【「HOW TO HAVE SEX」評論】初体験後の目に映る世界がガラリと変化する演出が印象深い
2024年7月14日 07:00
主人公は、クレタ島のリゾート地マリアへ卒業旅行にやって来た16歳のイギリス女子3人組。いちばん遊び慣れているスカイ(ララ・ピーク)はグループの仕切り役、成績優秀で同性愛をカミングアウトしているエム(エンバ・ルイス)は何でもそつなくこなす知性派、3人の中で唯一バージンのタラ(ミア・マッケンナ=ブルース)は小柄で人なつっこい妹キャラだ。
このタラに対するスカイのマウントの取り方がハンパない。タラがパーティやクラブへ着ていく服は、すべてスカイが決める。ロスト・バージンに関しては、「この旅でやれなきゃ一生無理だね」と挑発する。さらに、タラをナンパした男子に対してはタラが処女であることをバラし、タラには「あっちを狙えば? イヤなら私がもらう」と、別の男子をすすめる。そんなスカイのプレッシャーに「バージンじゃ死ねない」と応じ、誰でもいいから早く初体験をすませたいという思いをエスカレートさせるタラ。
10代の女の子が同性から受ける性的な同調圧力については、42年前に作られたエイミー・ヘッカリング監督の「初体験 リッジモント・ハイ」でも取り上げられていたが、「HOW TO HAVE SEX」は、これをメインテーマに据えている。「いちばんやった人が賞品ゲット」というスカイの言葉に張り合うような気持ちで初体験に挑んだタラが、何に傷つき、何を失い、何を得たのかを、モリー・マニング・ウォーカー監督はデリケートな内面にまで踏み込んで描いている。
3人娘がクラブやプールではじけまくる前半と、タラの初体験後を描く後半で、タラの目に映る世界がガラリと変化する演出が印象深い。夜通しリゾート客であふれるにぎやかな通りの情景は、これから起きることへのワクワク感をつのらせるタラの心情と呼応する。一方、ゴミが散乱する無人の通りは、目的を遂げたのになぜかハッピーになれないタラの心象風景を表している。初体験後のタラの胸に悲しさや虚しさがわきあがってくるのは、期待と現実にギャップがあったからというより、期待が勘違いでしかなかったことに気づいたからだろう。
そして、これはセックスに限った話ではない。何かを体験したら自分は変われる、大人への扉がパッと開かれるといった漠然とした期待が、単なる幻想にすぎなかったと思い知らされる。普遍性のある感覚に共感のポイントを持ってきたところに、この映画の優しさがある。
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
ザ・ルーム・ネクスト・ドア
【魂に効く珠玉の衝撃作】「私が死ぬとき、隣の部屋にいて」――あなたならどうする?
提供:ワーナー・ブラザース映画
キャプテン・アメリカ ブレイブ・ニュー・ワールド
【本作は観るべきか、否か?】独自調査で判明、新「アベンジャーズ」と関係するかもしれない6の事件
提供:ディズニー
セプテンバー5
【“史上最悪”の事件を、全世界に生放送】こんな映像、観ていいのか…!? 不適切報道では…?衝撃実話
提供:東和ピクチャーズ
君の忘れ方
【結婚間近の恋人が、事故で死んだ】大切な人を失った悲しみと、どう向き合えばいいのか?
提供:ラビットハウス
海の沈黙
【命を燃やす“狂気めいた演技”に、言葉を失う】鬼気迫る、直視できない壮絶さに、我を忘れる
提供:JCOM株式会社
サンセット・サンライズ
【面白さハンパねえ!】菅田将暉×岸善幸監督×宮藤官九郎! 抱腹絶倒、空腹爆裂の激推し作!
提供:ワーナー・ブラザース映画
激しく、心を揺さぶる超良作
【開始20分で“涙腺決壊”】脳がバグる映像美、極限の臨場感にド肝を抜かれた
提供:ディズニー