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【「遺灰は語る」評論】旅の映画がたどりつく達観。“軽みの重さ”が、永遠をあっけらかんと縁取っている

2023年6月25日 16:00

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「遺灰は語る」は公開中
「遺灰は語る」は公開中
(C)Umberto Montiroli

秋の公開が待たれるアルノー・デプレシャン監督作「私の大嫌いな弟へ」。反語的邦題が示す「大嫌いは大好きのこと」との気持ちをみごとに射抜いた快作を前に、親とも伴侶とも異なる兄弟というものへの愛の懐かしさを思い、直前に観たパオロ・タヴィアーニ監督作「遺灰は語る」に満ちている懐かしさを反芻していた。

実際、半世紀以上にもわたって兄弟監督として創作を共にした今は亡き兄ヴィットリオに捧げられた追悼の一作は、そんなにも長い時間を分かち合いながら葛藤の欠片も感じさせずに「大好き」だけで結ばれた稀有な兄弟の愛の記憶を率直に湛え、それだけでもう涙ぐましい気持ちにさせてくれる。

タイトルロールともいうべき“遺灰”は兄弟が1984年に撮ったオムニバス「カオス・シチリア物語」で描かれた4つのお話の原作者ルイジ・ピランデッロのもので、ファシスト政権下、作家自身の遺言に背き10年間、ローマに留め置かれたその遺灰を、生前の望み通り故郷シチリアに帰す数奇な旅を軸に映画は展開される。

第二次大戦というイタリアの悲痛な時代と、その戦禍から生まれたネオレアリズモというイタリア映画史上の輝ける時代とを振り返りつつ、遺灰を乗せたモノクロの列車の旅は、ビザールでぽっかりとおかしく、やがて悲しい「カオス(混沌は地名でもある)の子」ピランデッロの世界へ、それを鮮やかに映像化した兄弟の傑作の世界へとぽっ、ぽっと水底から浮かび上がるほおずきのような記憶の断片を束ね込んでいく。

そこではロッセリーニ、アントニオーニと並んでズルリーニ「激しい季節」の場面が挿入され、この忘れ難い青春のメロドラマが短くも悲しい列車の旅の映画でもあったことをふっと想起したくなる。あるいは、兄弟の「カオス・シチリア物語」のエピローグ、列車の旅を終えたピランデッロが母のゴーストと対峙し、そうしてすべりこんだ記憶の中で白い軽石の山、そこを滑り降りる子供たちの眼前にどこまでも広くたおやかに広がっていた海の青。まさにその青に“遺灰”を帰し、ひとりになったパウロが映像化するピランデッロ最期の短篇。「カオス・シチリア物語」にいた移民の少年のその後としてアメリカに舞台を移して展開される不条理な殺人と愛の物語。海の青を引き継いでカラーの世界に踏み込む映画がいっそ意図的に纏う芝居くささ。それを開巻部と対称をなす劇場のシャンデリアの図で挟み撃ちして、映画はまんまと演劇の、映画の、物語の時空を祝福してみせる。

旅の映画がたどりつくそんな達観、観照。歳月を重ねてこその境地。その軽みの重さが永遠をあっけらかんと縁取っている。

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