【「革命する大地」評論】ペルーを変えようとした男と37本の映画が語りかけること。
2024年4月28日 15:30
この作品を観て、幼少期の記憶が蘇った。戦後、未来を切り拓くために祖父は親族とペルーに渡り、滋賀の片田舎で小さな靴屋を始める資金を手に帰国した。学校の教室には早逝した彼が贈ったタイマイ(亀)の剥製が飾られていた。
小学生の頃、ペルー在住の叔父が帰国。日焼け顔でポール・アンカに似た快活な人だった。その後、祖母の甥っ子ヴィクトルがジョニ赤を手土産に来訪し、生まれて初めて名刺をもらった。ペルー生活の名残で“ママ”と呼ばれていた祖母は、フライパンのことをサルテン、実家の廊下に鎮座する船便用の大きなトランクをバブルと呼んでいた。祖母の死から約30年後、父はリマを訪れた。フジモリが政界に現れる前のことだ。現地到着後、高度障害による嘔吐感を抱えながら脂ぎった料理で歓待されたと苦笑いしていた。
1982年、リマに生まれたゴンサロ・ベナベンテ・セコ監督の社会ドキュメンタリー「革命する大地」は、1968年10月3日に起こった軍事クーデターによる革命の顛末を軸に、不確かな時代を生き抜いてきた先住民の辛酸と確かさを求め続けたペルーの近代史を俯瞰する意欲作だ。
15世紀、この地に暮らすインディオは忽然と現れたスペイン人に支配された。背丈の差、装いの違い、何よりも武器を携えた支配欲旺盛な征服者に大地は奪われ、瞬く間に半奴隷化されていく。広大な土地で貴族が我がもの顔に振る舞い、人と諍うことを知らない原住民は従順に従った。
1968年、スペインの支配が400年以上続いた国に、社会を根底から変えようとした男、フアン・ベラスコ・アルバラードが現れる。無血の軍事クーデターによって政権を手中に収めると革命を旗印に機敏に動いた。アメリカ支配下の石油精製所を取り戻し、農地改革断行によって広大な土地を有する地主を駆逐する。石油だけではなく重要産業を国有化し、先住民族の言語のひとつであるケチュア語を公用語にするなど、ベラスコは貧困に喘ぐ人々への救済とインディオの誇りを取り戻すための措置を次々に講じていく。
未来への希望をもたらし民衆から愛されたベラスコの性急な革命は、脈々と積み重ねられた社会構造と利権を狙う列強の思惑、理想と現実のギャップなどが重なって停滞していく。しかも、政権内では独裁者だった彼は、決して「NO」を受け入れなかった。1973年に病魔に冒され右足を切断、体調の悪化で求心力を失い1975年に失脚した。
ベラスコとは英雄か、それとも悪党か。不確かな社会の在り方を、より確かなものにするために奮闘したリーダーの肖像を通して、ペルーが直面した社会体制の変遷と人々の意識の変化が語られていく。
若き監督は、膨大なアーカイヴに37本の映画を引用してペルーの支配構造の変遷を浮き彫りにする。スペイン人の立ち振る舞い、民衆たちの蜂起、先住民の原風景、ベラスコ革命の矛盾、地方出身者を主人公にした喜劇、都市化による暮らしの変化など、まさにベルーの映画史とも呼べる映像となっている。個人の記憶を共有することは叶わない。だが、時代を描き続けてきた映画は違う。選び抜かれた37作品には、映画だからこそ伝えられる「確かさ」がある。
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