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高橋一生&長尾謙杜が浮かび上がらせた“人気漫画家”岸辺露伴の新たな輪郭【「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」インタビュー】

2023年5月26日 09:00

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高橋一生(右)&長尾謙杜(左)
高橋一生(右)&長尾謙杜(左)
高橋一生/ヘアメイク:田中真維(MARVEE)、スタイリスト:秋山貴紀[A Inc.] 長尾謙杜/ヘアメイク:花井菜緒(JOUER)、スタイリスト:小林美月

4月25日、東京・六本木の国立新美術館。

2人の“岸辺露伴”が対談インタビューに応じた。

横並びに座ったのは、高橋一生長尾謙杜(なにわ男子)。ドラマ「岸辺露伴は動かない」の制作陣が再結集した劇場長編映画「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」に参加し、高橋は「現代の岸辺露伴」、長尾は「青年期の岸辺露伴」に息吹を注いでいる。

相手を本にして生い立ちや秘密を読み、指示を書き込むこともできる特殊能力“ヘブンズ・ドアー”を備えた人気漫画家・岸辺露伴。高橋を主演に迎えたドラマ「岸辺露伴は動かない」は、2020年12月に第1期(第1話~3話)、21年12月に第2期(第4話~6話)、22年12月に第3期(第7話、8話)が放送。そのクオリティは「実写化の理想系」「完成度が高すぎる」と多くの原作ファンが絶賛するほどだった。

画像2(C)2023「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」製作委員会 (C)LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社

映画の原作は、2009年にフランス・ルーヴル美術館のバンド・デシネプロジェクトのために、荒木飛呂彦が描き下ろしたフルカラーの読切作品。露伴が「この世で最も黒く、邪悪な絵」の謎に迫っていく。

年代の異なる同一人物を演じていることから、本編には高橋と長尾の共演シーンは存在しない。しかし、インタビュー前日、2人は同タイミングで初号試写に参加。それぞれが演じた“岸辺露伴”を目撃していたのだ。

高橋「長尾さんの演技は『現場で見ておきたかったな』と思うほど」

長尾「一生さんは“完璧な露伴”を演じられています」

“岸辺露伴”によって繋がった高橋と長尾。2人が発する言葉によって“人気漫画家”の新たな輪郭が浮かび上がってきた。


●完成した作品の感想は? 高橋一生長尾謙杜の背中は「確かに“露伴”のものだった」
画像3(C)2023「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」製作委員会 (C)LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社
――お二人は、昨日行われた初号試写に参加されたそうですね。まずは、完成した作品について、感想をお聞かせください。
高橋:「起承転結のある話」が作品の“フォーマット”になっているとは思うのですが、この映画はそういったものとは一線を画しているといいますか……。作劇上の流れも関係しているとは思いますが、不思議な映画だと感じました。
――脚本で読んでいた時よりも、映像をご覧になったことで、その思いが深まった形でしょうか?
高橋:映像になると、(脚本に記されている)1行が長くとらえられていたりしますから。そういった意味でも、体感的に違いました。
――長尾さんとの共演シーンはありませんでしたが、本編で観た“青年期の露伴”はいかがでしたか?
高橋:(青年期の露伴の)最初の登場シーンは、長尾さんの背中から始まるんです。そこに映っていたのは、確かに“露伴の背中”でした。それだけで「素敵だな」と感じたので、思わず引き込まれてしまいました。
長尾:ありがとうございます!
高橋:とんでもございません。嘘はございません(笑)。
画像4(C)2023「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」製作委員会 (C)LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社
――長尾さんの感想も是非お聞かせください。
長尾:僕も“観たことがない映画”“新しい映画”だなと思いました。話の流れもそうですし、終わり方も……。ドラマを一視聴者として楽しませていただいていたので、そこに参加できたことがとても嬉しかったんです。完成した作品は、一生さんの隣に座って観させていただいたんです。すごい緊張しました(笑)。
――ドラマのファンということでしたが、今回の高橋さんの芝居はいかがでしたか?
長尾:本当に格好良かったです!
高橋:ありがとうございます。
長尾:一生さんがテレビ番組に番宣で出られている時、何よりも先に「露伴がいる」という言葉がよぎるんです。本作でも新たな露伴の姿を観ることができて、すごく嬉しかったです。

