【世界の映画館めぐり】台湾・花蓮 日本の建築をリノベーション、インディペンデント映画を上映する「花蓮鉄道電影院」
2023年12月30日 11:00
映画.comスタッフが訪れた日本&世界各地の映画館や上映施設を紹介する「世界の映画館めぐり」。今回は休暇で台湾を訪れた編集部スタッフが、日本とゆかりの深い花蓮市にある、「花蓮鉄道電影院」に行ってきました。
今回編集部スタッフMが訪れたのは台湾の花蓮市、東海岸の街です。2023年12月現在、日本から花蓮への直行便は運行されていないため、台北から新幹線や列車、バスで行くのが一般的です。飛行機は台北、高雄などから国内線が飛んでいます。
1895年(明治28年)から1945年(昭和20年)の約50年間、日本が台湾を統治していた時代があり、当時の花蓮には多くの日本人が住んでいました。現在、日本統治時代に建設された鉄道施設の一部が保存されている施設「花蓮鉄道文化園区」に、建物をリノベーションした小さな映画館「花蓮鉄道電影院」があります。
筆者は以前、沖縄の与那国島の交流館で与那国町と花蓮市が姉妹都市であることを知り、その歴史や地域性に興味を持ちました。二つの街の距離はわずか111キロ。国境の島、与那国島からは石垣島や沖縄本島よりも台湾の方が近いのです。東京都心から熱海や山梨県くらいまでの距離だと考えると、海を挟むとはいえその近さに驚きです。
成田から台北に向かい、1泊してから花蓮へ。とにかく街の名前が美しいですね。お釈迦様や天上界の方々が住んでいそうです。旅好きの筆者、初めての土地へ向かう時は毎度高揚感を覚えるものですが、今回は事前にリサーチした街の情報や映画館のコンセプトが素敵で、マッチングアプリで一目ぼれした相手に実際に会いに行くのって、こんな感じなのかな…といつも以上に期待が膨らみ、(花蓮とは何の関係もありませんが)旅の前後は大瀧詠一さんの「恋するカレン」のサビを口ずさむような日々でした。
ちょうどよい時間に到着する新幹線のチケットがたまたま完売だったため、区間快速で3時間弱の列車旅。大都会台北から、緑豊かな田園風景、山間部を通過したと思ったら、雄大な太平洋…と車窓の景色が次々と変わるので、長時間乗車も楽しめました。駅を降りると、のんびりした地方都市、という雰囲気が広がります。駅でレンタカー、バイク、自転車も借りられます。私は予約した宿までスマホを頼りに、迷いながら冒険気分で街歩き。にぎやかな看板の背後には山、というランドスケープも美しい!
ようやく「花蓮鉄道電影院」に到着です。瓦屋根の木造建築に中庭を有するこの施設は、レトロな味わいがあり、令和を生きる筆者にとっては、日本の時代物ドラマのリアルなセットみたい!というのが第一印象です。今の日本でも、このような建物を見られる場所は少なくなっているのではないでしょうか。週末の日中はフリーマーケットが行われ、市民の憩いの場になっているよう。夜間のライトアップも素敵です。
公式HP(https://hlfccinema.com/)によると、「商業映画館では見られない映画、地元の映画ファンのニーズを満たす」とあり、日本で言うところのいわゆるミニシアター系、インディペンデント映画の良作を上映する施設なのだそう。そのほか、敷地内には駅の施設の歴史についての詳しい展示やショップ、カフェもあり、施設から目と鼻の先に、東大門夜市があります。ここ一帯だけでも充実した休日の午後を過ごせること間違いなしです。
筆者はこの世界の映画館めぐりシリーズをいくつか書いていますが、語学が不得手な私のために映画の神様が救いの手を差し伸べてくれているのか…タイミングよく外国の旅先で日本映画を見られることが多いのです。もちろん、世界に通用する作品を生み出す日本映画界の力でもあります。今回こちらで鑑賞したのは市川準監督、イッセー尾形さん、宮沢りえさんが夫婦を演じる村上春樹氏原作の「トニー滝谷」(05)です。音楽は坂本龍一さん。今年亡くなられた坂本さん関連の記事をいくつか書いていたので、偶然のめぐり合わせに胸が熱くなります。
シアター内は、古い木造建築の趣が残っており、座席数は64席。レッドカーペットのような真っ赤な絨毯にターコイズの椅子が映えます。「トニー滝谷」は、20年近く前の映画ですが、20~30代とみられる若い観客が多かったのが新鮮でした。宮沢りえさん演じる妻の儚げな美しさが蜃気楼のように立ち上り、そして消えていく少し悲しい物語です。劇中では、主人公のトニー滝谷の父を紹介する場面で太平洋戦争時代の写真が出てきます。正直なところ、日本人の私にとってはここで見ることに複雑な気持ちも覚えました。
