この突然変異的な面白さを持つ作品を観ない手はない。「貞子DX」【人間食べ食べカエルのホラー映画コラム】
2022年12月23日 22:00
(C)2022「貞子DX」製作委員会貞子を知らない人はほとんどいないだろう。日本を代表する黒髪白服の女性幽霊。幽霊といえば貞子、貞子といえば幽霊。そんな認識の人も少なくないと思う。伽椰子やさっちゃん(※「渋谷怪談」に出てくる元気な女の子の霊)なんかも忘れないでほしいけどね!
さて、そんな貞子さんだが、1998年製作の「リング」以降、次々と新作が作られ、海を渡ってハリウッドデビューも果たし、良くも悪くも存在が大きくなりすぎて、いつしか恐怖の存在というより単なる有名な1キャラクターと化してしまった。今回紹介する「貞子DX」は、そんな肥大化した貞子、ひいては呪いのビデオ像を、原作の持つ要素やルールを引き継ぎつつも派手に壊して、そして再構築した、とてもチャレンジングな意欲作である。

呪いのビデオを観た者が24時間後に突然死するという怪事件が発生。時間が来ると、突然苦しみだし、前転をしたと思ったら死ぬ。それはあまりにも謎すぎる死に様だった。そんな恐ろしい事件に、IQ200の頭脳を持つ天才女子大学生 一条文華(小芝風花)、凄まじいナルシストの自称占い師 前田王司(川村壱馬)、正体不明の謎の人、感電ロイド(黒羽麻璃央)らが挑む。超個性的なメンバーは、この恐ろしい事象から生き残る術を見つけようとするが……。
まず、「貞子DX」は怖がらせる気はない。ここを抑えてから本編に臨もう。ホラーにあるまじき作りで、しかもおふざけ要素も強めだ。それだけ聞くと「駄作じゃん!」と思うだろうが、なんとこの映画、超面白いのだ。本作の何が良いって、とにかく話がシンプルなところだ。ストーリーの筋道が物凄く明確で、その単純明快さが観ていてとにかく心地良い。貞子の出自だとか余計な要素を盛り込まず、ひたすら「呪いのウイルスをどう攻略するか」この1点に焦点を絞り、すべての登場人物がそのゴールに向けて行動する。狂ったキャラクターしかいないが、それでも混乱せず、全員の見ている方向がハッキリと分かり、ドラマにのめりこむことが出来るのは、ひとえにストーリーがシンプルだからだ。

また、呪いのウイルスがもたらす死のルールを最後まで崩さず徹底しているところも偉い。ホラーは意外と自ら示した決まり事を壊して、なし崩し的に終わる作品が多い。だが本作は、呪いのルールを徹底的に守り、その制約を壊さずしてどう生き延びればいいのかに終始する。そして最後まで、ルールの中で立ち向かう方法を見つけようと奮闘する。これが出来ている作品は希少だ。ここだけでも本作は凡百のホラーと一線を画す。そのうえで、本作が提示する呪いのビデオの扱い方は、「その手があったか!」と思わず唸ってしまった。これ、すごいよ。24時間というタイムリミットを示し、そこまでに解決しないと生き残れないというスリルも機能している。意外と(と、言っては失礼だが)、ちゃんと作品が組み立てられているのだ。
加えて、キャラ自体がイキイキとしていることも本作の特筆すべき点だ。繰り返しとなり申し訳ないが、登場人物のほとんどが正気ではない。だが、彼らは書き割りの狂人でなく、それぞれがちゃんと命を持って生きている(と思わせてくれる)。それゆえ多少ふざけていてもサムくならない。観る前は「このノリは絶対サムイだろ」と舐めていたが、見終わる頃には全員好きになってしまっていた。

特にメインキャラの一条と前田のコンビは格別に素晴らしい。前田はド級のナルシストかつ異様に前向きで、しかも底抜けのバカという救いようのないキャラだ。そんな前田の一挙手一投足に対して常に一条が不快感を示すという、オモシロ関係性が全編にわたって構築されている。恋愛になりそうでならないとかの次元でなく、シンプルに“あり得ない”。でも呪いのビデオを止めたい目的は一緒。だから協力して立ち向かう。この割り切った距離感が観ていて超楽しい。取ってつけたような色恋沙汰もないためノイズはなく、本筋である呪いのウイルス攻略に100%集中できるのだ。このようにキャラの関係性も、ちゃんと本筋がブレないよう設計されている。見事としか言いようがない。
この映画、何も考えていないようでいて、実は細部まで考え抜かれた作品だと思う。1つのストーリーラインを明確に示し、そこからは逸脱しないまま様々な面白要素もテンコ盛りにして、最後まで走り切る。実は貞子はほとんど出ないんだけど、それが全く気にならないくらい面白い。というか、今回に限っては出なくて正解ですらある。生活形態に大きな変化が起きた現代だからこそ作ることのできた新たな呪いの形。でもちゃんとリング。これを離れ業としてなんと言おうか。怖くはないが、それも込みにして全てが完ぺきだったと思う。この突然変異的な面白さを持つ作品を観ない手はない。

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