【インタビュー】“愛しきクズ男”を愛嬌たっぷりに演じた菊池風磨の恋愛観 「何かを超越した先に、恋人同士のふたりがいる」
2022年10月11日 09:00
「『付き合う』ということは、ひとつ何かを超越しているということ。その先に恋人同士のふたりがいるので、一緒にいることはすごいことなんです」「恋愛は、ふたりにしかわからないことなんですよね」。そんな恋愛観を語ってくれたのは、ダメ男を引き寄せる女性たちの恋模様を描く「もっと超越した所へ。」(10月14日公開)に出演した菊池風磨(「Sexy Zone」)。このほどインタビューで、作品から得た恋愛観をはじめ、演じたクズ男を愛嬌たっぷりにかわいらしく見せようと苦心した撮影の裏側、タイトルへの思いなどを明かした。(取材・文/編集部)
本作は、2015年に東京・下北沢のザ・スズナリで上演された、劇作家であり演出家の根本宗子の作・演出・出演による同名舞台を映画化するもの。根本自身が脚本を執筆し、ドラマ「下北沢ダイハード」でもタッグを組んだ山岸聖太監督がメガホンをとった。描かれるのは、男女8人4組が笑い、泣き、怒鳴り合う、すさまじき恋愛の世界。恋人たちの会話劇のなかで、それぞれのちょっとした不満や違和感が蓄積・爆発し、やがて物語は「もっと超越した所へ。」と、猛スピードで突き進んでいく。
衣装デザイナー・真知子(前田敦子)、元子役のバラエティタレント・鈴(趣里)、金髪ギャル・美和(伊藤万理華)、風俗嬢・七瀬(黒川芽以)。2020年、彼女たちはそれぞれクズ男と付き合っていた。真知子はバンドマン志望の怜人(菊池)、鈴はあざとかわいい男子の富(千葉雄大)、美和はハイテンションなフリーター・泰造(オカモトレイジ)、七瀬はプライドの高い元子役・慎太郎(三浦貴大)。彼女たちは彼氏に不満を感じつつも、それなりに幸せな日々を過ごしていた。しかし、彼女に甘えた男たちは増長し、ある事件が勃発。恋人たちに、遂に別れの時が訪れる。
菊池は本作で、「劇場版 仮面ティーチャー」以来、約8年ぶりの映画出演を果たした。演じた怜人は、バンドマンを目指しているものの、現在はライブ配信の投げ銭で小遣いを稼いでいる。甘え上手なヒモ体質で、久々に再会した中学の同級生・真知子の部屋に転がり込む“生粋のクズ男”。そんな怜人という役に、菊池は「全く理解できるところがなかった」という。
「怜人以外のキャラクターに対しては、割と理解できるところがあって。もちろんまだ、あそこまでクズにはなっていないつもりなんですが(笑)、『自分に好意を寄せている女性に甘えてしまうよな』とか、『相手の仕事がうまくいっていて、自分がうまくいっていないと、負い目を感じてしまうというか、複雑な気持ちになるのかな』とか、理解できるところがありました」
「でも、僕が演じた怜人くんに関しては、あんまり共感できるところがないんですよね。僕はヒモになったり、束縛したりする感覚が分からないんです。でも、自分に当てはまらないからこそ、演じるのはすごく楽しかったですし、自分と真逆の人の気持ちを考えることは、すごく良い機会になりました。『男性4人の役のなかで、誰の役をやりたいですか?』と言われたら、怜人を選ぶと思います。全く理解できないところで、自分の面白味が出せるかなと思いました」
ともすれば怜人は、観客の反感を招きかねないキャラクターではあるが、菊池が息吹を注ぎ込んだことで、“愛しきクズ男”とでもいうべきチャーミングな人物に仕上がっている。この憎めなさ、かわいらしさの絶妙な加減で、真知子がつい“沼って”しまうのも納得できるのだ。
「役のイメージはすぐに浮かびました。当初は、完成バージョンよりは少し、かわいくなかったかもしれないですが(笑)。顔合わせや読み合わせで相談して、『イメージよりもっとかわいくしてみようかな』と思いました。怜人はまず、セリフにかわいらしさや愛嬌があって、言い回しやちょっとした仕草は、自分なりに解釈して表現してみました。山岸監督とも話し合って、『このシーン、もうちょっとかわいくしてください』とご提案頂いたり、僕も思い切ってテストや本番で挑戦してみたり。“かわいい度合い”は決めてもらいつつ、山岸監督と話し合いながら作っていった役でした」
「山岸監督はすごく寄り添ってくれる方で、ご自身の意見を言いつつも、『どう思います?』と、僕にも振ってくださる感じでした。そうやって聞いてくださることによって、役に命が吹き込まれていく感じがして、怜人として生きやすかったです」
