【特別インタビュー】富岡涼さんが明かす、俳優復帰の経緯と「Dr.コトー診療所」への思い

2023年1月16日 21:00


俳優復帰を振り返ってくれた富岡涼さん
俳優復帰を振り返ってくれた富岡涼さん

人気テレビドラマ「Dr.コトー診療所」(2003、04、06)の16年ぶりの続編にして完結編となる映画が、興行収入20億円突破の大ヒットを飾っている。ドラマシリーズでも演出を務めた中江功監督のもと、コトー先生役の吉岡秀隆をはじめとするオリジナルキャストが再結集し、診療所のある志木那島の今をスクリーンに映し出す。

役者業を引退していたものの本作のためだけに復帰したのが、幼い頃に命を救ってくれたコトー先生に憧れて医者を志す、原剛洋役の富岡涼さん。ドラマでは少年だったが、16年のときを経て28歳となった剛洋を、ブランクを感じさせず演じ切った富岡さんに、出演の経緯と「Dr.コトー」への思いを聞いた。(取材・文/森祐美子)

※本記事には「Dr.コトー診療所」のネタバレが含まれています。未鑑賞の方は十分にご注意ください。


「最初に監督からお電話をいただいたときは、『元気にしてる? 今度どこかで話でもどう?』みたいな軽いトーンだったんです。お会いしたら、『“Dr.コトー”の続編があったらやる?』と聞かれて。そのときは驚き過ぎて『今は全然わからないです。想像がつかないです』と答えたんですが、続編があることは素直に嬉しいなと思いました」

■2カ月間も職場を抜けることを認めてくれた会社にも感謝しています

中江監督は、続編企画が動き始めた頃、自らの口でキャスト陣にそのことを伝えていった。すると「『剛洋は出るの?』ってみんな聞くんです」。誰もが気にしていたのが剛洋のことだった。

富岡さんは役者業を引退していたが、「Dr.コトー診療所」はテレビの再放送などで見ることがあり、いちファンとして大好きだったという。「島のみんなはどうしているんだろう。コトー先生は元気かな?」と考えることも。それだけに、「続編の話をいただいて、島のみんなや剛洋がどんな16年を過ごしていたのかすごく気になりましたし、役者を辞めてから時間が経っているのに声をかけていただいたことも嬉しかったです。ドラマシリーズにはいろんな思い出があり、現場の温かい雰囲気も大好きでした。この機会を逃したらもうキャストやスタッフの皆さんとお会いすることもないだろうと考えるとやっぱりやっておきたいし、こんな貴重な体験はなかなかできるものではないから自分にできることを精一杯頑張りたいと思いました」

映画の撮影期間は約2カ月。普段は会社員として働いているため、決断は簡単ではなかったが、出演することに決めた。「会社の人たちは冗談交じりに『戻ってくるよね? そのままフェイドアウトしないよね?』って(笑)。監督はプロデューサーさんと一緒に会社に来て、『お借りします』と言ってくださいました。監督やスタッフの皆さんに自分の生活も考慮していただいて感謝していますし、2カ月間も職場を抜けることを認めてくれた会社にも感謝しています」


■最初に脚本をもらっていたら、「できません」と言っていたかもしれない

クランクイン前には過去のドラマシリーズを見返したほか、2カ月で15キロほど体重を落とした。診療所のオープンセットがある与那国島に16年ぶりに降り立ったときは、故郷に帰ったような感覚になったという。「島の印象はあまり変わらなくて、懐かしかったですし、ここで実際にコトー先生が生きているような気がしました」

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劇中、数年ぶりに志木那島に戻った剛洋は島の人たちから大歓迎されるが、富岡さんもスタッフ・キャストに温かく迎え入れられた。「島の人が剛洋に『おかえり』と言っているのに近い感覚で、僕も皆さんに『おかえり』とか『大きくなったね』とか言ってもらって。ちょっと恥ずかしかったですけど(笑)、本当に嬉しかったですね。今回もドラマのときと変わらず温かくて楽しい現場で、幸せな気持ちになりました。剛洋が久しぶりに島に帰ってきたという設定も、僕自身の境遇と重なって演じやすかったです」

とはいえ、医大を中退していたことをコトー先生に伝えるシーンや、医者になれなかったことを父親に謝るシーンなど、演じるうえで重圧のかかるシーンも多かった。「剛洋は、素直で純粋で優しい心を持っているからこそ、医者になれなかったことを誰にも打ち明けられなかった。でも自分が一番辛く、申し訳なく思っている。その優しさと申し訳なさを表現するのが大変でした。これは衣装合わせのときに監督にもお伝えしたんですが、最初に脚本をもらっていたら、『できません』と言っていたかもしれないです(笑)。中江監督は、にやっと笑って、『そうだよね』って。中江監督らしいなと思いました(笑)」

