小池徹平が3度目の「キンキーブーツ」に込めた深い思いと願い!【若林ゆり 舞台.com】
2022年9月30日 13:00
あの「キンキーブーツ」日本版が帰ってくる。日本人キャストによる海外ミュージカルのなかでも、この作品は特別な、記憶に残る作品だ。ブロードウェイでトニー賞を総なめにしたオリジナルがそもそも、映画のミュージカル化作品として最高峰と言える傑作。そのオリジナルも手がけたジェリー・ミッチェル演出・振付のもと、日本版が最初に幕を開けたのは2016年。このすぐ後に上演された来日公演にも引けを取らない、驚異のクオリティだった。19年にはほぼ同じキャストでさらに磨きのかかったステージを実現し、客席を文字どおり熱狂の渦に巻き込んだ。そしていよいよ、このミュージカルが日本で3度目の上演を果たす。
しかし今回の上演は簡単なことではなかった。世界的なコロナ禍のまっただ中。そして、この作品にとって「なくてはならない」はずだったキャスト――主人公・チャーリーの人生を変えるドラァグクイーン、ローラ役のオリジナルキャストとして輝きを放った三浦春馬さんの不在という、避けられない現実。チャーリー役の小池徹平にとっても、その現実は重かった。3度目の「キンキーブーツ」にどう向き合ったのか。その思いを、小池は率直に語ってくれた。
「今回、実際にプロデューサーから上演を予定通り行うという話を聞いたときは、正直、僕的には『やろう』という気持ちには、すぐにはなれなかったんです。とても素敵な作品だけど、『みなさんが楽しめるものになるのか?』と。コロナ禍でお客さんが声を出して感情を表しにくいということもあるし、春馬があれだけ情熱を傾けてつくりあげたものを、彼を抜きにしてできるのか。でもプロデューサーの思いを聞いているうちに、僕も思ったんです。春馬がすごく愛して、思いが詰まった作品だからこそ、続けていかなければいけない。今回、いろんな思いを抱えて見に来てくださる方に、そして初めて見に来てくださる方にも、『キンキーブーツ』ってすごく素敵だね、最高の作品だよねって思ってほしい。春馬もそれを望んでいるはずだから」
「でも、初演・再演をともにしたカンパニーのみんなには、僕から『やろうよ』とはとても言えなかった。そのみんながまた集まってくれて、顔合わせのとき『こういう気持ちでここにいるんです』という思いをシェアできたときは、『一歩を踏み出して本当によかったな、なんて温かくて家族みたいなんだろうなぁ』と温かい気持ちになれました」
この話を聞いているとき、筆者の頭のなかにはこのミュージカルでチャーリーが歌う「Step One」という曲が鳴り響いた。亡き父の傾いた靴工場をいきなり任されたチャーリーが、困難に立ち向かい、新たな一歩を踏み出す決意を爆発させるナンバーだ。小池自身と重なるのでは?
「僕は爆発という感じではなかったんですけどね。カンパニーのおかげで、決意はしたものの弱火中火くらいの感じだったものが、ふわーっと温まった感覚でした。相当なエネルギーがないと踏み出せなかったけど、一歩踏み出さなかったら見えないものがきっと見えると思うんです。初演のときもそうでした。求められるスキルがめちゃくちゃ高くて、こんなハイプレッシャーな作品は初めてだったんです。ジェリー・ミッチェルさんが来日する前、演出助手のD・B・ボンズさんの演出を初めて受けたときの衝撃たるや! ブロードウェイのすごさを目の前に叩きつけられたような感じで、もう忘れられないですね。ハードルがあまりに高かったので、この作品のおかげで自分のすべてのスキルが一段も二段も上がったような感じがするぐらい、大変な作品でした。今回、自分のなかで『ちゃんと使命を果たせるんじゃないかな』と思えるのは、やっぱり1回目と2回目を経験して、乗り越えてきているからだと思います」
今回の上演で最も大きなチェンジが、ローラ役を城田優が務めるということ。三浦とも小池とも旧知の友である城田の登板は、必然だとも思える。
「作品の鍵となるローラが城田になることで、作品もかなり印象が変わってくるでしょうね。僕は優に関しては、なんの心配も不安もないんです。彼はやってくれると思うので。プレッシャーを与えるつもりはないんですけど、『優なりの最高のローラを見せてくれるだろうな』と期待しています。明らかに違うのは、前のローラよりも遥かに高身長のローラだということ。お客さんが見たときに、チャーリーの僕と『すごい身長差だな』みたいな感じになるだろうなと。ローラっていい意味でやっぱり“怪物的”ですし、圧倒的でものすごい存在感でキラキラしていて、というようなところが強調されると思います。そういう“怪物”を目の前にしたときに、チャーリーはどうなるんだろう? そういった部分は実際に板(舞台)の上で歌ってみないとわからない部分があるので、そこは今回の楽しみです」
この作品はチャーリーとローラが互いに理解し合い、信頼を深めていく過程がそのまま物語と結びついている。小池と城田の間にもやはり、関係の深まりが感じられつつあるという。
