伊巨匠ナンニ・モレッティ、3階建てのアパートに暮らす3つの家族の物語「3つの鍵」を語る
2022年9月17日 09:00
笑いと皮肉を織り交ぜた作風で知られるモレッティ監督は「息子の部屋」(2001)でカンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞。俳優やプロデューサー、脚本家、そして映画館主としても活動するマルチな才能の持ち主でもありながら、映画監督としては「親愛なる日記」から本作「3つの鍵」まで、7作品すべての作品がカンヌ国際映画祭コンペティション部門で正式上映されている。
最新作「3つの鍵」は、ローマの高級住宅街にある3階建てのアパートに暮らす3つの家族が、ひとつの事故をきっかけに、扉の向こうに隠している素顔が露になる様を、スリリングな展開で描いた作品。これまでオリジナルにこだわってきたモレッティ監督がイスラエルの作家エシュコル・ネヴォのベストセラー小説「三階 あの日テルアビブのアパートで起きたこと」(五月書房新社)に惚れこみ映画化。原作の舞台をテルアビブからローマに移し、3つの独立した物語を、5年後10年後と時間を軸に再構成した。
小説を映画化する経緯に関して「当時、別のスクリプトを構想していたのですが、何も出てこない状態でした。そこで脚本家のフェデリーカ・ポントレーモリが小説を読むよう勧めてくれたのです。読んですぐに、正義・罪・自分たちの行為がもたらした結果とその責任、親であることの難しさ…… こうしたテーマを自分の作品として語れると感じました。問題は脚本化が難しい小説だったことです。小説は独立した3つの物語で構成されていて、それぞれが3つの独白の形になっています」と説明する。
そして、「1階では、レストランを経営する男が友人に物語を話して聞かせ、2階では一人の女性が“自分は正気を失うのではないか”という悩みを仲の良い女友だちに書き綴る。3階では、裁判官の女性が亡くなった夫を相手に電話で話している、という構成。脚本にするのは難しそうでした。ですが脚本家たちの協力もあり、物語を映画として語ることができたと思っています。私たちはまず、3つの物語を互いに交差させました。それから、小説が語る出来事の『その前』や『その後』も創作して加えました。小説では、3つの物語は出来事のクライマックスで終わります。登場人物たちは問いを投げかけますが、その後に起こるであろうことは語られない。『その後』を加えたのは、起こした行動は結果をもたらし、私たちにはその結果に対して責任があるということを描きたかったからです」と本作のテーマと映画ならではのオリジナルの要素について語る。
イスラエルからローマに舞台を移した理由は「実際には舞台がローマであるというよりも、ローマで撮影した映画だと考えています。ローマ独特の風景はとくに見られませんし、ミラノでもパリでもマルセイユでもいいし、西洋のどの街でもよかったのです。映画はローマで撮影しましたが、小説は特定の時代を舞台にしていて、テルアビブで住宅価格が高騰に対する抗議デモがあった時期の出来事として描かれています。その部分は映画では割愛しました。普遍的で場所を選ばないテーマです」と明かす。
また「現代社会が抱える孤立する人間、孤独の問題をどのようにとらえているか」という問いに対しては「くしくもこのパンデミックが、嘘をひとつ暴いたのではないでしょうか。小説も映画も、私たちはそれぞれ孤立しつつあり、他者や地域社会(コミュニティー)との関わり合いを避ける傾向にあることを語っています。地域社会など、もはや存在しないのではないかと私たちは考えていました。ですがパンデミックが、それが嘘であったと暴いたのです。孤立して生きることが、いかに厳しく困難で、間違いであることを私たちは目の当たりにし、私たちはこの2年間の想像を絶する状況から、共に一丸となって抜け出さなければならないと知りました。映画は感染爆発が起こる前に、すでに完成していました。ですがコロナ禍が一段落しつつある今公開されることで、映画はさらに別の意味を帯びるのではないかと思います」と話す。
今回、自身の持ち味のユーモアやアイロニーは封印した。「この物語には、ユーモアが入り込む余地がなかったからです。ちょうど今撮影している映画はコメディーです。この先ずっとユーモアを封じるつもりだ、ということではなくて、このの物語には、皮肉やユーモアや喜劇性が入り込む余地がなかったということです」という。
小説のエピソードは問題のクライマックスで終わる一方、映画では「その後」も語られる。「観客に対してサディスティックで残酷なことをしたくないのです。映画で過酷な体験をした登場人物たちに対しても、特にあの母親と息子には、より明るい未来を想定したかったのです」となぜ希望や将来への光も見えるエンディングにした。
最後に、監督と俳優を兼ねる難しさについて聞くと「理想で言うと、人が監督した映画に俳優として出演することが一番楽だし、楽しい。監督兼俳優をやるのは、すごく負担も大きい。ただクリント・イーストウッドが、90歳で監督兼主役をやっているんだから、69歳の私ができないわけがないと思いながら、毎日過ごしています」と話した。
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。