山田杏奈、女優デビュー10年を経て出合ったはまり役は「アシリパ」【「ゴールデンカムイ」インタビュー】
2024年1月18日 19:00
女優の山田杏奈が、シリーズ累計2700万部を超える野田サトル氏の人気漫画を実写映画化する「ゴールデンカムイ」に出演し、アイヌの少女・アシリパ(※アシリパの「リ」は小文字が正式表記)を好演している。オーディションを勝ち抜いて手にした大役にどう対峙したのか、話を聞いた。(取材・文/大塚史貴、写真/間庭裕基)
原作の世界観を知る人ならば、今作の実写化がいかに困難を極めるか、誰もが考える間もなく同調するのではないだろうか。明治末期の日露戦争終結直後の北海道を舞台に、主人公の杉元佐一(山崎賢人/崎はたつさきが正式表記)が、アイヌの少女・アシリパ(山田)と共に埋蔵金の在り処が描かれた「刺青人皮(いれずみにんぴ)」を求めて旅をする姿を主軸に描く。ひと癖もふた癖もあるキャラクターたちが繰り広げる埋蔵金争奪戦だけではなく、北海道やアイヌの歴史、狩猟、グルメなどの文化的要素を丁寧にすくい取っていることも、作品の評価を高めていた。
『山田杏奈で良かった』と思っていただけるように…」
山田が扮したアシリパは、原作ファンから愛される人気キャラクター。自然の中で生きるための豊富な知識を持ち、北海道の過酷な大地で生きる少女で、ヒグマに襲われた杉元を助けたことから相棒として旅をすることになる。その胸中には、金塊を奪った男に殺された父親の仇を討ちたいと秘めているという役どころだ。
山田はこの絶大な認知度を誇るアシリパという役を“生きる”うえで、いかに気持ちを固め、どのようなアプローチで役への理解を深めていったのか興味を抱いたのだが、こちらの意図を見透かしたかのように、どこまでも自然体の答えが返ってきた。
「人気の作品ですし、もちろんプレッシャーはあるにはあるのですが、私でいこうと決めてくださった方々が『山田杏奈で良かった』と思っていただけるように思い切りやりたいと思いました。そして、原作のアシリパは芯が強く、自分の気持ちを合理的に考えている人だと感じていたので、その良さがしっかりと芝居で出せるようにしたいと思っていました」
原作では、アシリパに関して明確な記述はないが年齢設定は幼いように見受けられる。製作サイドで様々な議論はあったようだが、確かな演技力と今作にかける思いと覚悟が決め手となった。そして本編を観れば、山田が芝居を通してアシリパにとことん寄り添い、並走していることがうかがえる。
「幼くしようとはあまり考えていなかったんです。それよりも心情的な部分に寄り添って、しっかりと彼女の理解者にならなければと思いました。もちろん原作ありきではありますが、作品世界で生きている、地に足の着いた人に見えたらいいなと考えていたので、ちゃんと感情移入してもらえる人物になればと思ってやっていました」
アシリパを地に足の着いた人物に見せるうえで、山崎賢人(主人公・杉元役)、矢本悠馬(脱獄王の異名を持つ天才脱獄犯・白石由竹役)との掛け合いが重要な役割を果たしている。アクションも、コミカルなシーンも、山田を含む3人の絡みは観る者の目を和ませ、飽きさせないのだ。それぞれの役回りを明確に理解する年長者ふたりに対し、山田は敬意を隠さない。
「山崎さんは数々の映画に主演していらっしゃるので、凄く器用な方なのかと思っていたんです。実際にお会いしてみたら、もちろん器用だとは思うのですが、それ以上に凄く愛をもって、熱をもって、色々なことをなあなあにしないで向き合っていく姿が座長として素晴らしいと感じました。
矢本さんは……、『矢本さんが白石で良かった』と思わせてくれます。杉元とアシリパだけの芝居だと突っ込めないところでも、矢本さんが白石でいてくれることで、エッセンスをひとつ、ふたつと加えてくださるんです。それがまた、映画全体に凄く効いてくるので、とても頭のいい方だなと思いました。年下の私がおふたりに対して、こんなことを言うのはおこがましいのですが」