「僕と城田は高校の同級生で20年来の友だちでもあるんですけど、これまで一度も役者として共演という機会はなかったんです。だから、新たな城田を見ているようで新鮮ですね。僕にできることは、城田ローラのサポートなんだろうなと思っています。信頼関係は、勝手ながらすごくあると思っていて。彼とは高校時代、つねに一緒にいるというわけではなかったんですけど、いまどう考えているんだろうなというのはわかる気がするんです。なんせ彼は、自称“ガラスのハートの持ち主”なので(笑)、不安でしょうがないんですよね、たぶん。それをあまり見せないで飄々としているんですが、それを見て僕は『僕だけじゃなくてみんなも頼むよ、カンパニーのみんなで支えよう』という感じ。『もっとこうした方がいい』とか、そういうことを言うつもりは一切ありません。ただ寄り添って、迷うことがあれば導いてあげたいなという気持ちでいます」
小池自身は、チャーリーという役をどうとらえている? 役と向き合うなかで、今回はどんな変化を感じているのだろうか。
「チャーリーは非常に保守的な人間でもあるんですけど、靴工場の仲間たちを家族のように思っていて、すごく温かい心の持ち主でもある。また、自分が本当に思っていることにちゃんと向き合ったことがなくて、子どもっぽい部分もあるんですね。それが窮地に立たされたときローラと出会って、まったく違う相手を受け入れることでいろいろなことを学んで、人間としてどんどん成長していく。その姿に若者のパワーみたいなものを感じて、非常に魅力的な人間だなあと僕は思っています」
「僕自身が年を重ねてきて感じるものが変わったり、もちろん城田ローラの出方によって変わる部分はもちろんあると思いますが、アプローチを変えようとは思っていないんです。『キンキーブーツ』って、海外で完璧に出来上がったものをいかに崩さずにやるかということが大事な作品でもあり、そこがオリジナル作品とは違うんですよ。役者の動きに関しても全世界共通のルールがあって、『自分の気持ちに反して、決められた動きをしなければいけない』みたいな葛藤もある。それでも、それを受け入れてやるのがこの作品なんです。その上でいかに、より説得力とクオリティの高いチャーリーをつくっていくかというのが課題であり、楽しみでもあります。それから、いまはLGBTやマイノリティに対する社会の意識も変わってきているので、セリフもちょっとマイナーチェンジした部分があって、『入ってきやすいな』と思ってもらえるんじゃないかな」
今年の5月~6月には座長を務めたステージアラウンドでのミュージカル「るろうに剣心 京都編」を成功させ、俳優としての充実ぶりを感じさせる小池。36歳とは思えないほど、風貌や表情は少年のままのかわいらしさだが、話していて感じるのは潔い「男気」や、やさしい「男っぽさ」。そのギャップも魅力だ。
「これが僕なのでギャップと言われても自分ではわからないですけど(笑)、意外と城田と並んだときも、どっちかと言うと僕の方がお兄ちゃんっぽいですね。この前まで『るろうに剣心』やコンサートで一緒だった加藤和樹さんもそう。どう見ても彼の方が年上だし見た目もすごく男らしい。でも性格的には絶対に僕の方がお兄ちゃんで、彼は弟みたいな感じなんですよ。別に僕はお兄ちゃんでいなきゃとか男らしくしようなんて意識はしてないんですけど、単純に僕が長男だからですかね。みんな楽しくやれたらいいし、みんなを優しく受け入れて、頑張ろうみたいな気持ちでいるだけです。『みなさんがハッピーだったらいいじゃん』みたいな感じで、すごい平和主義。争いごとは大嫌いという人間です」
3度目の「キンキーブーツ」は、期待値もより高くなっているだろう、と、小池は覚悟している。それでも、ひとりでも多くのお客さんに作品の素晴らしさを届けたい、楽しい気持ちになってほしいと願いつつ、稽古に励む日々だという。
「この作品で必ずメッセージを受け取ってもらわなくてはいけないとは、僕、あんまり思っていないんです。ただ楽しかっただけでもいいし、LGBTについて考えてくださっても、どう受け取るかはみなさんの自由なので。ただ、『届けたい』、その一心です。舞台を見たことがない人でも、『キンキーブーツ』は映画が好きという人が多いですよね。だとしたら、この作品はびっくりするぐらい、初めて見る舞台にぴったりだと思います。ストーリーにまったく無駄がないですし、歌もシンディ・ローパーさんが作った最高の楽曲ですし。『舞台ってこんなに心動かされてパワーをもらえるんだ、最高だな! 生で聞く歌とかお芝居ってすごいなあ』なんて思ってもらえたらいいですね。映画館で映画を見るのとはまったく違うナマモノの面白さを、是非この『キンキーブーツ』で体感してほしいと思います」
ブロードウェイミュージカル「キンキーブーツ」は10月1日~11月3日に東京・東急シアターオーブで、11月10日~20日に大阪・オリックス劇場で上演される。詳しい情報は公式サイト(http://www.kinkyboots.jp/)で確認できる。
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