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【「サーチライト 遊星散歩」評論】大きな宇宙の中にある小さな「家族の風景」が心に染み込む意欲作

2023年10月15日 22:00

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「サーチライト 遊星散歩」は公開中
「サーチライト 遊星散歩」は公開中
(C)2023「サーチライト 遊星散歩」製作委員会

この作品を観て6月に上演された演劇「我ら宇宙の塵」が思い出された。亡くなった父を追って少年が姿を消した。彼はどこに向かったのか。家族のことを淀みなく話した母(池谷のぶえ)は息子を追って家を出る。少年はなんと人形。レオス・カラックスの「アネット」(2021)のようなパペットを造型し、作劇と演出を務めた小沢道成が動かした。

生と死、喪失と再生を描く物語には、父と息子、ふたりを見守る母が目にした「家族の原風景」が浮かび上がる。宇宙規模で見つめたら誰もが小さな塵なのかもしれない。でも、その一つひとつには魂が宿り、切実な願いがある。だから生きていける。ささやかに今を肯定しようとするメッセージが心に染みた。

まだ暗い朝、空に向かって光るひと筋のサーチライトが見える街で、川べりで目覚めた青年がギターをつま弾く。誰かを探して少女が懸命に走る。その横を新聞配達の少年が自転車で駆け抜けていく。放課後のファミレスでメニューを選ぶ女子高生の前に新聞配達と掛け持ちでウェイターに勤しむ少年が現れる。注文を済ませた友だちが「果歩は?」と問いかけると、「わたしは、後で」と少女は口を濁す。店を出た少女に「今日の朝…」と話しかけた少年は「なんでもないや」と口を閉じる。「何かあったら電話して」と言うが、自分は電話を持っていないと笑う。その帰り道、少女は大人と散歩する制服姿の女子高生に目を留める。

主人公は内田果歩(中井友望)。若年性認知症を発症した母(安藤聖)を介護していた父が先立ち、母とふたりで暮らしている。アパートを出る時はドア前に洗濯機を置いて開けられないように紐で結ぶ。何かを探しに母が外出しないようにするのだ。同級生の輝之(山脇辰哉)は五人兄弟の長男として、家計のためにバイトに精を出す。ある日、夕刊を配達中に外に出たがる母を制止する果歩を目にする。街が眠りについた深夜、地下から騒音がする。何ごとかと酔漢が近づくと、閉鎖されたライヴハウスのシャッターに頭をぶつける男が額から血を滴らせていた。川べりにいたギター弾きのホームレス(合田口洸)だ。

まめ、ごま、たまご、ちーず、わかめ、やさい、さかな、しいたけ、いも。栄養のバランスを整え、生活習慣の乱れを正してくれる食材の名をつなぐと「まごたちはやさしい」という言葉になる。お母さんのために食事を作るのは果歩の役目だ。茶封筒に入れた大切なお金を握りしめ、「まごたちはやさしい」食材を手にすると思わず笑みがこぼれる。でもお金が足りなくて買えないこともある。まだあどけなさが残る16歳の果歩はお母さんが大好きだ。母と一緒に過ごすふたりの生活が何よりも大切だ。誰にも邪魔されたくないし、とやかく言われたくない。でも、貧乏だから何もできない。

このご時世に…。貧乏という言葉はいつの間にか貧困と言い換えられるようになった。脚本を執筆し企画も担当した小野周子は、果歩が生きる小さな宇宙を通して、生きづらさが蔓延る日本の今を照射する。サブタイトルの遊星散歩は、貧乏から抜け出そうとする少女が高額バイト〈JK散歩〉の扉を開くことに由来している。無駄のない脚本を手にした平波亘監督は、中井友望が持つ透明感と山脇辰哉に宿る寛容力を肯定し、詩情に満ちた映像で現代進行形の「家族の風景」を浮かび上がらせる。透き通った想いが心に染み込む意欲作である。

(高橋直樹)

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