そして、エンドロールで坂本さんの静かで澄んだピアノを聞きながら、生前の坂本さんが音楽を手掛けたアニメ映画「さよなら、ティラノ」インタビュー時に、「国々が映画で結ばれることが素晴らしい」という旨のお話をしてくださった記憶がよみがえりました。後日、映画館運営者とお話ができ、「私たちは日本が大好きです。よく遊びに行くんです。『トニー滝谷』はとても美しい映画ですね」とコメントをいただき、旅先での忘れがたい映画鑑賞体験となりました。
「花蓮鉄道電影院」の12月の上映作品には「トニー滝谷」のほか、今年の東京国際映画祭でも上映された香港映画「年少日記」、ワン・ビン監督の最新作「青春」などがラインナップされています。女性監督作品、自然ドキュメンタリーなど様々なテーマに合わせた特集上映も行われていました。映画館運営に携わる方々は移動映画館を開催したり、映画に関する冊子も発行しており、市民に向けた良作インディペンデント映画普及への情熱を強く感じました。
花蓮を歩いていると、あれ、ここ昔の日本みたい。という景色に本当によく出くわします。歴史的価値がある建造物として、日本時代の建物が保存されているのです。この記事を読んで、興味を持ってくださった方に訪れてほしいのが「松園別館」です。1942年に兵士募集と兵役管理を行うために建設された旧日本軍の施設で、海を望む高台に位置し、和洋折衷の建築様式が目を引く館です。
敷地内には特攻隊が出征前に集った小屋もあり、リノベーションされています。当時の防空壕が保存されており、中に入って見学できます。ちょうど日本では「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」が大ヒット中ですが、多くの命が失われた悲劇を繰り返すことのないよう心から願うばかりですし、取り壊すこともできたこの施設を歴史を伝えるために残し、今は文化芸術の催しを中心に平和な活動の場として使ってくださっている花蓮市民に感謝ですね。
毎晩お祭りのような賑やかさの夜市、原住民の方々の文化を感じられるスポット、居心地のよさそうなレトロな路地裏のカフェ、国立公園の太魯閣渓谷、そして特色ある台湾グルメ…などご紹介したい場所は書ききれないほどですが、やはり花蓮で見逃せないのは雄大な太平洋の眺めです。海沿いにはサイクリングロードが設けられ、大理石の産地でもあることから、地元や各国の芸術家が手掛けた彫刻が並ぶ公園など、絶景スポットがあちこちに。
与那国島の最西端から海を眺めたときは、あの先に台湾があるのか…と異国へのロマンを掻き立てられましたが、今度は反対側から、あっちに与那国島があって、その先には沖縄、九州、そして本州という長い島があって…きっとこの時期は北の方では雪が降っているんだろうなあと考えたり、自分が日本という島から来たという視座で地球を捉えられるのが面白いのです。
花蓮の海を映画で見てみたい、という方には「彼方の閃光」(23)の半野喜弘監督、妻夫木聡さん、豊川悦司さんが共演した日台合作映画「パラダイス・ネクスト」(19)が、現在U-NEXTなどで配信中です。こちらも坂本龍一さんがテーマ曲を担当しています。
筆者は奇しくも、今年11月に那覇で開催された 第一回「Cinema at Sea 沖縄環太平洋国際フィルムフェスティバル」にも参加でき、日本や台湾をはじめ、太平洋の島々の文化的なつながりを強く感じたばかりだったので、今回の花蓮滞在は期待を超えたものになり、屈指のお気に入りの街となりました。
のんびりしていながらも程よく都会、治安も良く、便利で清潔な安宿から海辺のリゾート宿、そして高級ホテルまで選択肢もたくさん。時間が許せば、数日間滞在するのがおすすめです。映画館は、「花蓮鉄道電影院」のほか、「威秀影城」などIMAX対応のシネコンもあり、世界的ヒット作や最新台湾映画も見られます。台湾旅行を計画されている映画ファンは、豊かな自然があり、日本とつながりの深い歴史、文化を感じられる花蓮までぜひ足を延ばしてみるのはいかがでしょうか?
花蓮鉄道電影院公式HP(https://hlfccinema.com/)
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執筆者紹介
松村果奈 (まつむらかな)
映画.com編集部員。2011年入社。
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