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「鬼滅の刃」が世界に示す、新たな映画の破壊力。“ワールドツアー上映”の興収はどこまで伸びる?【コラム/細野真宏の試写室日記】

2023年2月8日 06:30

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「『鬼滅の刃』上弦集結、そして刀鍛冶の里へ」
「『鬼滅の刃』上弦集結、そして刀鍛冶の里へ」
(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)(文/細野真宏)


先週末の2月3日(金)からワールドツアー上映「『鬼滅の刃』上弦集結、そして刀鍛冶の里へ」が公開され、想定通りの大ヒットを記録しています。

ただ、「想定通り」と、一言でいうのは簡単ですが、現実的には「異例中の異例な大ヒット」と言えるでしょう。

なぜなら、本作は、テレビ等で放送された第2期「遊郭編」の第10、11話。そして4月から放送される第3期「刀鍛冶の里編」の第1話をまとめて、一気に見られるように構成した特別上映版だからです。

冒頭にイントロのような映像はありますが、それはこれまでの経緯を簡単にまとめただけのもので、基本的には新規に描き起こされた要素はないような状態です。

つまり、大まかに「テレビの再放送」的な2話と、この4月から見られる第1話を合わせただけ、と言うこともできます。

では、なぜこのような建て付けの映画が、観客動員81万3422人、興行収入11億5876万5410円という「通常の映画では、最終の興行収入でも合格点」といった記録を公開から僅か3日間で達成しているのでしょうか?

画像2(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

これを考えるには、2つの事例の検証が必要になります。

1つ目は、テレビ放送の劇場先行公開というイベント的な手法はこれまでにも多くあったという点です。

例えば、直近では、2022年12月17日に公開された「かぐや様は告らせたい ファーストキッスは終わらない」があります。

これは、テレビアニメ第3期「かぐや様は告らせたい ウルトラロマンティック」のその後を描いた作品で、実質的にテレビアニメ第4期の先行公開の形です。

画像3(C)赤坂アカ/集英社・かぐや様は告らせたい製作委員会

ちょうどクリスマス周辺の出来事を描いているので、イベント上映の時期的にもピッタリな作品でした。

51館という小規模な公開でありながら、ファーストランの5週目以降となる6週目から89館に拡大し、興行収入2.2億円を突破しています。

大きな要因のひとつは、映画としてのクオリティーの高さ。とてもテレビアニメの先行公開とは思えない完成度でした。

加えて、配給元のアニプレックスが得意とする「入場者特典」も効果を発揮し、「1週目来場者特典」~「4週目来場者特典」を用意し、見たい気持ちの後押しをしていたこともあるでしょう。

つまり、のちにテレビなどで放送されようと、「いま映画館で見たい!」という人が累計17万人規模でいたことを意味しています。

実は「鬼滅の刃」においても2019年4月6日(土)からテレビで放送される前に「特別上映版」が映画として公開されていました。それはテレビアニメ第1話~第5話で構成された「鬼滅の刃 兄妹の絆」。2019年3月29日(金)から2週間限定、11館で上映されていたのです。

ちなみに、2019年3月19日(火)において、「ワールドプレミア 世界最速上映」と銘打つ舞台挨拶付き最速上映を新宿バルト9にて行なっています。

画像4(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

このように、アニメ版「鬼滅の刃」は、当初から世界規模の作品を目指していたことが伺えます。

そして、公開2週目となりテレビ放送が始まってからも入場者は途切れませんでした。11館では3週目も上映され、入場者特典も「来場者特典」として第1弾~第3弾と3週にわたって用意されました。

