なぜ米脚本家組合はストライキを実施しているのか “サンディエゴ・コミコンの危機”から背景を紐解く【ハリウッドコラムvol.334】
2023年7月7日 09:00

ゴールデングローブ賞を主催するハリウッド外国人記者協会(HFPA)に所属する、米ロサンゼルス在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリストの小西未来氏が、ハリウッドの最新情報をお届けします。
サンディエゴ・コミコンが危機に直面している。
毎年7月にカリフォルニア州のサンディエゴ・コンベンション・センターで行われる同イベントは、当初は文字通りコミックファンのための集いだった。だが、やがてアニメやドラマ、映画、ゲームなどを取り込んだポップカルチャーイベントに成長。会場のキャパシティもあって参加者は13万人程度だが、圧倒的な熱量を持った彼らの拡散力は絶大だ。
そのため、映画スタジオやテレビ局が新作を持ち込んで、派手なプロモーションを行うことになる。最大の目玉は、ハリウッド大作のプレゼンテーションで、セレブリティが登壇したり、フッテージが初披露されたりする。
2020年は中止、2021年は規模縮小などコロナの影響をもろに受けていたが、昨年コミコンはついに本格再開を果たした。マーベルがフェーズ4から6までの壮大な計画をぶち上げたり、HBOが「ゲーム・オブ・スローンズ」の前日譚「ハウス・オブ・ザ・ドラゴン」のお披露目をして話題を集めた。
だが、今年はマーベルやルーカスフィルムを傘下に持つディズニーをはじめ、ソニー、ユニバーサルが不参加を表明。NetflixとHBOも出展を取りやめたという。
原因はストライキだ。ハリウッドでは、スタジオやテレビ局などの雇用主で構成される業界団体Alliance of Motion Picture and Television Producers(AMPTP)と、役職ごとの労働組合が3年ごとに労使交渉を行い労働条件を定めている。米脚本家組合(WGA)はAMPTPとの交渉が決裂したため、5月1日にストライキを発動。脚本家たちが一斉に執筆をストップしたため、ドラマや映画が制作中止に追い込まれるなどの影響が出ている。
コミコンが開幕する7月20日までにAMPTPとWGAが合意に至る可能性は低く、6月30日にすでに現行契約が満了し、期間を延長して交渉に臨んでいるSAG-AFTRAもストに加わる可能性がある。そうなればセレブリティの登壇はありえないし、彼らが会場周辺でピケッティングを行うことも考えられる。こうした可能性を鑑みて、スタジオやテレビ局が相次いで撤退を表明をしているのだ。
 Photo by Daniel Knighton/Getty Images
Photo by Daniel Knighton/Getty ImagesそもそもWGAはなぜストライキを実施しているのか?
インフレに応じた基本給のアップや生成AIからの保護など要点は複数にわたっているが、最大の焦点はresidualと呼ばれる再放送料だ。
たとえば映画やドラマがテレビで放送されるたびに、脚本家や出演者には再使用料が入る。フリーランスの彼らは、このおかげで仕事がないときも食いつないでいくことができるのだ。だが、動画配信向けのオリジナル作品の場合、再使用料のレートがテレビ放送よりずっと低く抑えられているうえに、他局で放送されることがない。おまけに再生回数が公表されずブラックボックスとなっている。
動画配信の普及とともに脚本家たちが困窮するようになった状況は、音楽サブスクとミュージシャンとの構図と似ている。
動画配信はもはやスタンダードなのだから、テレビ向けに執筆していたときの待遇は忘れて、脚本家たちは新たなモデルを甘んじて受け入れるべきだ、と考える人もいるかもしれない。
だが、Netflix主導で生み出された新方式は、一般のファンにとっても不利益をもたらす危険性がある。
たとえば、「ライターズルーム」の切り崩しが行われている。アメリカのテレビ業界では、ドラマに参加する脚本家は毎日ライターズルームに集い、シーズン全体のストーリー展開から各エピソードの構成までを決めていくことになっている。構成人数は10人程度で、各話の構成ができあがると、ショーランナーが執筆の担当を割り振っていく。アメリカが高品質のドラマをコンスタントに生み出すことができるのは、このシステムのおかげだとぼくは思っている。
だが、動画配信のドラマでは、ショーランナーと複数の脚本家だけで構成される通称「ミニルーム」が横行している。これでは実力がある脚本家しか選ばれないので新人が育たないし、選ばれた脚本家の負担も増える。なによりクオリティが落ちる。
 (C)YOUNGKYU PARK 「イカゲーム」Netflixで独占配信中
(C)YOUNGKYU PARK 「イカゲーム」Netflixで独占配信中Netflixや他の動画配信サービスに一貫しているのは、脚本家軽視の姿勢だ。たとえば、「イカゲーム」があれほどの社会現象を起こしたのに、Netflixは脚本・演出・製作総指揮を務めたファン・ドンヒョク監督にはいっさいの再使用料を払っていない。ドンヒョク監督は、「イカゲーム」に関するすべての知的財産をNetflixに譲渡する契約を結ばされたためだ。
ますます強気になる動画配信のパワープレイを前に、脚本家たちは自問したに違いない。待遇が悪化の一途を辿るなか、指をくわえて見ているだけでいいのだろうかと。そして、生き延びるため、後進のためにストライキを選択したのだ。
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