国境の難民の現状、薄毛兄弟の植毛旅行、仏文学の文字映像化など多彩なテーマ 短編コンペ「社会への眼差し」「寓話の現在」【ひろしまアニメーションシーズン2024】
2024年8月16日 14:00
広島市で開催中のアニメーション芸術の祭典「ひろしまアニメーションシーズン2024(HAS)」で、短編コンペティション部門の上映が始まり、広島に集まった作家たちが自作を語った。
短編コンペティションは、全世界の作品(30分以内)を対象に、「社会への眼差し」「寓話の現在」「虚構世界」「光の詩」の4つのカテゴリで選出・上映。5名の国際審査員が各カテゴリ賞に加え、全体のグランプリを選出する。グランプリ作品には賞金が贈られるほか、アカデミー賞短編アニメーション部門のノミネート資格が与えられる。
8月14日に上映された「社会への眼差し」カテゴリでは、アート・アニメーションの名匠フローランス・ミライユがフランスの移民系オリンピック水泳選手をモデルとした「バタフライ」、ヴィム・ヴェンダースがナレーションを務める「我々サイドから」(シモーネ・マッシ)、AIで制作された人間たちが物語を語る「親愛なる人間たちへ」(ジョー・ペーター)、薄毛の3兄弟がトルコに植毛旅行に出かける「美しき男たち」(ニコラス・ケッペン)など、社会的なトピックにアプローチした7作品がお披露目となった。
同カテゴリで「森には人々がいる」を出品したポーランドのサイモン・ラチンスキーが来日し、上映後に作品を解説した。
2021年にベラルーシがEUの混乱を狙い、ポーランド国境に大量の難民を移送。ポーランドとベラルーシの国境で両国が難民に対して非人道的な行いをしている実態が明らかになった。この問題は、2023年ベネチア国際映画祭で審査員特別賞を受賞したアグニエシュカ・ホランド監督の実写映画「人間の境界」でも扱われている。
ラチンスキーは、ポーランド国境で起きていることをシンプルな線画、立体表現のない鳥瞰図のようなアニメーション・ドキュメンタリーとして描いた。音は実際の現場で録音したという臨場感のあるものだ。「私は国境地域の村の出身で、数年前からこの問題が起こりました。今はジャーナリストも入ることが禁止されている制限エリアとなり、撮影も軍に厳しく禁じられています。そこで実際何が起こっているのか、私は自分の目で見ています。だからこそ、今回、アニメーションを使って表現したいと考えました」と今作の制作意図を語る。
「イメージをシンプルにしたのにも意味があります。この問題は私のホームと言える場所で起きていることなので、感情的になり、個人的に思い入れの深いことです。問題をできるだけ客観的に観察者として描く方法として、このイメージを選びました。そのことによって、自分が個人的につながりを感じていることを、他の人たちにも感じてもらい、そもそもこの問題を知らない人たちにとっても、分かりやすく伝わるよう、自分事として受け取ってもらうためにこの方法を選びました」と説明した。
8月15日上映の「寓話の現在」カテゴリでは、現代において寓話を語る・観ることの意義を問いかける7作品が紹介され、上映後4作品の作家が登壇した。
鮮やかな水彩風のタッチで、少年少女の神話的世界を描く「鳥のコドモ」監督のジュリア・トゥディスコは、「日本の文化にインスピレーションを受けて作った作品。修士課程では、宮﨑駿作品の人類世界が破壊された後の世界を研究し論文を書いた」と明かす。
孤独や他者とのつながりをほのぼのとした動物のイラストに投影し描いた「パーキングエリアの夜」監督の村本咲は、「今日が日本初公開。自分でもこんなに大きいスクリーンで見るのが初めてで、緊張しました」とコメント。
文字を動かし変容させるユニークな手法を用いた「みじめな奇蹟」監督の折笠良は、「ベルギー生まれでフランスの詩人、画家のアンリ・ミショーの同じタイトルの本が原作です。もし気になったら、原作の本も読んでいただければ。今回は英語の吹替えで上映をしましたが、オリジナルのフランス語のバージョン、日本語の吹替え版もあり、今後別の上映機会を作りたい」と紹介。本作は、フランス語オリジナルは俳優のドゥニ・ラヴァン、日本語は作家で音楽家の町田康がナレーションを担当している。
中国の少年の生活を優美で繊細な切り絵で表現した「井の中の船」監督のチン・シー、シュー・シャオリンが来日し、「9年前に出版された絵本が基になっており、タイトルの『小満(シャオマン)』が主人公の名前です。切り絵を使ってこのアニメーションを作りました」(チン・シー)、「唐の時代の伝説の雰囲気を再現した」(シュー・シャオリン)と作品を解説した。
「ひろしまアニメーションシーズン2024」は、8月18日まで開催。全プログラム、チケット詳細は公式HP(https://animation.hiroshimafest.org/schedule/)で告知している。1日券は3000円。1回券は1200円。そのほか全プログラム券や、大学生、高・中学生料金、無料上映作品あり。
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