以上のように、テレビ放送の劇場先行公開というイベント的な手法はこれまでも多くあるのですが、基本的には「コア層が動く」というイメージになっています。

画像5(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

2つ目は、近年では「映画館」と「配信」が対立関係になりがちですが、「映画館」と「テレビ放送」というのが昔から大きなテーマとしてあります。

具体的には、テレビ局が関連している映画であれば、「どうせテレビで放送されるから」という理屈のもと、映画の動員が抑えられる点です。

これについては「話題性」と「映画館の付加価値」が重要な要素になると思われます。

基本的に人は流行りに敏感なので「話題性」があれば関心を持っていきます。

そして「映画館」でなければならない、という「映画館の付加価値」も加われば、映画館へと足を運ぶ確率が上がることになります。

この「映画館の付加価値」には、「ド迫力な映像・音響設備」、映画館でしかもらえない「入場者特典」などが挙げられます。

では、これらの2つの事例を基に、なぜワールドツアー上映「『鬼滅の刃』上弦集結、そして刀鍛冶の里へ」がこれまでのイベント上映とは「桁違いの動き」になっているのかを考えます。

まず、本作の内容は、テレビで既に放送されていたり、あと2か月もすれば自宅で見られる状態にあります。

それを踏まえると、「コア層が動く」という結果にならざるを得ないのです。

画像6(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

ただ、「鬼滅の刃」は、前作の映画「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」が2020年10月16日(金)に公開され、日本の歴代興行収入1位となる404.3億円を記録したことが象徴的ですが、「コア層」が他とは比較にならないほど多いのです!

また、「映画館でなければならない」という点では、本編映像を全編「4Kアップコンバート」、音楽も映画館用に「リミックス」など、劇場版にするべく動いた点があります。

ですが、このような形式的な技術論より、そもそもアニメ版「鬼滅の刃」の完成度が異常なほど高い。「無限列車編」だけが特別だったわけではないのです。

制作費の面で言うと、通常のテレビ版のアニメーションを作る際においても、映画クオリティーを実現していて、それを上乗せされた体制になっているようです。

そのため、どこを切り取っても「映画クオリティー」なので、あとは、どのタイミングで、映画として構成するのかが課題となります。

画像7(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

本作は、「上弦の鬼」初集結と、「次のパートへの自然な導入」という、非常によく考えられたタイミングと構成によって「映画化」を実現しているわけです。

このようなアクロバティックな手法を取ることができるのは、どこを切り取っても「映画クオリティー」という、極めてハードルの高いミッションを「鬼滅の刃」制作チームは実現できているからなのです。

このド迫力な映像・音響と、映画館の優れた「映像・音響設備」を掛け合わせると、さらに効果は増幅されていきます。

加えて、入場者特典も200万人に「上弦集結本」という冊子を付けるなど、従来のイベント上映という枠組みとは「桁が違う」対応をし、実際に大きな「コア層」が動いたのが今回の結果と言えるでしょう。

画像8(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
画像9(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

さて、本作の興行収入はどこまで伸びるのでしょうか?

まず、大きな「コア層」が動いたことで「話題性」は十分すぎるでしょう。

ただ、問題となってくるのは、本作は「テレビアニメ版への導入」的な要素も大きく、4月に「刀鍛冶の里編」の第1話が1時間スペシャルとして放送されます。

そのため、広がり切れない制約が生まれる「イベント上映」的な要素がマイナスに働かざるを得ないのです。

とは言え、入場者特典の第1弾が早々に無くなり、第2弾くらいは用意されていると想定されるので、日本では興行収入50億円は十分に狙える破壊力を持っているでしょう。

加えて、世界80か国以上の国・地域の映画館で上映する「ワールドツアー」。

ロサンゼルス、パリ、ベルリン、メキシコシティ、ソウル、台北などで舞台挨拶が行なわれるなど「世界のコア層」も動いていくことで、さらに 4月からの「刀鍛冶の里編」に期待が膨らみ、新たな「コア層」を生み出していくことにつながります。

従来は「イベント上映」として「こじんまりとした規模感で行なわざるを得なかった映画」が、「超大作映画」並みに世界規模で炸裂!

優れた原作と優れた制作陣の化学反応により、「従来の映画がぶつかってきた様々な壁」をぶち壊すアニメ版「鬼滅の刃」の破壊力は、まだまだ健在なのです。

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