剛洋の置かれている現状について、剛洋と同じ年齢の富岡さんには理解できる部分もあったという。「監督とお話ししたときに、監督は『剛洋は医者にはなっていない気がする。人生そんなにうまくいくものでもないよね』とおっしゃって。確かに、自分も社会人として働き出して6、7年になるんですが、同級生と集まって話をすると、みんな辛いこともたくさん経験して、日々もがきながら必死に生きている人が多いんです。脚本を読んで、リアリティがあると感じました」


■父親役の時任三郎、そしてコトー先生役の吉岡秀隆との再会

監督とは、「剛洋ならどうするか?」「剛洋はどう感じているか?」など細部まで話し合いながら演じていった。中江監督はそんな剛洋=富岡さんについて、「久しぶりの演技でしたが、お芝居の間合いも、体の動きも、子役の頃と何も変わっていなかったです。何よりも、スタッフとキャストが剛洋が変わっていなくて喜んでいることが一番嬉しかったです」と語っている。

剛洋の父親である、漁師の原剛利役の時任三郎さんともドラマ以来16年ぶりの再会となった。「昔に比べたら僕の背も伸びているのに、時任さんと話すときはいつも上を見上げる感じになって。相変わらず大きいな、ずっと大きいんだなって思いました(笑)。お父さんはドラマの前半の頃はピリッと怖いイメージがあったと思うんですけど、剛洋を肩車して漁港近くを歩くシーンがあって、そのときは本当に優しい表情なんです。自分は漁師で男らしい性格なのに、男手一つで育てている息子はそういう感じでもなく(笑)、でもそれでも息子のことが大好きな気持ちが溢れている。僕にとって時任さんは、あの優しいお父さんの雰囲気そのままの方です」

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そしてコトー先生も「昔と変わらない、優しいコトー先生でした」と語る。「ただ、髪の毛が白くなっていて、16年間の暮らしぶりが想像できました。辛いことがたくさんあったんだろうけど、ひとつひとつ向き合い続けて、だからこそみんなに慕われるようなオーラが出ているんだなと。吉岡さんとは、今回の現場でいろいろなお話をさせていただきました。『剛洋くんは昔からこうだよね』という話をしてくださって、『本当にそうだったな』と思い出すこともたくさんあり、ありがたかったです」

剛洋の東京の部屋には、かつてコトー先生に贈られた、「Boys, be ambitious(少年よ大志を抱け)」とメッセージの入った英和辞典が今も置かれている。「剛洋は、コトー先生や島の人たちの期待を背負って、子供の頃から東京で下宿生活をして、必死で夢を追いかけてきたけどうまくいかない。幼い頃の気持ちをずっと忘れずにやっていたのに、成功できない。はがゆい気持ちにもなりますが、やけくそになってあの辞書を捨てたりしないところが、剛洋のいいところだなと思います」と富岡さん。ちなみに、監督が剛洋のテーマにしている曲のタイトルも「Ambitious」だ。


■最初で最後の役者復帰を経て、いま思うこと

完成した作品を見たときは、一艘のフェリーが大海原を行くオープニングのシーンから「このあとコトー先生に会える」という思いでワクワクしたという。「映画を見ると、島では、みんなそれぞれの生活や仕事があって、それぞれが必死に生きていました。そしてその中心にコトー先生がいる。昔も今も変わらない、島の人たちの思い、優しさ、温かさをひしひしと感じるシーンもありました。だから僕は『Dr.コトー』が大好きなのかもしれないです。みんな必死に生きているから、改めて自分もちゃんと生きようという気持ちにさせてもらえる。そんな映画でした」

最初で最後の役者復帰は、「共演者の皆さんやスタッフの皆さんに温かく迎え入れていただいて、本当に貴重な体験をさせていただきました」と振り返る。「見てくださるお客さんにいいものを届けたい、喜んでもらいたいという思いで、みんなが同じ方向を向いてひとつのものを作り上げていく。そんな現場に自分がいられることがすごく幸せでした。働くというのは本当に大変だけど素晴らしいことだなと。今は全然違う仕事をしていますが、どんな仕事でも誰かに喜んでもらうことはできますし、より一層頑張ろうという気持ちにさせてもらえました」。そう言って見せた清々しい笑顔が、素直で優しく、誰からも愛される剛洋の面影と重なった。

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