●“ジョジョ”好きの長尾謙杜、オファーに驚愕 “青年期の露伴”はどう形成した?
画像5(C)2023「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」製作委員会 (C)LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社
――岸辺露伴の姿が映画館のスクリーンに投影されます。高橋さんは、その点への感慨というものは感じていますか?
高橋:僕は、もとから回路が断線しているようなところがあって……そこへの感慨というものはあまり……。そもそも僕自身、完成した作品はすぐに観ないタイプなんです。作品に出ている自分との距離感がよくわからなくなってしまうので。見ると、自分に対しての否定大会になってしまうんです。ですが、昨日の初号に関しては、ある一定の距離を置きつつ、お客さんとしても映画を観ることができました。これはあまりない、不思議な体験でした。
――長尾さんは、もともと「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズのファンだったそうですね。本作への出演が決まった際はどう感じましたか?
長尾:とてもびっくりしました。原作漫画も楽しんで読んでいましたし、もちろんドラマも観させていただいてましたから。マネージャーさんから「“ジョジョ”好きだよね?」という一言とともに台本を渡されたので……余計に驚きました。
――ドラマの「岸辺露伴」は、既に高橋さんが確立したキャラクターです。そのキャラを演じているというのは……
長尾:めちゃくちゃ怖かったですよ!
一同:(笑)
長尾:これまでも映画やドラマに出演させてもらいましたが、何年も続いている作品に“途中から参加する”ということはなかったんです。僕にとっては初めての体験でもあり、ひとつの挑戦でもありました。一生さんは“完璧な露伴”を演じられています。僕にとってのハードルは、とても高かったんです。
――どのように“青年期の露伴”を形作ったのでしょうか?
長尾:ドラマを一度見直しましたが、監督からは「一生さんの露伴は、そこまで意識しないでほしい」と言われていました。なので、原作を読み込み、そこから“青年期の露伴”を形作っていった形です。

高橋一生「“人間として広がっていく”感じがした」 若き露伴への思いを吐露
画像6(C)2023「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」製作委員会 (C)LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社
――では、お二人に質問です。改めて、お互いが演じた岸辺露伴についての思いをお聞かせください。
高橋:長尾さんの演技からは、露伴の漫画への熱意、熱情のようなものが感じられました。可能だったとしたら「現場で見ておきたかったな」と思うほど。長尾さんが演じた露伴には、熱意のほかにも、焦り、若さゆえの感覚みたいなものがありました。岸辺露伴をひとりの人間として見た時、このような苦悩の時期もあったんだなと。長尾さんが演じてくれたことで、確かに“(露伴が)人間として広がっていく”感じがしました。
長尾:一生さんが演じた露伴は、やはり“出来上がっている露伴”だと思っています。僕が演じたのは、漫画家としてデビューしたての頃の露伴。自分の作風に自信はある。でも、まだそうは言い切れない。そういう感じはありますよね。
画像7(C)2023「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」製作委員会 (C)LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社
――なるほど。ご回答ありがとうございます! では、次の質問を……
長尾:あ! 僕も一生さんが演じた露伴について、お話させていただいてもよろしいでしょうか?
――失礼いたしました!ぜひお聞かせください。
長尾:めちゃくちゃ最高で超格好よくて……スタンディングオベーションをしたいくらいでした。
高橋:ありがとうございます。昨日の初号試写後、長尾さんから「格好よかったです」と声をかけていただいて、その言葉があったおかげで、夜は快眠でした。
一同:爆笑

