押井守監督「スカイ・クロラ」は「一番気に入っている」「監督としての成熟を感じた最初の作品」
2023年3月21日 11:00

新潟市で開催中の「第1回新潟国際アニメーション映画祭」で3月20日、押井守監督の「スカイ・クロラ The Sky Crawlers」トーク付き上映があり、押井監督が2008年に公開された本作について語った。
森博嗣の同名小説を映画化した長編アニメ。過去の記憶がない戦闘機乗りの函南優一は、新たに着任した基地で上官となる女性・草薙水素に出会い、やがて惹かれていく。思春期の姿のまま永遠に生きる“キルドレ”と呼ばれる青年たちが、大人たちによって作られた“ショーとしての戦争”を戦う姿を通し、生きることの意味を問う。
自作の中で本作を「一番気に入っている」と公言している押井監督。「僕の仕事の中では異色作。それまで(登場人物の職業は)大体警察官だったが、これはPMC、民間の軍事会社の傭兵の話。そして、登城人物の外見は子どもだけれど中身が大人。そこをどう表現するか解決しない限りアニメにできなかった」と語る。

「アニメーションにはドラマと表現のテーマの二つがある」と説明する押井監督。本作では「どのレベルでどんなテーマを実現しようか、時間をどうやって表現しようかと考えます。アニメは普通に作ったら、絵だから時間は流れないのですが、キルドレの生きている時間を描かないとドラマにならない。彼らは3日前も、もっというと自分の前世も覚えていないという設定。彼らの永遠の待機の時間をどう表現するか」に心を砕いた。
セリフの量が少ないのも本作の特徴で、「世界の中心で、愛をさけぶ」など実写映画で活躍する伊藤ちひろが脚本を担当した。「普段の3倍くらいゆっくりなテンポで展開している」といい、人物は手描きにこだわった理由を「細部が重要な作品で、見かけ以上に手間がかかっている。微妙な表現は3DCGでは表現できないんです。人間が人間を見ることは恐ろしいほど正確なので、モーションキャプチャをとればいいということでもない。俳優さんは私生活などが背景に見えてしまうが、アニメーションの良さはキャラクターの向こうに誰もいないこと。その微妙な演技はアニメーターでないと出せない。それができるのも日本で10人くらいで、僕が一度に集められるのは4人くらいなので、重要なシーンをやってもらった」と振り返る。
とりわけ気に入っているシーンについて「ワルシャワの夜のシーンは改心の出来で、9割くらい成功している。あとは娼館のシーンで、コーヒーを淹れる場面では独特の情感が流れていいて。こんな風に表現できるアニメーターは僕の知る限り1人しかいない」と紹介。細かい芝居や時間の描き方にこだわった本作を「(製作当時)60歳過ぎてたけど、自分の中で監督としての成熟を感じられた最初の作品」と述懐した。

押井監督は映画祭コンペティション部門の審査委員長も務めているが、「スカイ・クロラ」にかかわった西尾鉄也氏が同じく作画監督、キャラクターデザインを務める「劇場版 ヴァンパイア・イン・ザ・ガーデン」が日本唯一の作品としてコンペ入りしている。「『スカイ・クロラ』とは全く違う、今風の感動的なアニメーション。(2作見比べられることは)めったにない機会だから是非」と会場の観客に鑑賞を勧めた。
コンペティション作品全ての鑑賞を終え、審査に向けて「いい作品が集まっていた。僕の頭の中ではこれしかないと、かたまっている」と明かす。しかし、「映画祭にコンテストは必要だが、はっきり言って映画に1等賞、2等賞などつけることできない。みんな自分の作品が世界一だと思っているから、僕も選ばれる立場になると嫌なのはわかるので、選ぶのも嫌な仕事。映画祭を盛り上げるために、1等賞をつけるだけ。カンヌでずっとパルムドールを獲り続け続ける監督もいません」と、賞を獲ることと作品の良し悪しは別であることを強調し、「何よりの証拠に、僕は大きな賞をもらったことはないですから」と後輩たちにメッセージを送った。
映画祭は22日まで開催。チケット販売など映画祭の情報は(https://niaff.net)で告知している。なお、映画祭事務局や上映会場で押井守監督描き下ろしのイラスト入りバッグ(1500円)、缶入りキャンディー(500円)が好評販売中だ。

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