本作の根本脚本は、ふとした発言に真意が覗いたり、何気ない仕草から価値観が透けて見えたりと、緻密な人間の造形が魅力的。ある共通のアイテムを絡め、女性4人のキャラクターの違いが描かれる冒頭シーンや、コロナ禍という未曽有の出来事を盛りこみ、それぞれの受け止め方の違いをあぶりだす構成は秀逸だ。
怜人は、「買ってきてあげる」「行ってきてあげる」など恩着せがましい物言いで、日常のなかで少しずつ、真知子にストレスを与えていく。そんなリアルで生々しいやりとりを見て、観客が共感ポイントや、過去の恋愛と重なる部分を見つけられるのも、本作の楽しみ方のひとつ。
「根本さんの脚本を読ませて頂いたときに、『すごくリアルだな』と思ったんですよ。クズ男度合いやクライマックスの展開は、リアルだけれどぶっ飛んでいる、そのバランスが面白いなと思っていました」
「完成作を見たとき、僕は『(怜人以外の)ほかの3人はキャラクターが派手だな』と思ったんですよ。僕のキャラクターだけ、より生々しい感じがして。根本さんがどういう恋愛をしてきたのか、すごく気になったので、下北とかでお酒を飲みながら、深く話してみたいなと思いました(笑)」
真知子に扮した前田とは、地獄のような喧嘩シーンなど濃厚な芝居を繰り広げたが、刺激を受けた部分はあったのだろうか。
「前田さんのお芝居は、ふつふつと感情が高ぶっていくというか、不満や違和感を覚えていって、ちょっとずつ表に出てくる感じがすごく繊細で、きれいだなと思いましたね。怒りがマックスになって爆発して、感情がこみ上げるシーンでも、もちろんパンチはあるんですが、『いきなりきた』という感じではなくて、ちょっとずつ小出しにしていって爆発するという段階を踏む感じ、その機微が、見ていてリアルでした。僕は、感情を爆発させるシーンは難しいと思っているんですが、お互いが100%、200%でぶつかり合っていると、引っ張り合う感覚が絶対に生まれる。そのあたりが、前田さんとうまく表現できたんじゃないかなと思います」
本作の特筆すべき点は、女性がダメ男たちにブチギレる「ダメ恋愛もの」にとどまらず、さらなる展開が用意されているところ。男女両方が抱える弱さや葛藤が、等しく描かれ、ある“超越的結末”へと導かれていく。最後に物語を通して得た、恋愛にまつわる教訓について、教えてもらった。
「男性も女性も抱えている、『自分のパートナーにこういうことをしちゃっているな』という思いを、まるっと肯定してくれる映画だと思います。それが人として正しいかと言われると、そうじゃないかもしれませんが、登場するそれぞれのカップルの、納得した上でダメな部分も愛して、ふたりは幸せだという状態を見ると、自分のダメなところをちょっと肯定してもらえるような気がして。最初はカップルで見に行くと気まずいのかなと思ったんですが、実はそんなことはなくて、ふたり自身のことを愛せるような作品になっていると思います」
「とにかく、8人のキャラクターがすごく面白いです。ぶっ飛び過ぎていて、見る方も最初は、自分や相手には当てはまらないと感じるかもしれませんが、『こういう部分はリンクしているな』『この気持ちわかるな』と、派手なキャラクターのなかに自分が見えたりするので、自分の弱いところを突かれるような作品になっています。それだけじゃなくて、そんな自分を許してあげようと思える作品です。クズ男の弱いところだけではなく、それを許してしまう女性の弱いところ。お互いに弱いところを持ったふたりが一緒にいたら、幸せなんじゃないかと」
「もっと超越した所へ。」という意味深なタイトルにも、思うところがあったそう。
「意外にカップルって、外から見ると『えっ?』というようなことでも、割り切っていたり、ひとつ超えていたりする部分があると思います。他者は『超越しているな』と思うけれど、当人同士はそんな意識はあんまりなくて、不思議なギャップがありますよね。超越し切れない場合は別れてしまうと思いますし。『付き合う』ということは、ひとつ何かを超越しているということ。その先に恋人同士のふたりがいるので、一緒にいることはすごいことなんです。そう気付かされる作品であり、タイトルだと思います」
「他者は全く理解できない、むしろ『別れた方がいい』と言われてしまうカップルも、当人同士は幸せで、案外心地良かったりするんですよね。『相手以外、ほかの人が考えられない』という状態になるほど、ふたりだけが分かる世界があるんだなと感じました。恋愛については、周りがとやかく言うものじゃないですか。でも、『周りが何かを言うことじゃないよな』『恋愛は、ふたりにしかわからないことだよね』と、気付かせてくれる作品です」
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