【インタビュー】平泉成、俳優生活60年から振り返る「縁」 三隅研次監督、市川雷蔵さんとの思い出
2024年6月8日 09:00
平泉成にとって、俳優生活60年で初めての主演映画「明日を綴る写真館」が公開を迎えた。大映京都第4期フレッシュフェイスとしてデビューを果たし、コツコツと実績を積み重ねてきた。映画出演本数は130本に及ぶなかで、思い出深い先輩たちとのエピソードを含め、平泉に話を聞いた。(取材・文/大塚史貴)
平泉は、「誰かが書いたシナリオをもとに、与えられた役を演じていくわけです。極力、役に忠実にやりたいと思いつつ、肉体を使ってだから難しいこともある。基本的に、上手く出来るか否かは別にして、よそ様の居間に土足であがるような芝居だけはしたくないな。そこは注意しようと、いつでもそれをベースにしています」と、演じるうえでの大前提を語る。
「ちゃんと靴を脱いで、ご挨拶をしてからあげさせてもらう。自分だけ勝手にやればいいってもんでもない。とにかく台本をよく読む。自分が何を演じればいいのかを何度も探す。自分と役との接点を見出し、それを出来るかを探っていく。そこに尽きますね」
映画は、さびれた写真館を営む鮫島(平泉)の写真に惹かれた気鋭の若手カメラマン・太一(「Aぇ! group」の佐野晶哉)が、自分の仕事を投げ打ってでも弟子入りを志願するところから物語が動き出す。年齢も考え方も全く違うが、“自分に素直になれない”という共通点を持つふたりが、人々の抱える“想い残し”のために奔走する過程で自らと向き合い、やがて思いもよらない奇跡を起こすさまを描く。
圧倒的なお茶の間認知で国民に親しまれる名優・平泉の主演作とあって、今作には実に豪華な顔ぶれが集った。佐藤浩市、吉瀬美智子、高橋克典、田中健、美保純、赤井英和、黒木瞳、市毛良枝といった芸達者な面々が脇をグッと固め、若手の佐野や嘉島陸が臆することなく自らの役どころと向き合っている。
今作は、「20歳のソウル」で仕事を共にした秋山純監督からのオファーを受けてのもの。「偶然」でも「必然」でもなく、長きにわたり「縁」を紡いできたことが結実したともいえるのではないだろうか。俳優業を60年続けてきた平泉の胸中に強く残る、「縁」にまつわるエピソードに思いを馳せ3もらうと、「座頭市」シリーズや市川雷蔵主演の「剣」3部作、「眠狂四郎」シリーズで知られる三隅研次監督とのエピソードが出て来る、出て来る……。
「三隅研次監督には可愛がってもらいましたね。セリフをひと言ももらえなかった時代に、『おっさん、今度監督やるから、ひと言セリフをつけておいたからな』って声をかけてもらってね。『わしゃあ、おっさんで三島由紀夫の“午後の曳航”を撮りたいと思ったんだけど、ダメだった(企画が通らなかった)なあ』と言ってくれたりね。
僕らの時代は、若手はエキストラからのスタートなんです。雷蔵さんの横を歩いたら、三隅先生が『おっさん、仕事へ行くのか、帰るのか?』って聞いてくるんです。若かったから、エキストラだし歩くだけだろうと思っていたんですよ。台本も読んでいなかったしね。先生が『ちょっとライティングとかやっているから、俳優側に行ってこのシーンを読んでこい!』と言ってくださったので飛んで行ったら、朝の設定だった。
『朝でした!』『朝ということは、これから仕事へ行くんだろう? だったら、そういう風に歩かなければダメだろう。今日も頑張るぞ! なのか、嫌だなあ…なのか。さあ朝だ、仕事だと行くことによって、その空気がオープンセットに出来るんだ。空気が出来上がったとき、真ん中に主役がスッと入って来るんだ。これが大事なんだ。おまえたちは、ただ歩きゃいいってもんじゃない。ちょんまげ付けながら白い下着が見えたらまずいだろう? そういう空気を作ることこそが、映画に参加するうえで一番大事なことなんだ。エキストラだからといって、いい加減なことをしちゃダメだよ』と叱ってくれたことが、今の僕の役者としての礎になっているのかな。
雷蔵さんも『おっさん、今日暇かい?』って声をかけてくれて、『はい、暇です』『わしの代わりに京都会館まで舞台観に行ってくれるか?』『いいですよ』『あとで切符を届けさせるからな』ってね。お付きの人が届けてくれた封筒を開けてみると、切符と小遣いが入っているんです。舞台を観た後にちょっと飯食って帰れるようにね。金がない時代だったから、嬉しかったなあ。
