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「墓泥棒と失われた女神」アリーチェ・ロルバケル監督インタビュー 映画の歴史へのオマージュ、ジョシュ・オコナーのために書き直した脚本

2024年7月20日 11:00

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アリーチェ・ロルバケル監督
アリーチェ・ロルバケル監督

2023年・第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品作で、「幸福なラザロ」「夏をゆく人々」などで高く評価されるイタリアのアリーチェ・ロルバケル監督の最新作「墓泥棒と失われた女神」が公開された。主演のジョシュ・オコナーが愛の幻想にとらわれた墓泥棒アーサー役を演じ、イザベラ・ロッセリーニらが共演する。ロルバケル監督が作品を語るインタビューを映画.comが入手した。

画像2(C)2023 tempesta srl, Ad Vitam Production, Amka Films Productions, Arte France Cinema
<あらすじ>
1980年代、イタリア・トスカーナ地方の田舎町。忘れられない恋人の影を追う考古学愛好家の青年アーサーには、紀元前に繁栄した古代エトルリア人の遺跡を発見できるという不思議な力があった。アーサーはその能力を利用して墓泥棒の仲間たちと埋葬品を掘り起こしては売りさばいて日銭を稼いでいる。そんなある日、アーサーたちは希少価値を持つ美しい女神像を発見するが、事態は闇のアート市場をも巻き込んだ騒動へと発展していく。
画像3(C)2023 tempesta srl, Ad Vitam Production, Amka Films Productions, Arte France Cinema
――過去を掘り起こす「墓泥棒」を主人公にした物語の着想についてお聞かせください。

私が生まれ育ったイタリア・トスカーナ地方は常に考古学的発見であふれています。トラクターを使っていたら古代人の墓を発見したとか、ネクロポリス(多数の墓によって形成された古代の墓地)のそばを掘っていたら家の周りを囲めるほど長い金のネックレスを発見したとか、そんな話をよく聞きました。その聖と俗、生と死が近接する様に、私は幼い頃からいつも魅了されていて、様々なものの見方を教えてもらいました。

だからこそその2つの世界の関係を語る重層的な物語を撮ろうとしました。この過去を掘り起こす男たちの物語は、私にとって大切な問いである「過去をどう扱うべきか――過去を忘れるのか、美化するのか、それとも変えてしまうのか――」について探求する地元地域を舞台にした作品(「夏をゆく人々」「幸福なラザロ」)に続く作品ともいえます。劇中の墓泥棒たちは過去を破壊し、断片的に売り払うことに自由を感じている。ですが、遺物を収奪したり、経済的価値のある商品として扱うことは、現在の私たちの行動に大いに関連することでもありますね。

画像4(C)2023 tempesta srl, Ad Vitam Production, Amka Films Productions, Arte France Cinema
――過去を発掘することについて描くと同時に、「映画の考古学」そのものについての映画のようにも感じます。本作はフィルムの様々なフォーマットを使って撮影していますね。

撮影監督のエレーヌ・ルバールとともに、「過去」を語る映画をどう作るか考えていたとき、映画というメディアや歴史を通して遊んでみることにしました。撮影に使用したフィルムは、フレスコ画の雰囲気をもたらす35ミリ、ヌーベルバーグのようにライブ感を出せるスーパー16ミリ、そして鉛筆で書いたメモのような淡い記憶を彷彿とさせる16ミリ。私たちが愛する数多くの物語を生み出してきた様々なフォーマットです。さらに映像をスピードアップしたりスローダウンしたりと初期映画のようなトリックをさりげなく取り入れたのは、映画の歴史へのオマージュでした。

――「発掘」と「映画製作」にはどのような繋がりがあると思いますか?

私は常に「過去」に興味があって、古代ギリシャ語やラテン文学を学んだこともあります。そして、映画製作者としての私の仕事は、何らかの形で考古学とつながっていると思います。私の執筆プロセスは、まるで考古学者のように、何らかの痕跡を見つけ、掘り始め、それらの発見物をまとめていく作業ですから。この映画自体、考古学の発掘調査のようなものですね。映画製作と考古学という2つの世界を組み合わせるのは良いアイデアだと思いました。

画像5(C)2023 tempesta srl, Ad Vitam Production, Amka Films Productions, Arte France Cinema
――墓泥棒のリーダー役にイギリス人俳優のジョシュ・オコナーがキャスティングされた理由について

本作のキャスティングはプロの俳優と地元の人々が演じるアンサンブルで、地元の人々は主に私のご近所さんたちです(笑)。彼らは劇中の地域にルーツを持っている人々なので、主人公アーサーのキャラクターは外国人を念頭に置いていました。墓泥棒たちのリーダーとして、第二の視点を与えてくれる外国人が欲しかったからです。これは同時に、17~ 19世紀においてイギリスの貴族や上流階級の人々が教育旅行でイタリアを訪れ、地元の人々に彼らが持つ文化的な豊かさや価値を伝えたという「グランドツアー」へのオマージュでもあります。

アーサー役のイギリス人は当初、ジョシュ・オコナーより年上の俳優を想定していましたが、彼は「幸福なラザロ」を観て感銘を受けたといい、私に何度も手紙を送ってくれていたんです。彼と会ってすぐに人柄や感受性の豊かさに惹かれたのと、彼の若さはこの物語にとって非常に価値のあるものだとも思いました。それに彼は若いけど、どこか古風なところがあります。そこで私はジョシュのために脚本を書き直しました。

――本作を作るうえで影響を受けた映画はありますか?

記憶に結びついた物語に取り組むときは、必ず何らかの作品の影響があります。私はむしろそれを「連想」と呼んでいます。私は多くの墓泥棒に取材をしましたが、彼らはよく「神聖な場所に侵入すると、その場所に酸素も入り込むのでフレスコ画の色が落ちてしまうことがある」と言っていました。その話を聞いてすぐに「フェリーニのローマ」でまるっきりその出来事が描かれるワンシーンを思い出しました。もしかしたらフェリーニには墓泥棒の友人がいたのかもしれませんね。また、私にはロベルト・ロッセリーニの映画にも縁があるし、社会の片隅に住む人々を描くときにはパゾリーニの映画も思い浮かべます。

画像6(C)2023 tempesta srl, Ad Vitam Production, Amka Films Productions, Arte France Cinema
――劇中では「廃駅」に集まる女性たちのコミュニティが描かれますね。より良い共同体のあり方のようなものを示唆しているのでしょうか。

本作では、過ぎ去った過去の遺物が誰のものか、そして誰がそれを覚えているのかについても描いています。私は最終的に誰のものでもなくて、みんなのものになる場所が欲しかったのです。「死」や「死後」の世界といった悲劇的なテーマを扱った映画のなかで、ささやかな希望の兆しとして、生命が生まれ変わる廃墟のような場所を。本作で描かれる男性のキャラクターたちは男性らしさを強いられているともいえますが、その代わりに物を壊すのではなく生き返らせる女性たちについても語りたかったのです。

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