【「ジャンポール・ゴルチエのファッション狂騒劇」評論】笑顔の陰に涙あり。ファッション・ミュージカルの舞台裏から覗くゴルチエの素顔
2023年10月1日 14:00

「フィフス・エレメント」(1997)でミラ・ジョボビッチがボディに包帯を巻きつけた露出度過多のコスチューム、ペドロ・アルモドバルの「キカ」(1993)でビクトリア・アブリルが纏うバスト部分を切り抜いたボンデージ・ドレス、ピーター・グリーナウェイの「コックと泥棒、その妻と愛人」(1989)に登場するブラを強調した下着ドレス等、独特のフェティシズムをデザインに反映させた服作りで数々の映画に花を添えてきたジャンポール・ゴルチエ。一方ステージでは、マドンナが“ブロンド・アンビション・ワールドツアー”(1990)で身につけた、先がやたらとんがったピンクのコーンブラ。あれもゴルチエの代表作だ。
2020年の春夏オートクチュール・コレクションを最後に、50年に及ぶデザイナー人生に一応終止符を打ったゴルチエ。本ドキュメンタリーは、同じタイミングで製作された彼のアートワークを辿るファッション・ミュージカル「ファッション・フリーク・ショー」の舞台裏をリポートする。その仕上がりは、少々意外なものだった。
自身のコレクションと同時進行する形で製作された舞台は、企画、脚本、演出を兼任するゴルチエが多忙な上に、ダンサーの怪我、クリエイティビティ面での衝突とトラブルの連続なのだが、それ以上に印象的なのはゴルチエのモノローグ部分だ。子供の頃に自覚したセクシュアリティ、デビュー・コレクションが多くのメディアに酷評された苦い思い出、今も引き摺る15年間共に暮らしたベストパートナー、フランシス・メヌゲをエイズで失った喪失感、毎シーズン新しい服作りに追われ、カオスの中に身を置くことの虚しさ、そして、ゴルチエは具体的には言わないけれど、才能があるデザイナーたちの首を次々と挿げ替えていく巨大コングロマリットに対する不信感等が、ゴルチエの口から語られ、察せられる時の衝撃はけっこう大きい。毎回ショーのクライマックスでトレードマークのボーダーシャツを着て、笑顔でキャットウォークを駆け抜けるゴルチエの無邪気な姿と、心の中に秘めた苦悩とが、少しアンバランスな気がしてしまうのだ。その一方で、ゴルチエもまた、デザイナーにとって煌びやかで、同時に受難の時代を果敢に生き抜いたサバイバーの1人であることも確かだ。思えば、かつてシャネル、ヴィトン、ディオール等、フランスを代表する老舗ブランドが次々と外国人デザイナーを迎え入れる中で、ゴルチエは実に半世紀にも渡って、生粋のフランス人として人気の商標にその名を刻み続けたのである。
今後、ゴルチエは服作りからは一旦距離を置き、別の分野で復活する可能性があるのだとか。それがどういう形になるのかは分からない。だからひとまずは、映画とハイファッションの架け橋となった天才デザイナーへのオマージュを込めて、このドキュメンタリーを服と映画をこよなく愛する人たちにお勧めしたいと思う。
(C)CANAL+ / CAPA 2018
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