●ジャンル付けは難しい? 高橋一生「“内側”に戻ってくる話」、長尾謙杜「考えさせられる“終わり方”」
画像8(C)2023「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」製作委員会 (C)LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社
――改めて、脚本についてのご意見をお聞かせいただけますか? アニメ「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズだけでなく、ドラマ「岸辺露伴は動かない」も脚本を務めた小林靖子さんが担当されていますが、素晴らしい脚色でした。
高橋:映像として想像できる“基盤”が、そこにはあったような気がしています。起承転結の大きなピークが最後の方にやってくるような、いわゆる欧米的な作りにはなっていないんです。その上で“自身に立ち返ってくる”というストーリーラインがより強調されていると思いました。台本を読んだ時に感じていたのは、この作品は“内側”に戻ってくる話なんだということです。タイトルは「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」ですが、実は“戻ってきた後”がわりと重要になってくる。このあたりの作り方が、おおよそ映画的ではない。また別の作品が入れこまれているような……不思議な構成の脚本です。これはなかなか体験できることではありませんから、その点が面白かったです。
長尾:僕も台本を読んでいて気になったのは、盛り上がりとなるポイントで“終わらない”というところ。新しいというよりは、変わった体験になるのだなと思いました。原作漫画の映画化作品だったり、ヒーローをテーマにした海外映画も観ることがありますが、絶対的な盛り上がりの後、すぐに物語が終わっていきますよね? 本作にも“絶対的な主人公”がいますが、そういう形では終わりません。なんて言えばいいんでしょうか……考えさせられる“終わり方”かな。
高橋:「どのジャンルの話なんだろう?」と感じていただけると思います。サスペンスなのか、ホラーなのか、ヒューマンドラマなのか……カテゴライズがしづらい作品。それは台本を読んでいた時から感じていたことです。やがて「家族」や「血筋」の話に戻っていく。そういった要素で浮き彫りにされていくものは、ヒューマンドラマ的でもある。長尾さんが仰っていたような印象を受けていました。

●岸辺露伴の共通点は? 長尾謙杜「似ているところは、無くなったかもしれない」
画像9(C)2023「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」製作委員会 (C)LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社
――では、それぞれが演じた“岸辺露伴”について。長尾さんは、青年期の露伴役に挑戦されています。今回演じてみたからこそ感じられた魅力、ご自身と似ているポイントなどはございましたか?
長尾:自分と似ているところは、無くなったかもしれないです。露伴先生の熱量はあまりにも凄すぎて……自分と同一化してはいけない人だなと思いました。僕も絵を描くことは好きですし、興味のある分野のことであればどんどん調べたりしてしまいます。そういったところが似ているのかなと思った時もありましたが、露伴先生の方が遥か上で……逆に似てないなと(笑)。
高橋:けれど、そういったところは、まさに“露伴”だと思いますよ。今回の「ルーヴル」では、彼にも苦悩があるということがわかります。初めから完璧な人間ではなく、あがいて、今に至っているのだと。長尾さんがそのように感じてくれたおかげで、(青年期の露伴役は)重厚になっていると思います。

高橋一生「露伴の中には“崇拝”というものがなかった」
画像10(C)2023「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」製作委員会 (C)LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社
――高橋さんは、今回の映画を通じて露伴の新たな一面を見出すことができましたか?
高橋:ドラマの1期、2期、3期に関しては、場所や相手によって芝居を変えているんです。それは原作漫画にあった“同じ人間のリアクションとは思えないようなものを実践していく”ということ。僕が読者として感じとっていたのは「人間は、対する相手によって人柄が全く変わる」というものでした。ですが、これを芝居でやるのは、なかなか難しいことなんです。「キャラが違う」と言われかねませんから。皆さんが創り上げて下さった“岸辺露伴”を演じていくにあたり、特に1期、2期は、ある程度お芝居がデフォルメされていたとしても、反対に小さくなっていたとしても“これを露伴として見てくれるかどうか”という実験をやっていました。そして、映画では、この実験が佳境に入ったと言えるんです。
――本作では日本だけでなく、タイトルにもあるように“世界最大級の美術館”パリ・ルーヴル美術館が主要舞台のひとつになっています。日本映画で撮影許可が下りるのは2作目という異例のケースでした。
高橋:海外へ行き、海外の建造物の中で実際に立ち回ってみる。自分がどういう動きをするのかということは、あえて考えてはいかなかったのですが……これはルーヴル美術館に立ってみてわかったことですが、露伴の中には“崇拝”というものがなかったんです。画家に対する“崇拝”というものよりも、絵を技術的に見て、どういう描き方をしているのかという方向に目が向くんです。絵を見てひれ伏してしまうような感覚は、露伴にはない。これは非常に面白いなぁと。

