【「香港の流れ者たち」評論】香港のアイデンティティを色濃く描き出した新世代監督によるニューウェーブ
2023年12月10日 19:30
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「香港の流れ者たち」は実際のホームレス荷物強制撤去事件から、香港の片隅で生きる人々に光を当てた意欲作だ。再開発の陰で追いやられるホームレス“流れ者”たちの排除問題を軸に、移民問題や薬物に蝕まれる貧困層など、様々な問題を浮き彫りにし、人間の尊厳やお互いを思いやる心について問いかけている。
主演は、ジョニー・トー監督作品などで知られる実力派俳優のフランシス・ン。トー作品で颯爽と銃を放つ裏社会の男を演じていた彼が、本作では薬物中毒のホームレスの人生の悲哀を表現し新境地を切り開いた。また、1990年代に活躍したロレッタ・リーが本作でカムバックし、チョウ・ユンファ主演「風の輝く朝に」などの作品で知られるセシリア・イップも特別出演するなど、香港映画を代表する俳優たちが集結。さらに「燈火(ネオン)は消えず」などの話題作への出演が続くセシリア・チョイや、ウィル・オー、チュー・パクホンなど、若手俳優たちの演技も新鮮だ。
そして、脚本と監督を手掛けたジュン・リーは1991年生まれで、名門香港中文大学でジャーナリズムを学び、ケンブリッジ大学でジェンダー研究哲学修士課程を修了したという異色の経歴の持ち主。社会派ドラマという枠を超え、ヒューマンドラマとして深い余韻を残す作品に仕上げ、2022年香港アカデミー賞で11部門、2021年台湾アカデミー賞で12部門を受賞するなど世界の映画賞を席巻し、新世代の香港映画を印象付けた。
スター俳優によるカンフーやポリスアクション、裏社会を描いたフィルムノワール、さらに若い映画作家たちによるニューウェーブの活躍により、1970年後半から約20数年にわたって世界の映画に影響を与えるほどの輝きをみせていた香港映画。だが、その後は徐々に勢いを失い、迷走を続けていたのは中国本土の映画市場の急成長が理由ではない。
1997年にイギリスから中国へ主権移譲、返還され、多くの映画人が海外へ流出したが、その後彼らの多くは香港に戻ってきた。しかし、2014年の香港反政府運動(雨傘革命)、2019年3月からはじまる香港民主化デモ、国家安全維持法の2020年6月30日施行、さらには「映画検閲(改正)条例案2021」の可決を経て、市民や香港映画はかつての活気を失っていった。
もちろんハリウッドで活躍しながら中国でも映画を撮り続けているベテラン映画人はいるが、香港では黄金期のような自由のある映画製作が、2000年以降の新しい世代にとっても制限されてしまったこと、国家安全の利益となるような企画が求められることも大いに影響していたものと思われる。
そのような状況が続く中、2022年に香港のアイデンティティを色濃く描き出した新人監督たちのデビュー作が軒並みヒット。「少年たちの時代革命」「私のプリンス・エドワード」「縁路はるばる」「星くずの片隅で」などの作品にカンフーやアクションはない。コロナ禍を経て、小規模ながら香港市民の心情や生活、中国本土との関係などを見つめた作品で、新世代による香港映画の新しい波を起こしている。
リー監督は「僕が関心を持っているのは、彼ら(ホームレス)の『現在』の生活と状態だ。彼らがどこの出身であれ、過去に何をしてきたかには関係なく、自分の尊厳のために戦う権利があり、人間として扱われ、尊重されるべきだと信じている」と述べている。フランシスやロレッタがホームレスを演じていることで、かつて隆盛を誇っていた香港映画の斜陽と重ねて見てしまうのは筆者だけではないだろう。新しい香港映画がどこへ向かおうとしているのかを指し示している1本である。
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