「せかいのおきく」は究極の3R映画 美術・衣装・小物に新品は一切なし
2023年3月17日 08:00
本日3月17日は「みんなで考えるSDGsの日」。2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)が目指す持続可能な社会の実現のために、映画の撮影現場でも環境保護の取り組みが行われている。名匠・阪本順治監督の最新作「せかいのおきく」の撮影現場でも、江戸の循環型社会が描かれる本作の物語と同様に、環境に配慮した取り組みが行われた。
黒木華が主演を務める本作は、声を失った武家の娘・おきく(黒木)と雨宿りで出会った中次(寛一郎)、下肥買いの矢亮(池松壮亮)の青春物語。人間と自然が共生し、経済として成り立っていた江戸の循環型社会を描いていることも本作の特徴だ。
江戸では資源が少なく、衣食住のすべてが貴重なものだという考えが浸透しており、例えば、料理で使う鍋や食器は、割れたり穴が開けば焼き接ぎでくっつけるなど修理して使い続けていた。紙屑買いが集めた反古紙は漉き直して再生紙に何度も生まれ変わった。また、本作に登場する「下肥(しもごえ)買い」は「汚穢屋(おわいや)」とも呼ばれ、江戸市中から糞尿を集めて農家に運び畑の肥料として活用していた。
映画美術のセットは、建物や装飾、小道具など様々なものを新しく作り、撮影後は大量のごみとして排出されることも多々あるが、本作では、企画・プロデューサーで美術監督の原田満生氏の指揮のもと、美術セットや小道具、衣裳に至るまで劇中に出てくるもの全て、新しいものは一切使用しない、「3R(リデュース・リユース・リサイクル)」映画(原田氏が命名)として撮影することを決めて準備が進められた。
主人公・おきくが住む長屋のセットは、東映京都撮影所にある様々な名作が生まれたオープンセットをリユースして作られた。また、おきくと中次が手を取り合う本作のメイン写真にもなっている雪が降るシーンでも、松竹京都撮影所にある、長屋オープンセットをリユースして印象的な舞台を創りあげた。
ポスターにも登場する、おきくと中次・矢亮の3人が雨宿りする厠の建物は、新材ではなく古材を使って制作。中次と矢亮が下肥買いの仕事で乗る「汚穢(おわい)船」や、肩に担ぐ桶や大八車などもリユースされているものだ。
「汚穢船」について、美術監督の原田氏は「『せかいのおきく』で中次と矢亮が漕いでいる汚穢船は、昭和の高度成長期(今から60年くらい前)に造られた木船。現代では、木の船は殆どなく、多くが FRP(繊維強化プラスチック)で作られた船なのでとても貴重でした。この木船は栃木市で川の遊覧船として使われていたもので、古くなったので、本作のマリン統括ディレクターの中村勝が3艘を譲り受けました。その遊覧船を加工して汚穢船としてリユース、その際も新材ではなく、古材を使用しています。そのほうが、風合いも出て統一感がでるメリットもあります。それまでの歴史を背負っている、そのような存在感が出るのです」と説明。
続けて、「『せかいのおきく』の撮影が終わったら、次の作品では昭和初期の屋形船として加工してリユースしています。本作のように、3Rを徹底して映画の世界観を作り上げることができたのは初めてのことです。今あるものをリユースしていく取り組みは、映画の現場としても目指すべき姿です。この作品をきっかけに伝えていくことも大切だと思っています」と語る。
衣裳も全てリユースされており、池松演じる矢亮の衣裳の生地は明治時代のもの、そのほかは昭和初期の生地をリユースし、仕立て直している。そして、撮影で使用した美術セットや衣裳は全て捨てることなく撮影所に残し、また次の作品で活用してもらえるよう保管しているという。
「せかいのおきく」は4月28日から公開。
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
第86回アカデミー作品賞受賞作。南部の農園に売られた黒人ソロモン・ノーサップが12年間の壮絶な奴隷生活をつづった伝記を、「SHAME シェイム」で注目を集めたスティーブ・マックイーン監督が映画化した人間ドラマ。1841年、奴隷制度が廃止される前のニューヨーク州サラトガ。自由証明書で認められた自由黒人で、白人の友人も多くいた黒人バイオリニストのソロモンは、愛する家族とともに幸せな生活を送っていたが、ある白人の裏切りによって拉致され、奴隷としてニューオーリンズの地へ売られてしまう。狂信的な選民主義者のエップスら白人たちの容赦ない差別と暴力に苦しめられながらも、ソロモンは決して尊厳を失うことはなかった。やがて12年の歳月が流れたある日、ソロモンは奴隷制度撤廃を唱えるカナダ人労働者バスと出会う。アカデミー賞では作品、監督ほか計9部門にノミネート。作品賞、助演女優賞、脚色賞の3部門を受賞した。
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。