らしさとアイデンティティに関する議論も提供する作品」だとし、「丹念に作りこまれた撮影と構図が印象的。外見と内面の葛藤による緊張感を保ちながら、ステレオタイプに対してニュアンスに富んだ批評を盛り込み、“男らしさ”をめぐる複雑さを激しく探求している」と評した。
今回、来日が叶わなかったケッペン監督は「ベルギーは今、深夜。暑くて眠れずインスタを開いたらプロデューサーからのDMで受賞を知りました。同居人が寝ているので大きな声が出せませんが、とてもうれしい」と、喜びのビデオメッセージを寄せた。
短編コンペティション部門のほか、環太平洋・アジア地域で作られた学生作品およびデビュー作を対象とした環太平洋アジアユースコンペティション、CM、MV、テレビ番組、教育・広報コンテンツなど、クライアントの依頼により日本で製作された作品を対象とする日本依頼作品コンペティションの受賞作、3つの短編コンペ部門から観客により選出される観客賞、同じく観客投票で選ばれる長編コンペティションの結果も発表された。
今回は、世界中から関係者が集う場として、国境を超えたクリエイターの連携を目的とした「ひろしまアニメーションアカデミー&ミーティング(HAM)」(24年8月15日~17日)を新設した。HAMには、業界関係者のほか、若手クリエイターやクリエイター志望者を中心に国内外の400人以上が登録。上映以外にさまざまなレクチャーやパーティで交流を図り、人が集まる場所としての機能も果たした。
アーティスティック・ディレクターを務めた山村浩二氏は、会場で流されたファンファーレや幕間の管弦楽曲が、今回特集上映が行われたヤン・シュバンクマイエル作品でも用いられている、チェコの作曲家、レオシュ・ヤナーチェクによるものだと紹介。チェコの民謡を研究し、言葉の抑揚の意味を写し取る旋律収集というヤナーチェクの仕事を挙げ、「ヤナーチェクは、『発話旋律は痛々しいほどに敏感な他人の心の断片であり、魂を覗き見るための窓。人の心とその全存在のある一瞬の写真である』と語っています。世界中のいろんな表現に耳を傾け、この映画祭で上映される作品を丁寧にここに揃えたつもりです。アニメーションは絵と音が重なり、あるリズムが生まれるもの。それによって心の奥深い何かが皆さんに届いたら大変嬉しい」と振り返る。
また、様々なコミュニケーションツールが発達していく中で、対面でフェスティバルを開催する意義について、全員がフェスティバルの当事者となって、それによって多くの記憶が深く残ること、鑑賞環境が変わることで、アニメーションに様々な抑揚が加わり、部屋で1人で見ることとは全く違った体験ができることを強調し、「2026年8月、また広島でお会いできることを期待しています」と次回開催への意欲を述べた。
「美しき男たち」ニコラス・ケッペン監督
■「社会への眼差し」賞
「バタフライ」フローレンス・ミアイユ監督
■「寓話の現在」賞
「フシギなフラつき」ニーナ・ガンツ監督
■「虚構世界」賞
「熱帯の複眼」ジャンシュウ・ジャン監督
■「光の詩」賞
「東方の雨」ミリー・イェンケン監督
プチプチ・アニメ「春告げ魚と風来坊」八代健志監督
■川村真司賞
星宮とと+TEMPLIME「Mind Replacer」大谷たらふ監督
■出合小都美賞
Pass49e「白い悪魔」円戸サヤ監督
■シシヤマザキ賞
刀雨「Be Gone」羅絲佳監督
「ゲロゲロ・ショー」スレッシュ・エリヤット監督
■グランプリ
「シロッコと風の王国」ブノワ・シュー監督
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