なぜクズ男に惹かれてしまうのか? “ダメで苦しい恋愛は、密室で生まれがち“という真理を導く「もっと超越した所へ。」【二村ヒトシコラム】

2022年10月18日 22:00


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作家でAV監督の二村ヒトシさんが、恋愛、セックスを描く映画を読み解くコラムです。今回は、劇作家の根本宗子が脚本・演出を手がけた2015年上演の同名舞台を、根本自らの脚本、山岸聖太監督が前田敦子主演で映画化した「もっと超越した所へ。」。ダメ男を引き寄せる4人の女たちの恋愛模様を描いた本作を、二村さんならではの視点で読み解きます。


しかし優秀だったり仕事ができたり才能あったり性格よかったりする女性、なぜ皆さん揃いも揃ってクズな男性が好きなんですかね?

もしかして、ちゃんとしているクズじゃない男たちは男たちで、みんなクズな女が好きで、それで人類はバランス取れてるってことなんですかね。ちゃんとした人がちゃんとした人ばかりとくっつき、クズがクズとばかりくっつく世の中よりはマシなのかな。

優秀だったり性格よかったりする女性がクズな男性に惹かれる原因としては、その女性の両親どちらか(もしくは両方)がダメなクズ、もしくは社会的には成功してるけど家ではクズな人間だったから、彼女もクズしか愛せなくなってしまった(そして彼女はヤングケアラーとして、優秀になったり性格よくなったりせざるをえなかった)という場合もあると思われる。

なぜか自分も大したことない女なのだと思いこんでクズ男なら釣りあいがとれると無意識に決めて、わざわざ選んでしまってる場合もあると思われる。

仕事で優秀であることと自分が「女である」こととのあいだに引き裂かれて悩んでるところに、女に甘えたり女を甘えさせるのが異常に上手なクズ男がつけこむという場合もあると思われる。

性格よすぎるからクズ男を際限なく甘えさせてしまい進退きわまるという場合もあると思われるし、まあいろいろだ。

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だがこの「もっと超越した所へ。」は、そういったいろいろな「原因」のことは描かない。そこをぐじぐじ描くと、もしかしたら映画を観る女性に罪悪感を与える結果になってしまうからかもしれない。そう考えると、この残酷な映画は、とても優しい映画でもある。

この映画はひたすら、登場人物たちのその時の「いま」を描いている。同じような別の相手と同じようなことを繰り返してしまう人生は、つまり一種のタイムリープなのだ。そこから脱出するためには、いや脱出できるのかどうかは知らないが、少なくとも時間を前に進めるためには、自分がなぜそうなったかの原因をぐじぐじ考えてても仕方ないのである。どうしようもない人間のどうしようもなさの「原因」を映画で描くと悲劇になって、それで終わってしまう。「もっと超越した所へ。」は痛いけれども喜劇なのだ。

クズな男性ばかりと深い仲になってしまう優秀だったり性格よかったり(?)する4人の女性を演じるのは、前田敦子伊藤万理華黒川芽以趣里

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彼女たちの人生に侵襲するクズ男たちは、そうとうひどい。見事にひどい。あるクズ男は甘えながら「うまくいかないのは、僕をイラつかせるお前のせいだ」と言う。

あるクズ男は「僕を認めない世間が悪い」と言って、世の中から差別されがちな職業の女を差別しながら同時に甘え、むなしい快感に溺れる。

あるクズ男は「僕は被害者だ。僕は君より可哀想だ」と言う。しかも言外に「しかも君より僕のほうが可愛いらしい」というメッセージを放つ。

あるクズ男は、自分が面白い奴であるとアピールすることで、ひたすら自分の弱さを隠蔽しようとする。しかもそのアピールが、つまらない(それを面白がってみせる女も女であるが、彼女は彼に惚れているから、そのときは本当に面白がっているのかもしれない)。しかし彼の弱さは、彼が女性の身体の大変さに関心を持たないことによって必ず露呈する……。

4人の男に共通しているのは、女たちのそれぞれの「さみしさ」をじつによく体感していて、そこにつけこんでいることだ。

そんな4人のクズ男を演じるのは、菊池風磨三浦貴大千葉雄大、オカモトレイジ。

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原作・脚本は根本宗子。演劇の人である根本は、この「終わらない物語」にとりあえずのエンディングを与えるために、ある演劇的でド派手なギミックを用意した。でね、ネタバレになりすぎないように注意して書きますけど、そのギミックは一見アホなように見えて、じつは非常に鋭く、ひとつの教訓というか真理を導きだしているように思いました。

それは「ダメで苦しい恋愛は、密室で生まれがち」という真理である。

恋人の人生に侵襲してきて依存する奴も悪いのだが、そういう煮詰まった関係を生んでしまうのは、精神的な密室だ。うかうかとダメ男を甘えさせてしまう優秀で性格よくてさみしい女に必要なのは、密室的な関係の壁を壊して外に出て話ができる「恋人ではない知りあい」と出会うことだ。

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