【「RHEINGOLD ラインゴールド」評論】望むは金、力、それとも愛? 巨匠ファティ・アキンによる“アンチヒーロー探求”の現在地
2024年4月14日 14:30

原題「Rheingold」は「ラインの黄金」を意味するドイツ語で、19世紀の作曲家リヒャルト・ワーグナーが書いた4部構成の楽劇「ニーベルングの指環」の第1部にあたる曲の名称。そのプロローグでは、ライン川の底で3人の乙女たちが守る黄金から造る指環で無限の権力を得られると聞き、ニーベルング族の長が黄金を奪い去る。
映画では序盤、幼少の主人公ジワが音楽家の父と訪れたボンのオペラハウスで、この曲のリハーサルが行われている。「ラインの黄金」って何と問われた父親は、「人を不滅にする黄金だ」「手にした者は二度と手放さない」と言う。
「RHEINGOLD ラインゴールド」は、イランでクルド人の両親のもとに生まれたのち家族と共に亡命し、移住したドイツでドラッグの売人、用心棒、金塊強盗、国外逃亡を経て送還・投獄されるも、刑務所内で制作したアルバムをヒットさせた実在のラッパー・音楽プロデューサー・実業家、カター(クルド語で「危険」)の波乱に満ちた半生を描く伝記映画。監督のファティ・アキンもトルコ移民二世であり、ドイツにおける民族的マイノリティという点が共通するほか、かつてバンドマンやDJとして活動した経験もある。この異色のスターの自伝を読んで魅了され、映画化に動いたのも不思議ではない。
「愛より強く」でベルリンの金熊賞、「そして、私たちは愛に帰る」でカンヌの脚本賞と観客賞、「ソウル・キッチン」でベネチアの審査員特別賞と、30代にして三大映画祭すべてで受賞を果たし若き巨匠となったアキン監督。だが、人種差別者のテロでトルコ移民の夫と息子を奪われた女性が復讐に向かう「女は二度決断する」(2017)、醜い外見で孤独な男が4人の娼婦を殺害した実話に基づく「屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ」(2019)、そして本作を含めた直近の長編3本ではいずれもアンチヒーローの主人公を描いているのが興味深い傾向だ。差別が根強い社会で、真っ当な生き方では幸せになれないと悟った者が、法を破り罪を犯してまで目的を成し遂げようとする。分断が深まり不安と閉塞感が募る21世紀の世界で、アンチヒーローがもたらすのは現状の打破か、それとも破滅的な悲劇か。アキン監督自身、近年の諸作を通じて答えを探し求めているようでもある。
楽劇「ラインの黄金」の中で乙女たちは、愛を諦めた者だけが黄金の魔力を得られると話す。カターは果たして、奪った金塊を隠し持ったまま成功を手にしたのか。それとも、金塊を諦めたことで真の愛を得たのか。どちらにも解釈できるファンタジックなラストが心憎い。
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