ベルリン国際映画祭で史上最年少の最優秀主演俳優賞! 自分の性別に悩む8歳の子どもを描く「ミツバチと私」
2023年11月15日 12:00
第73回ベルリン国際映画祭で、主演のソフィア・オテロが、史上最年少の8歳で最優秀主演俳優賞を受賞したスペイン映画「ミツバチと私」の予告編と新場面写真がお披露目。映像には、自分の性別に悩み、“本当の自分”を探す主人公アイトール(オテロ)と、葛藤しながらも寄り添う家族の姿が切り取られている。
2020年に男優賞・女優賞が廃止され、性別区分のない主演俳優賞、助演俳優賞が新設されたベルリン国際映画祭。約500人からオーディションで選ばれた新人オテロが、映画初出演にして、最優秀主演俳優賞受賞を獲得した。子どもが抱える不安や心の機微を繊細に表演し、「ミツバチのささやき」(1973)のアナ・トレントを想起させる名演を披露した。
監督を務めたのは、数々の短編を手がけ、「Chords」(2022)が第75回カンヌ国際映画祭の監督週間で上映されたスペイン人のエスティバリス・ウレソラ・ソラグレン。長編デビューを飾った本作は、ベルリン国際映画祭の銀熊賞とギルド賞に加え、第26回マラガ・スペイン映画祭で最優秀スペイン映画賞を受賞した。さらに、米映画批評サイト「Rotten Tomatoes」では96%(11月13日時点)というハイスコアを記録。ソラグレン監督は、「家族との関係が、自分探しの旅にどう影響するのかを探りたかった」と語り、トランスジェンダーの悩みを抱える本人だけではなく、母、祖母ら3世代の視点を交え、それぞれの考えで人生を生き抜く姿を描いた。
予告編は、バカンスでフランスからスペインにやってきたアイトールが、「私はなんでこうなの?」と呟くシーンから始まる。男の子に生まれたアイトールは、名前や髪型や服装など、日々のさまざまなことに違和感と居心地の悪さを覚え、自分のことが分からない不安を募らせる。一方の家族は、そんなアイトールを愛しながらも、戸惑いを隠せない。しかし、アイトールは、叔母が営む養蜂場でミツバチの生態を知り、ハチや自然と触れ合うことで心をほどき、多様性を受け入れていく。スペイン・バスク地方の柔らかな光が差し込む緑豊かな美しい自然を背景に、家族とともに、「私らしく生きていきたい」と顔を上げる繊細な表情が映し出されている。
新場面写真には、養蜂用の防護服に身を包んだアイトールや、休暇でバスクへ向かう車の後部座席に並ぶきょうだい3人を活写。叔母と植物を植えていたアイトールが、ハチに驚いて顔をしかめるカットをはじめ、ドレスを着たアイトールと母が鏡を見つめるシーン、池で水着を交換した友だちとの2ショットなどが写し出されている。
本作は、第36回東京国際映画祭のワールド・フォーカス部門にて、「20000種のハチ」のタイトルで上映。観客からは「傑作」「涙が止まらなかった」「主演の子の演技が素晴らしい」など好評を博し、上映回は満席となった。さらに、2023年度に新設され、ジェンダー平等、環境、貧困、多様性、差別といった現代の重要な社会テーマに向き合った作品が対象となるアワード「エシカル・フィルム賞」の第1回受賞作品に選ばれた。エシカルとは、人・社会・環境を思いやる考え方や行動のこと。審査委員でエシカルディレクターの坂口真生氏は、選考理由を「一言で言えば優しさ。この映画に出ていたすべての人がすべての人に優しい思いやりを持った一面が見てとれた」と語った。さらに日本公開に寄せて、ソラグレン監督からのメッセージが公開された。
ソラグレン監督「日本で私の映画を上映していただけてとても幸せです。皆様にこの映画を見ていただきたい理由はいくつかあります。ひとつは、子どものトランスジェンダーというとても重要なテーマを扱っているからです。しかし、それだけではありません。家族の問題も含まれていますし、私たちは時々、自分はいったい誰なのだろうと自問することがあります。それは、自分自身を取り巻く人々が自分をどのように見ているかにも関係します。この映画は、光に満ちていて繊細で優しく感動的です。主人公のソフィア・オテロだけではなく、母親や祖母、叔母役の俳優たちも素晴らしい演技をしています。また、この映画を見て私の生まれ故郷であるバスクを発見してほしいと思います。バスク語という言語、そしてバスクの風景をです。映画館で皆様を待っています」
「ミツバチと私」は、24年1月5日から東京の新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国で順次公開。