例えば「モナ・リザ」を前にした時、どのような動きをするのか。渡辺一貴さん(監督)に「一連で見せてください」と言われた時、僕は「モナ・リザ」に背を向けてしまったんです。つまり「モナ・リザ」をずっと見ているということが、嫌だった。そのひねくれ具合というものは、露伴の性質と、僕の本質的なものが相まったんだと思います。露伴は崇拝の気持ちが先行するのではなく、絵を正当に評価していく。この感覚を得られたのは、新たな発見でもありました。


●「岸辺露伴」チームについて 高橋一生長尾謙杜が語る“凄み”
画像11(C)2023「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」製作委員会 (C)LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社
――長尾さんは「岸辺露伴」チームと初めてタッグを組むことになりました。現場の雰囲気はいかがでしたか?
長尾:露伴先生のことが大好きな方々が集まったんだなという印象を受けました。あとは、やっぱり作り込みがすごい! 「これは一体どうやって作っているんだろう?」と疑問に思っていたところもあったので、そういった部分を現場で観させていただきました。それと画角にも注目してほしいです。僕は出演していませんが、露伴先生がルーヴルを立ち去るシーン。ここの画角がすごく面白いんです。
――高橋さんには、長年にわたってタッグを組んできたスタッフ陣の“凄み”を教えて頂きたいです。
高橋:大前提として、それぞれがルーティンワークにはなっていません。結果的に、こんなにも露伴のことが好きなのかという方々が集まっています。例えば、照明部の鳥内宏二さん。露伴がどのように映るのかを常に気にしていて、独自のアイデアを考えてきてくださいます。美術の磯貝さやかさんは“露伴であれば、こういう本を読むだろう”という考えのもと、シーズンごとに書棚のセレクトを変えていました。しかも、それを直接僕には伝えてこない。撮影で書棚に行った時に初めてわかるんです。つまり、それぞれが考える“岸辺露伴”を持ち寄り、僕という依り代を使って表現しているんです。「私は露伴のことをこのように考えています」というメッセージが、あらゆるところにちりばめられている。それを混ぜながら芝居をしていくことを、とても楽しく感じていました。
画像12(C)2023「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」製作委員会 (C)LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社
――旧知のスタッフ陣に加え、映画チーム、さらにフランスの現地スタッフが加わります。そのことによって、どのような効果が生まれたのでしょうか?
高橋:皆、露伴のことが大好きなんです。それが心強かったですし、嬉しかったです。パリのパートに登場するあるキャストの方は、本作のために髪をピンクに染めて、パーマまでかけたそうです。メイク室では、とても緊張されていました。ルーヴル・ピラミッド(ガラスと金属で制作されたピラミッド)の中にあるエスカレーターでのシーン。その方がアドリブでセリフをしゃべっていたので、フランス語のわかる方に、その内容を訳してもらったんです。このピラミッドはガラス張りになっていて、内部からは空が見える形になっていますが、その方は「俺、初めてルーヴルに来たんだけど、ピラミッドの内側には“空の絵”が描かれているのかと思っていたんだ。だけど本当に空が透けてるじゃん!」と言っていたそうです。これって荒木先生が書きそうなセリフじゃないか!と感じました。これまでの岸辺露伴の世界観を崩さずに、そうやって芝居をしてくださったんです。どこの部署の方々ちも、それぞれが考える露伴の世界、露伴像を出力してくれる――結論として、ここに関しては万国共通だったんです。
(取材・文/編集部 岡田寛司、写真/間庭裕基)

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