「アニマル ぼくたちと動物のこと」監督が製作を述懐「私にとっても発見の旅だった」
2024年6月1日 10:00
動物保護と気候変動問題に取り組むティーンエイジャーが、解決策を見出す旅をするドキュメンタリー映画「アニマル ぼくたちと動物のこと」が6月1日より、東京・イメージフォーラムほか全国順次公開される。監督は、共同監督を務めた前作「TOMORROW パーマネントライフを探して」(15)がフランスで110万人を動員したシリル・ディオン。主人公たちと共に養兎業者からコスタリカなどを訪問したディオン監督は「私にとっても発見の旅だった」と製作を振り返った。(取材・文/中山治美)
環境活動家でもあるディオン監督は、科学者の「今のライフスタイルを続けていれば、人類は滅亡する」という警鐘を受け、仏女優メラニー・ロランと共に「TOMORROW パーマネントライフを探して」で持続可能な未来を考えた。その際、科学者たちが過去40年間で多くの種が大量に姿を決しており「6度目の大量絶滅到来」を唱えていることに注目。当然”種”には人類も含まれ、そもそも未来に私たちは存在していないかもしれないと懸念したという。
なぜこのような状況に陥ったのか? それを探るべく今作を企画。旅のパートナーとして声を掛けたのは、環境活動家グレタ・トゥーンベリが主体となって始まった気候変動学校ストライキに参加していたパリ在住のビプランと、SNS上で環境問題と野生動物の保護について言及していたロンドン在住のベラ。同じように未来に危機感を抱いている若い世代と、現実を知り、未来へのヒントを掴むのが目的だ。
2人を選んだ理由について、ディオン監督は「共に成熟した言葉を持つが、ビプランはスリランカからの移民で、ベラは裕福な家庭の英国人。社会背景が異なる2人が現実を前にした時、違った視点をもつのではないか?と期待しました。特にビプランは出会った当時は15歳。体も小さく、声変わりもしていなくて、発言とのギャップに惹かれました」と言う。
ドキュメンタリーとはいえ、事前の構成が存在するのが常だ。本作も当初は、古生物学者アンソニー・バルノスキーからは種の絶滅の5つの原因(気候変動、戦略的外来種、環境汚染、乱獲、生息環境の破壊)を学び、それぞれの解決策を見出してくれる人物に会う予定だったという。しかしディオン監督は「撮影を初めて、これじゃつまらないなと。彼らが実際に体験し、どういう反応をするか捉えていく方が面白いのでは?」と方針を変えたという。
その思惑に則って撮られた彼らの正直な反応は、観客の心も動かすに違いない。畜産現場では劣悪な環境に驚愕しつつ、自分たちが生きる為に効率的な飼育をせざる得ない彼らの胸の内を知る。欧州議会では、私利私欲を優先し乱獲対策に乗り出さない議員を追及すべく突撃取材も試みる。一方で、チンパンジー研究の第一人者ジェーン・グドールやコスタリカ共和国前大統領ら、すでに人間と動物の共生に取り組んでいる有識者らと対面し、彼らの含蓄ある言葉に瞳を輝かせた。
撮影中、ディオン監督は2人に取材で感じたことを日記に綴るように要望し、感想は編集やナレーションに生かされているという。ディオン監督は「彼らには強烈な体験をすることで視野を広げて欲しいという思いがありましたが、期待通りとなりました。中でも人間に憎悪を抱いていたベラが、哲学者のバティスト・モリゾから『人も生き物。生き物を保護したいのであれば、人間もその一部』と諭される場面は大きな気づきとなりました」。
本作は22年のカンヌ国際映画祭で上映され、反響を呼んだ。その後ベラは、書籍「The Children of the Anthropocene」(人新世の子供たち)を出版し、環境保護活動家の新世代のリーダーとして注目されている。ドキュメンタリーの製作にも挑んでいるようだ。一方のビプランも著書「Autonomies Animales」(動物の自主性)を出版し、大学で学びながら環境保護活動を続けている。
ディオン監督は現在も2人と連絡をとっているそうで「ビプランは気候問題の専門家になりたかったようだが、今回の体験でそれが全部ぶっ飛んでしまったようだ(苦笑)」と目を細めながら近況を語った。地球の未来を考える映画で、2人の成長が何よりの希望の光となったようだ。
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