「マリオ」のメガヒットで注目のイルミネーション 最新作「FLY! フライ!」はどのくらいまで“高く飛べる”?【コラム/細野真宏の試写室日記】
2024年3月16日 09:00
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映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)(文/細野真宏)
今週末の3月15日(金)から、イルミネーション最新作「FLY! フライ!」が公開されています。
今や「世界的に最も安定感のあるアニメーションスタジオ」となった「イルミネーション(Illumination)」。
イルミネーション初の映画「怪盗グルーの月泥棒」(2010年)がいきなり世界的に大ヒットし、その映画で登場したバナナのような黄色い小さなキャラクター・ミニオンが大きなカギを握ることになります。
当初、「全く新しいスタジオで、全く知られていないキャラクターの映画」がどれだけ受け入れられるのかと考えると、勝算はかなり低いはずでした。
ところが、日本でも子供を中心にミニオンに注目が集まり、興行収入12億円と、いきなり10億円を突破したのです。
そして、今では「イルミネーション作品」であることの紹介の際には、「ミニオンズのイルミネーション最新作」といった形になっていて、スタジオの象徴的なキャラクターにまでなっているのです。
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この流れがあるので、「怪盗グルー」シリーズが世界的にどんどん人気が高まっていくのは容易に理解できます。
ただ、「怪盗グルー」シリーズだけに留まらず、イルミネーションは2016年に大きな勝負に出ます。
新キャラクターの「ペット」と「SING シング」という“全く新規のオリジナル作品”を夏と冬に劇場公開したのです。
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これも当初は厳しいのかもしれない、といった危惧もありましたが、「ミニオンズのイルミネーション最新作」というブランドが功を奏したようです。
新規のキャラクターながら、「ペット」は日本で興行収入42.38億万円、「SING シング」は興行収入51.1億円という大ヒットを記録しました!
その結果、「怪盗グルー」シリーズに加えて、「ペット」シリーズ、「SING シング」シリーズも生まれたのです。
そんな中、大きなニュースとなったのが、任天堂の「スーパーマリオブラザーズ」の映画化の話で、「イルミネーション×任天堂」という組合せ。
日本のコンテンツの海外映画化は、たいていは上手くいかないといったイメージがありますが、このニュースに触れた時に、私は妙に落ち着いていました。
それは「不安より期待の方が大きかったから」です。
そのくらい「イルミネーション」というスタジオにはポテンシャルを感じていたのです。
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そして「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」として2023年4月に公開されましたが、厳しめの批評で有名な「Rotten Tomatoes」における批評家の評価は59%と低めになっています。(2024年3月14日時点)
これについては理解できなくもなく、「映画」としてだけ厳しめに見れば、「深みがない」などの批判要素が出てきます。
とは言え、イルミネーション作品とは、そもそも「エンターテインメントの塊」のようなイメージなので、私は試写時点で「これは日本では興行収入100億円を超えるメガヒットになるだろう」と想定していました。
そして、公開されると世界中で大ヒットし、日本では興行収入100億円を優に超えて、興行収入140.2億円にまで達したのです!
このように、とても高い安定感を見せている「イルミネーション」が、実に7年ぶりに新規のキャラクターによるオリジナル作品を劇場公開することになりました。
その作品こそが本作「FLY! フライ!」で、まさに2016年の「SING シング」から7年が経っているのです。
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実は、イルミネーション作品における原題は、日本の配給会社の東宝東和によって上手く表現し直されていることが多くあります。
例えば第1作目の原題は「Despicable Me」となっていて、直訳すると「ひきょうな私」といった感じで分かりにくい作品名になります。
そこで日本では「怪盗グルーの月泥棒」という感じで、伝わりやすく、キャッチーにしているのです。
「FLY! フライ!」の原題は「Migration」(マイグレーション)で、一般には生物の「移動」を意味します。
本作では鳥がメインキャラクターなので「渡り」といった感じで、これについては決して分かりにくくはないです。
ただ、決してキャッチーではないため、日本では「FLY! フライ!」というように変えることで、より意味が伝わりやすくなる工夫をしています。
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本作の私のイメージは、イルミネーション版の「ファインディング・ニモ」といった感じです。
「怖がりな現状維持派の父親に対して、子供は自由に動きまわれる世界に憧れる」といった構造が同じです。
もちろん、本作は「子供を見つけに旅をする作品」ではありませんが(笑)。
ただ、「ファインディング・ニモ」では「海を大移動する物語」であり、「FLY! フライ!」は「空を大移動する物語」です。
では、「FLY! フライ!」は、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いのある「イルミネーション作品」なので、「ファインディング・ニモ」級にヒットするのかというと、そうとはならない気がします。
まず、「ファインディング・ニモ」は、私の中では「名作中の名作」で、なかなかここまでのクオリティーには達し得ない領域という位置づけです。
2003年に公開された「ファインディング・ニモ」は、日本での興行収入は110億円で、これは未だに「ピクサー作品の歴代興行収入ランキング1位」を保持しています。
冒険物語に加えて、離れ離れにある親子を2つの視点で非常に魅力的に仕上げ、第76回アカデミー賞では、アニメーション作品でありながら「脚本賞」にもノミネートされているほどです。
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それでは、「FLY! フライ!」は、どのくらいまで高く飛べるのでしょうか?
これはあくまで個人的な印象ですが、なぜだか「FLY! フライ!」の認知度は、そこまで高まっていないような気がしています。
「ファインディング・ニモ」は、主人公が「カクレクマノミの親子」で映像的にキャッチーで、「FLY! フライ!」の主人公は「カモの家族」でそこまでキャッチーではないからか?なぜか見る前のワクワク感が薄いような印象があるのです…。
とは言え、実際に作品を見てみれば、やはりイルミネーション作品。まさに「エンターテインメントの塊」に徹しています。
つまり、本作の成功への大きなカギは「口コミ」にありそうだと思います。
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加えて、本作と同時上映される短編映画「ミニオンの月世界」は、イルミネーション初の映画「怪盗グルーの月泥棒」の“その後”を描いているのです!
そして、「FLY! フライ!」の日本語吹替版は、堺雅人らが声優泣かせの上手さを見せ、私は字幕版と吹替版であれば「吹替版」を推します。
イルミネーションは、制作費のコントロールの上手さに定評があるスタジオです。
シリーズ化で徐々に膨らみかけていた制作費を、本作では初期の頃のようにコントロールしているので、本作の日本における成否ラインは興行収入10億円だと想定します。
目標は、第1作目の興行収入12億円の突破くらいに思えますが、果たしてどこまで高く飛び立てるのでしょうか?
上手く軌道に乗ることで「FLY! フライ!」シリーズといった形で「新たなイルミネーション作品群」となれるのかどうか、大いに注目したいと思います。
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