そしてまた、「オソマ(“うんこ”の意)美味しい!」などに代表される、今作がもつコミカルなシーンが原作に忠実に描かれていることも特筆しておかなければならない。今作に臨むに際し、「アイヌ文化への理解」という観点でも出来る限りの準備は怠らなかったようだ。
「文献的に取り寄せられるものは自分で買って勉強したりもしましたが、アイヌ語・文化監修の中川裕先生に教えていただく時間を作ってくださいました。大叔父役の秋辺デボさんも一緒に参加してくださって、家の中で家長はどこに座るのか、所作的な部分なども含めてお話を色々と聞かせていただきながら勉強していきました」
言うは易く行うは難し。こうした余念のない準備を地道に続けてきたことで、ドラマ「刑事のまなざし」での女優デビューから10年目という節目のタイミングでアシリパ役を自らの手元に手繰り寄せたといっても過言ではないだろう。これまでも「小さな恋のうた」の譜久村舞、「山女」の凛など、当たり役がなかったわけではない。ただそれ以上に、今作で息吹を注いだアシリパからは特別な“波動”を観る者に感じさせる。これまでの10年間、様々な局面でタイプの異なる覚悟を決めてきたであろう山田にとって、女優という職業について聞いてみた。
「女優デビューからは10年なんですが、人生の半分以上を芸能界でお仕事をさせていただいているんです。そうやって考えると、仕事をしていない自分が想像つかないというか……。最初から現在まで、ずっと『何でこの仕事をすることになったんだっけ?』と思っているのですが(笑)、結果的に自分の好きなことを仕事にできている。芝居を、この仕事を好きになれて良かったなと改めて感じているんです」
また、「TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ」で銀幕デビューを果たしてから8年。「名探偵コナン 11人目のストライカー」での声の出演も含めると、今作がちょうど映画出演20本目になる。今後も意義ある作品に出演し、名を刻んでいくうえで、山田自身が貪欲に追い求めようとしていることはあるのだろうか。
「映画って芸術作品ですよね。この仕事を始めてから、数え切れないほど多くの人が携わって映画を作っているんだということを初めて知るわけです。役者だけでなく、それ以上に各部署のスタッフひとりひとりが自分の出来る最大限のパフォーマンスを披露し、詰め込まれるからこそ作品になる。本当に面白い、興味深い文化だなと思います。
国を超え、時代も超えて伝わるものなので、文化的財産ですよね。そういうことに自分が作る側として関われているのは幸せなこと。まだ実感は湧きませんが、もしも将来この仕事を私がしていなかったとしても、自分の子どもや孫に何らかの方法で見せることができると思うんです。それって凄く素敵なことですよね。
そのうえで、柔軟でいることに貪欲、というのが私らしいのかなと感じています。その場で生み出されるものが好きなので、今後もそういう瞬間を見逃さないようにしていきたいなと思います」
アシリパ役に並々ならぬ思いを抱き、心血を注いだからこそ、山田の今作にかける熱は筆舌に尽くしがたい。
「今年も色々な作品に出演させていただく予定ですが、『ゴールデンカムイ』という私にとっても大きな意味を持つ作品がうまく発進できたら、その波に乗っていけるんじゃないかという気もしているんです。
今後は『アシリパを演じた人』という見られ方もするでしょうから、アシリパに恥じないような仕事ぶりでこの1年を過ごしていきたいと思っています。頑張ります!」
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執筆者紹介
大塚史貴 (おおつか・ふみたか)
映画.com副編集長。1976年生まれ、神奈川県出身。出版社やハリウッドのエンタメ業界紙の日本版「Variety Japan」を経て、2009年から映画.com編集部に所属。規模の大小を問わず、数多くの邦画作品の撮影現場を取材し、日本映画プロフェッショナル大賞選考委員を務める。
Twitter:@com56362672
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