【インタビュー】黒柳徹子、現代を生きる子どもたちに薦める映画とは?

2023年12月8日 09:00


取材に応じた黒柳徹子
取材に応じた黒柳徹子

女優、タレント、司会者、エッセイスト、ユニセフ親善大使など、ありとあらゆる顔を持つ黒柳徹子が、幼少期の出来事を自伝的に綴ったベストセラーをアニメ映画化した「窓ぎわのトットちゃん」が、12月8日から全国で封切られた。同名原作を出版してから42年、熱いオファーを受け入れた黒柳はいま何を思うのか、話を聞いてきた。(取材・文/大塚史貴)

窓ぎわのトットちゃん」は、1981年に刊行されると大きな話題を呼び、中国語、英語、フランス語、ヘブライ語など20以上の言語で出版。世界累計発行部数は2500万部を突破するほど多くの人々に受け入れられている。

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黒澤明監督以外ほぼ全ての監督からオファー

約80年前、終戦の少し前の激動の時代を舞台にした今作は、何事にも好奇心旺盛な小学1年生のトットちゃんが主人公。落ち着きがないことを理由に通っていた小学校を退学になり、東京・自由が丘に実在したトモエ学園に転校するところから物語は始まる。強烈なトットちゃんの個性とお茶目な日常生活、子どもの自主性を重んじる教育を掲げるトモエ学園のユニークな校風、恩師となる小林先生や友人たちとの出会いに、誰もが「こんな学校に通ってみたかった」と思わずにはいられなくなるエピソードが描かれている。

原作発表直後から、映画化オファーは枚挙にいとまがなかったそうで「ものすごくたくさんの映画監督から映画にしたいと依頼がありました。よく冗談で言っているのですが、あの黒澤明監督以外のほとんど全ての映画監督から、ありがたいことにお手紙をいただいたのを今でも覚えています」と述懐。その中に、少しでも黒柳の心を揺さぶるようなオファーはなかったのだろうか。

「あったかもしれないですが、本を書いた最初の段階から、映像化するようなお話が仮にあったとしても私はお断りしようと思っていました。どなたからお話をいただいてもお断りしようと心に決めていたんです」

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そこには、黒柳なりの思いがあった。

「この物語は、これまでも映画化のお話をたくさんいただいてきました。でも、いわゆる実写で作っていただくと、どうしても私がイメージしているトモエ学園やお友だちの姿にはならないんじゃないかと思い、ずっとお断りしてきたんです。でも、今回、『アニメならどうでしょうか?』とご提案をいただきまして。私はアニメに詳しいわけじゃないんですが、アニメであれば幻想的な雰囲気にもなって、自分のイメージに近いものになるのかもしれないなと思いました」

黒柳を翻意させたのは、原作に惚れ込んだ「映画ドラえもん」シリーズの八鍬新之介監督の熱意だった。当初は黒柳にも戸惑いがあったものの、イメージボードを手に何度も黒柳のもとを訪れ説得を重ねたことが、映画化へ向けて大きく舵を切ることになる。

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映画は八鍬監督が脚本も兼ね、「映画ドラえもん」シリーズや「劇場版ポケットモンスター みんなの物語」の金子志津枝がキャラクターデザインを務めた。アニメーション制作は、アニメ「ドラえもん」「クレヨンしんちゃん」で知られるシンエイ動画が担当している。資料が豊富にあったわけではないであろうトモエ学園の描写や自由が丘の街並みなど、黒柳の心の琴線に触れることに成功したようだ。

「トモエ学園の生徒たちが授業を受けている様子や、ひとりひとりの子どもらしさがよく表現されていました。トットちゃんと泰明ちゃんの木登りのシーンも、当時の感じがとてもよく出ていましたね。小児麻痺の子ども(泰明ちゃん)を描くのはとても難しい作業だったと思います。泰明ちゃんとの思い出は、あの物語のなかで最も書きたかったことのひとつでしたから、あんなふうに生き生きと映像にしていただけて、とってもよかったです」

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■トットちゃんが当時もっとも心が苦しかったこと

そしてまた、戦争という穏やかでいられるはずがない世相はもちろん、大人のエゴや押し付けにより子どもが持つ無限の可能性を“奪う”ことが、どれほど罪深いかが本編からは見て取れる。

黒柳にとって、当時もっとも心が苦しかったのは「やっぱり男の人たちが兵隊さんになって出征させられていくところを見るのが、一番辛かったですね。本当に嫌ですね、戦争って」と言い切る。本編でも若者たちが出征するシーンは切り取られており、トットちゃんの心情が揺れ動くさまを確認することができる。

「この作品を通して、戦争は本当に良くないんだということや、やっぱり友だちには優しくしなきゃいけないんだということを、今の子どもたちが感じ取ってくれたらうれしいですね。きっと分かってもらえるだろうと思います」


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トットちゃんが通うトモエ学園の校長を務めた小林宗作先生に言われた「君は、本当はいい子なんだよ」という言葉が、実に大きな響きをもって観る者の胸中に染み込んでくる。当時、小林先生のような教育者の存在は、様々な個性を持つ子どもたちにとって大きな希望となったことは想像に難くない。

■いま子どもたちに薦める映画とは?

黒柳は、いま改めて「大人が子どもに接するとき、最も大事なのはどのようなことですか?」と小林先生に聞いてみたいと思いを馳せる。

「子どもたちが見られるか否か」。それが、黒柳が仕事を受ける判断基準になっている。「理解できる、できないかは別にして、やはり子どもが見ていいな……と思うものを見せるべきですよね」と話す黒柳にとって、いま子どもたちに薦めるとしたら、どのような映画をピックアップするだろうか。

「白い馬」
「白い馬」

「音楽学校に通っていた時代に観た映画で、白い馬が出て来るのよ。タイトルが忘れちゃったんですが……、そう、『白い馬』です。この映画は子どもたちに見てもらいたいですね」

1953年にカンヌ国際映画祭で短編グランプリに輝いた「白い馬」は、フランスのアルベール・ラモリス監督による名作ドラマ。南フランスの荒地に、野生馬が群れをなしていた。牧童たちは群れのリーダーである白い馬を捕獲しようと躍起になるが、なかなかうまくいかない。そんな中、同じく白い馬に魅せられた漁師の少年フォルコは、牧童たちから馬を守ろうと奮闘する。やがて馬もフォルコに心を許し、ともに牧童たちの追跡から逃れようとするが……。2008年、ラモリス監督の代表作でもある本作と「赤い風船」のデジタルリマスター版が2本立てでリバイバル公開された。

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真摯な眼差しで筆者に語り掛けてくる黒柳と対峙するにつけ、シャーリー・マクレーン主演作「あなたの旅立ち、綴ります」(2018)にある「いい1日ではなく、本物の1日をおくって。自分に正直な1日をおくるのよ」というセリフが脳裏に浮かんだ。黒柳にとって「自分に正直な1日」とはどのようなものなのかを聞いてみたくなった。

「いいセリフね。やっぱり自分に正直でいるべきですよね。私はいつだって正直に生きてきたので、あまり特別なことは思い浮かばないのだけれど、気兼ねのない正直な子どもたちと一緒に過ごしたいわね」

(執筆者:大塚史貴)

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