舞台には、俳優座や文学座の監督たちも来ていて、観賞後に近所の喫茶店に集まるわけです。僕もその隅っこに座って話を聞かせてもらいました。雷蔵さんにも、よくしてもらった。後から、どうしてなんだろう?と考えてみたんですが、『平泉成もいい子だけど芝居が下手だから、もう少し勉強させないとダメだ。切符だけじゃ行かねえから小遣いも入れて行かせよう』と考えてくれたんじゃないかなあ……ってね。雷蔵さんだって当時33、34歳くらいですよ。それくらいの年でそういう気配りが出来たんだねえ。本当にお世話になったなあ」
質問や言葉を差し挟む必要がないほどに、往年の映画人たちとのやりとりに胸が高鳴ってくる。筆者が、最も血沸き肉躍る取材は映画の撮影現場にあると伝えると、満面の笑みで「分かるよ!」と同調してくれた。平泉がこれまで撮影現場で目の当たりにしてきた、目に焼き付いて離れない光景について聞いてみた。
「色々あり過ぎて、一瞬にして思い出すことは難しいなあ。『大魔神怒る』に出演した時は、主演の本郷功次郎さんに『おい、おまえの水着も持って来てやった。ちょんまげ付けたままでいいから、着物脱いで一緒に泳ごう』って誘われてね。三隅先生たちも見ていたので、『やばいんじゃないですか?』と躊躇したんですが、『大丈夫だよ。首だけ出してこうやって泳いでりゃ』って誘われるがまま海に入っちゃってね。
福井の小浜の入り江だったなあ。なんだかんだ言いながらも『気持ちいいですね』なんて言いながら泳いでいたら、『本郷くん!』って三隅先生に呼ばれて、説教を食らっているんですね。先輩は主役だから怒られているのかなと思ったら、『平泉くん!』って呼ばれた。『このアホにかつらが何で出来ているのか、床山さん1日かかってもいいからゆっくり教えてやって』と怒られ、かつらが塩水に浸かるとどうなるかということを勉強させてもらいました。
とにかく終わった。良かった、良かった、と京都の撮影所に帰ったら翌朝、俳優課長が飛んできて『きみ、すぐに所長室へ行け』って。鈴木晰成さんという所長に『昨日は立派なことをやったらしいなあ。若いうちはそれくらい無鉄砲でもいいけど、そんなバカなことばかりやってちゃダメだぞ』と注意を受けました。でもなんか褒められた気がしてね。『たまには部屋へ遊びに来なさい。お客さんがいなかったら、いつでも来ていいぞ。若いうちはそれくらい元気な方がいい』とまで言ってくれて、ありがたかったですね」
いつまででも聞いていたくなる、在りし日の映画業界の“温もり”の溢れる思い出話。今作では、佐野や嘉島といった若手勢がベテラン陣の胸を借りて現場に臨んだことは想像に難くない。平泉は、息子役に息吹を注いだ嘉島の現場での姿勢を見逃すことがなかった。
「嘉島陸は丁寧な芝居をしていましたね。カメラが僕や佐野くんの方しかとらえていない時でも、嘉島くんが隅っこの方で必要な芝居をきちっとやっているんです。なかなか良い役者だと思いましたよ。出来上がった映像を見ても改めてそう感じましたし、彼はもっと評価されていい役者ですね。これからが楽しみな俳優のひとりです。一番大事なところできちっとやっている。いい役者ですよ。今回は若手が皆、良かったよね」
本編中には、印象的なセリフが幾つもちりばめられている。「被写体を撮ることだけが写真家の仕事じゃない」「最高の瞬間があるから、最高の写真が撮れる」など。平泉にとって、俳優人生における最高の瞬間がどのようなものか聞いてみた。
「今回みたいな瞬間なんだろうねえ。試写会の時に、思わず涙がにじんでしゃべれなくなっちゃったんだけど、今まで味わったことのない瞬間だったなあ。僕も突っ張って生きてきたつもりなんですが、妙に謙虚になっちゃった。こういうのを最高の瞬間っていうんだろうね。
完成した映画を観ても、良い手本みたいな作品になった。理屈っぽくないし、ただ普通に生きている人たちの優しい心を見せている。そこから学ぶことが山ほどある作品だったなあって改めて感じますね」
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