ヒトラー、スターリンら権力者のアーカイブ映像を使用 天国の門を目指してさまよう「独裁者たちのとき」ロシアの鬼才ソクーロフ監督が語る
2023年4月22日 08:00
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「エルミタージュ幻想」「太陽」などで知られるロシアの鬼才アレクサンドル・ソクーロフが、ダンテの「神曲」を彷彿させる冥界を舞台に、神の審判を受けるため天国の門を目指してさまよう独裁者たちの姿を描いた異色ドラマ「独裁者たちのとき」が公開された。
ヒトラー、スターリン、チャーチル、ムッソリーニ、実在した人物たちのアーカイブ映像を素材として使用し、独特なデジタルテクノロジーでその姿をスクリーンによみがえらせ、セリフも全て実際の発言や手記を引用。本作が完成したのは、ロシアによるウクライナ侵攻の年だったことから、物議を醸し、予定されていた第75回カンヌ国際映画祭での上映は中止となった。そんな本作についてソクーロフ監督が語ったインタビューが公開された。
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深い霧に包まれた廃墟の中に、ヒトラー、スターリン、チャーチル、ムッソリーニという、第2次世界大戦時に世界を動かした者たちの姿があった。煉獄の晩餐が始まると、彼らは互いの悪行を嘲笑し己の陶酔に浸る。彼らは地獄のようなこの場所で、天国へと続く門が開くのを待っているのだった。
私たち撮影班は、これまで20世紀において人々の人生を意中にしていた人物を観客に示す、そうした「権力の三部作」(「モレク神」「牡牛座 レーニンの肖像」「太陽」)をつくってきました。これらの映画で何が私たちの興味を引いたのでしょうか。それはたったひとつのことです。たったひとつだけ。どこから彼らの性格は来ているのか? どこから彼らの権力が大きくなっていったのか? どこからこれらの男たちのとてつもなく強大な悪が出てきたのかということです。
第2次世界大戦のない私の人生は想像できません。なぜかわからないのですが、この出来事が私の人生に降りかかってきたのです。大戦中まだ生まれていないのですが、両親は同時代を生きていました。どういうわけか私は、若い頃からそうした世界規模の壊滅的な出来事に関するあらゆることに、非常に強い関心がありました。だから、「独裁者たちのとき」の登場人物がすぐに私の「ホーム」のキャラクターになりました。私は4人をよく知っています。文字通り幼い頃から。これは奇妙なことです。説明ができません。でも私にとって彼らは皆、見知らぬ人ではないのです。おかしなことですが。
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政治家たちを支えるのは何百万人という人々です。政治家自身がこの数百万という人々の一部なのです。私たちはこのことを理解しなければなりません。政治家自身も、数百万の人間のうちのひとりなんです。そして彼がひとりで行動の決断を下すわけではありません。ともに支える数百万という人々がいるのです。
この映画を製作した技術、その手順については私たち撮影班の秘密です。私と一緒に仕事をした何人かの人間、若い同胞たちはシベリアやロシアの北、ペテルブルクの出身でした。それほど多くはなく、せいぜい5、6人でしたが、私たちはともにこの映像を作り出すための仕組みとあらゆる芸術的な方法を考案しました。
私が思うに、ロシアは映画芸術に向いています。政治はあまりうまくいっていません。ところが映画では、映画のイデオロギー、その技能、芸術的な手腕において、ロシアがもちろん優位にあると思います。
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私たちの手元にはスターリンを撮影した映像、フィルムのすべてと、チャーチル、ムッソリーニ、ヒトラーの生前の映像が何十時間分もありました。この膨大な映像を前に、政治家が、自らの名誉を忘れたように、客観的に、人間的なものが現れる瞬間をじっと見つけることが必要でした。そして、彼らはそこに一人の人間として存在していていることに気がつきました。
このような物語では、誰しも気に入ったところや気に入らないところがあって、互いの接点や共通の見解を見つけるのは非常に難しいと思います。この映画はファンタジーであって、ジャーナリズムでも学術研究でもありません。つまり、これは男性性の性格を描いた肖像であって、それ以上のものではありません。
いま起きていることの複雑で政治的、哲学的、社会的な原因はすべて、男性特有の性格に基づいています。この男性的な性格をどうするべきか? 男性的な性格が持つ永遠の悪徳をどうすべきかについて、私はまだわからなのです。
「独裁者たちのとき」は、4月22日から東京・渋谷のユーロスペースほか全国で順次公開。
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