世界的に再評価の機運が高まるドイツの女性監督ウルリケ・オッティンガーインタビュー “ベルリン三部作”が一挙公開
2023年8月19日 10:00
「ニュー・ジャーマン・シネマ」の時代から活躍するも、日本では紹介される機会が少なかったドイツの映画作家ウルリケ・オッティンガーの「アル中女の肖像」「フリーク・オルランド」「タブロイド紙が映したドリアン・グレイ」を紹介するウルリケ・オッティンガー“ベルリン三部作”が渋谷のユーロスペースほかで公開された。
ライナー・べルナー・ファスビンダーやリチャード・リンクレイターらから絶賛されるオッティンガー監督は、2020年にベルリン国際映画祭でベルリナーレカメラ(功労賞)を受賞。21、22年にはウィーンやベルリンの映画博物館などヨーロッパを中心に、大規模なレトロスペクティブが開催。美術館やギャラリーでは美術作品の展示が行われ、映画作家として、芸術家として、世界的に再評価の機運が高まっている。このほど、映画.comがオッティンガー監督のインタビューを入手した。
素晴らしいことです。今回とても嬉しいのは、「ベルリン三部作」をまとめて上映して下さるということです。一つ一つ独立した作品ですが、それぞれに繋がりがあります。3つの作品が呼応し合っているのです。
1973年に「ベルリンフィーバー ヴォルフ・フォステル(Berlinfever Wolf Vostell)」という記録映画の制作で、初めてベルリンを訪れました。その時に強烈な印象を受けました。当時の壁に囲まれていたベルリンは、戦争の傷跡がまだ残っていて非常に暗い雰囲気でした。その独特な街の雰囲気に強く打たれたのです。そこで思いついたのが、ベルリンを散策することを映画作品にするというアイデアでした。すぐに、これは一つの作品では収まらないと気が付きました。そこで、もっと時間をかけて、三部作にしようと考えました。
この3つの作品というのは、すべて時代の記録、時代のドキュメントであるということです。それは、現代ではすでに失われてしまったものを捉えているということでもあります。「アル中女~」の場合は、ベルリンの当時の街並みや飲み屋の風景ですね。そして「フリーク・オルランド」は、工業地帯や工場の風景。150年ぐらいの長い歴史があったのに、今では解体されてなくなってしまった工場地帯の風景です。そして「タブロイド紙が映したドリアン・グレイ」でもなくなってしまった風景がたくさん撮られています。
印象深いことの一つは、かつての帝国鉄道があった大きな土地の光景です。その中に国境があって、東と西で2つに割れている。がらんとした土地になっているわけですが、そこに白樺の木など色々な植物が生えているのです。かつては各地から汽車が来て停まっていたわけですが、汽車がさまざまな種をくっつけて持ってきたことで、多種多様な植物がその土地に生えているのです。それは本当に美しく、幻想的な光景になっていました。
国境のある方に行くと、例えば建築家マルティン・グロピウスが設計した巨大な建物などが国境沿いに並んでいるわけです。そういうところも荒れ果てていて、壁があり、その向こうに東ベルリンの監視塔が建っている。そういう場所で「アル中女~」のサーカスの綱渡りの場面などを撮りました。モダンな建物が政治的な光景と重なっているのが非常に面白かったのです。
映画の撮影はゆっくりと学んでいきました。パリからドイツに戻ってきたのが69年だったと思いますけれども、その時に映画を撮ってみたかったのですが、どうすればよいのかよくわからなかった。ある日、倉庫でBOLEXみたいな小型の16ミリのチェコ製のカメラを見つけて、友人の技師にきれいに掃除をしてもらって使えるようにしたのです。それで何か撮ってみようと。それで故郷であるドイツ南部のボーデン湖で、その冬場の凍りついた湖とその先に見える森や城といったものを友達に手伝ってもらいながら、撮影してみました。私はパリで学んでいた時から、写真だけじゃなく絵も描いていたので、色とか光というものに関して知識があった訳ですが、構図の取り方などはそれまでの経験を活かすことができました。
私は画家として、彫刻家として60年代にパリに行きました。パリにはシネマテークだけではなく小さな映画館がたくさんあって、いろいろな作品に触れました。同じ頃のドイツはナチスの後で映画文化が停滞していました。ドイツではほとんど映画に関心がなかったのですが、パリで画家として活動しながら、小さな映画館で世界中の映画作品に触れたのです。それぞれの国や地域の新しいポップカルチャーの動向にも繋がっている作品を沢山見て、それらがとても面白かった。そんな中で「ミスター・フリーダム」(1968)を見たのです。その時ピンと来たんです。ああ、これは自分でも映画を作れるかもしれない、作らなきゃいけないかもしれない。そう感じるきっかけになったのです。クラインの「ポリ・マグー お前は誰だ?」(1966)もその頃に見て、あとジャン=リュック・ゴダールの作品、「中国女」(1967)や「ウイークエンド」(1967)に強い印象受けました。
一つ思い出したのですが、パリでデルフィーヌ・セイリグがウィリアム・クラインと一緒にいる時に、私もクラインに会ったんですね。セイリグがクラインに私を紹介する時に、「あなたはウルリケに映画を作る決心をさせた責任があるのよ」と言ったんです。
みんな、本当にいい友達でした。当時、新しい映画を独自のやり方で作ろうという人は、そんなに多くいませんでした。みんな知り合いで友達同士でした。だからファスビンダーやシュレーターも、近しい付き合いだったので、一緒に食事に行ったり、踊りに行ったり、パーティーをやったり、交流を持っていたわけです。ファスビンダーは、「アル中女~」を作っていた時に撮影現場にもやってきました。どうやって撮ってるの、とか言ってね。興味津々で覗きに来ていました。そして、シュレーターは長い間友達で、だからこそモンテツマとも付き合いがあって、一緒に映画を作りました。当時、戦後ドイツの世の中で、批判的でいて何か新しいことやってやろうというのは本当に少数のメンバーで、いつも一緒にいて時にはケンカもするという状況でした。
映画というのは、作品が作られた時代、特定の時代の記録であり、その特徴を持ったものではありますが、一方で、我々は現在のために歴史からいろいろ学ぶことができます。歴史というのはずっと続いているもの、現在に影響を与えるものとして学び続けられると考えています。私たちは映画の画面に映されている過去のものから固有の美しさや、何かが移り変わっていく姿を見つけ、そして、そこに現在的なものを読みとることができます。具体的な例で言うと、私は100年以上前に作られたジョルジュ・メリエスの作品に、最も現代的な何かを見ることができるのです。
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
第86回アカデミー作品賞受賞作。南部の農園に売られた黒人ソロモン・ノーサップが12年間の壮絶な奴隷生活をつづった伝記を、「SHAME シェイム」で注目を集めたスティーブ・マックイーン監督が映画化した人間ドラマ。1841年、奴隷制度が廃止される前のニューヨーク州サラトガ。自由証明書で認められた自由黒人で、白人の友人も多くいた黒人バイオリニストのソロモンは、愛する家族とともに幸せな生活を送っていたが、ある白人の裏切りによって拉致され、奴隷としてニューオーリンズの地へ売られてしまう。狂信的な選民主義者のエップスら白人たちの容赦ない差別と暴力に苦しめられながらも、ソロモンは決して尊厳を失うことはなかった。やがて12年の歳月が流れたある日、ソロモンは奴隷制度撤廃を唱えるカナダ人労働者バスと出会う。アカデミー賞では作品、監督ほか計9部門にノミネート。作品賞、助演女優賞、脚色賞の3部門を受賞した。
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。