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【「ジャンヌ・デュ・バリー 国王最期の愛人」評論】この見たこともないルイ王朝秘話が今、作られた意味

2024年2月4日 20:00

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「ジャンヌ・デュ・バリー 国王最期の愛人」
「ジャンヌ・デュ・バリー 国王最期の愛人」
(C)Stephanie Branchu - Why Not Productions

フランス革命から遡ること約50年前、ヴェルサイユ宮殿で周囲の目も憚らず愛を確かめ合ったルイ15世と、王にとって最期の“公妾”と呼ばれたジャンヌ・デュ・パリーの物語。ジャンヌに“公妾”という奇妙な名前がついたわけは、未婚女性が国王の寵愛を受けるのはタブーだった時代に、貧しい家に生まれた彼女が身請人のデュ・バリー伯爵と正式に結婚することで、貴族の地位を手に入れたからだった。そもそも貴族ならば王の愛人になれるのか?という疑問に始まり、この映画ではとんでもない宮殿の掟が次々と紹介され、恐らくフランス王朝に詳しい人もそうでない人も興味をそそられるに違いない。

鏡の回廊での謁見で王に気に入られたジャンヌを待っていた、床入り前のえげつないボディチェック、王に背を向けてはならないという決まりから宮殿の人々に義務付けられるユニークな後退り方、朝、目覚めたばかりの王を待っていた健康診断と列をなす多くの訪問者たち、等々。随所に登場する珍場面はまさに目から鱗だが、王の侍従や娘たちによる根強い差別や冷徹な視線をもろともせず、王の愛だけを信じて自由奔放に突っ走るジャンヌ自身が、物凄い牽引力で物語を引っ張っていく。

本作のヒロインはそれほどパワフルだ。演じるのがカリスマのあるフランスの人気俳優ではなく、監督と脚本を兼任するマイウェンで良かったのかどうか、という疑問は確かにある。しかし少なくとも、多くの観客がジャンヌにシンパシーを感じやすいキャスティングだったことは言えるかも知れない。一方、ルイ15世を言葉少なに、且つ飄々と演じるジョニー・デップの、ハリウッドとヨーロッパの中間地点に立つ独特の存在感にも惹き込まれる。フランス語の台詞が流暢なのは台詞自体が少なかったという理由だけじゃないと思う。

やがて、王は死の床に伏し、ジャンヌのヴェルサイユでの日々にも終わりが訪れる。その後に勃発したフランス革命により王政は撤廃されるわけだが、革命前夜のヴェルサイユには“公妾”と呼ばれても、挫けず、毅然と生き抜いたジャンヌ・デュ・バリーがいた。彼女が遺した、『私は人生を愛し過ぎた』という言葉からは、いかなる時代の変化にも芯の部分で翻弄されない女性の強さが垣間見えて、本作が今、作られた意味が分かる気がするのだ。

(清藤秀人)

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