【「あのこと」評論】この痛みを正視せよ、というメッセージに満ちた正真の恐怖映画
2022年11月26日 22:00
2021年のヴェネチア国際映画祭で金獅子賞に輝き、ヨーロッパを席巻した本作は、今年ノーベル文学賞を受賞したアニー・エルノーが自らの体験を元に書いた原作の映画化である。
舞台は1963年のフランス。大学生のアンヌは、将来を掛けた試験を間近にして妊娠が発覚する。相手はひと夏の付き合いだった大学生で、彼女に産む気はない。だが中絶が違法な時代、医者はもとより誰も頼れる者がいない中で、アンヌは決断を迫られる。
オードレイ・ディヴァン監督の意匠は、本作を正統的な社会派映画として扱うのではなく、あくまで感覚に訴えるアプローチを取ったことだ。頭ではなく本能的にわからせることで、この特別な立場に立たされた者の恐怖や痛みを、観客に体感させる。そう、これはある種ホラー映画と言える。それは理性に訴えかけるよりも遥かに、テーマを伝える威力を持つのではないか。
そのアプローチとは、カメラワークにある。アスペクト比1.37対1という、いささか息苦しさを感じる画角を用いて、カメラはヒロインに密着し、その焦りや苦悩を掬い取る。彼女のうなじの汗、息遣い、心ここにあらずといった様子で宙をさまよう眼差しを捉え、ときには彼女の視線となって、冷たく扉を閉ざす世界を見つめる。
また妊娠週を示すテロップが挟まれることで、刻一刻とタイムリミットが迫ってくることが告げられる。そうしてついに迎えるクライマックスの衝撃は、果たして男性監督であれば逆にここまで描写できただろうか、という気がしなくもない。それほどに手加減なしの、「これを正視せよ」というメッセージが伝わってくる。
「アンヌは兵士です」と、ディヴァン監督は称しているが、たしかに不条理な世界を相手にひとり戦っている不屈の闘士にちがいない。その決意がなければ自らの夢には届かない、女性にとってはそんな過酷な時代だったことを本作は教えてくれる。
アメリカでは再び中絶を禁止する州も出ている今、期せずしてタイムリーな作品となった。
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