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新作撮影中に急逝した監督が遺したインタビュー 社会から隔絶された高地に暮らす老夫婦描くペルー映画「アンデス、ふたりぼっち」

2022年7月23日 08:00

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オスカル・カタコラ監督
オスカル・カタコラ監督

南米アンデス山脈を舞台に、社会から隔絶された高地にふたりきりで暮らす老夫婦の姿を描いたペルー映画「アンデス、ふたりぼっち」が、7月30日から公開される。本作は、ペルー映画史上初の全編アイマラ語による長編作品として注目を集め、本国で大ヒットを記録したが、オスカル・カタコラ監督が、第2作撮影中の2021年11月に34歳の若さで他界し、本作が長編初作品にして遺作となった。

小津安二郎黒澤明らの日本映画から影響を受け、ペルーのシネ・レヒオナル(地域映画)の旗手としての活躍を期待されていたカタコラ監督の生前のインタビューを映画.comが入手した。

画像2(C)2017 CINE AYMARA STUDIOS

アンデス山脈の標高5000メートルを越える地で、都会に出た息子の帰りを待ちながら暮らす老夫婦パクシとウィルカ。アイマラ文化の伝統的な生活を送る彼らは、コカの葉を噛み、母なる大地のパチャママに日々の糧を祈る。そんなある日、飼っていた羊が狐に襲われ、さらにマッチを買いに行ったウィルカが道中で倒れてしまう。

――この映画を作ったきっかけは何ですか?

大学時代、開発コミュニケーションの実習中に多くの高地の村を訪れ、高齢者の放置を目の当たりにしました。子ども達は街へ移住し、年に数回しか会いに帰りません。高齢者の方々は何らかの形で、放棄に苦しんでいました。

――では、この映画の主題は放棄だと言えますか?

その通りです。この映画には多くのテーマが含まれていますが、主題は高齢者の放棄です。ウィルカとパクシは社会から孤立しています。ふたりは付き添い・支えてくれる存在を必要とします。

私は高齢者の方には大変敬意を払っています。両親のおかげで、年長者は知恵の塊であり、敬意を払うべきだと学びました。 でも、ぺルーや世界の他の地域にも両親や祖父母に会いに行かない人が多くいることが事実です。多くの人は目上の人への敬意を失い、無視をしたり、いじめたりします。街や村では、高齢者は邪魔者ですが、アンデスの文化では違います。つまり、高年齢であるほど、人々は尊敬されます。

この映画では、アンデス住民のアイデンティティの喪失についても取り上げています。アンデスの文化と言語は社会から過小評価されて来ました。今ごろになって、少し重要視されています。子どもがより良い生活を求めて、別の社会空間へ移住するというグローバル化の影響についても取り上げています。非難であり、先祖のルーツを放棄する人々への批判です。

画像3(C)2017 CINE AYMARA STUDIOS
――この映画はフィクションですが、自叙伝的です。主人公のビセンテ・カタコラは監督の母方の祖父です。この映画では、私生活から他に何を取り入れましたか?

幼少期の一時期を標高4500メートルのプーノ地方の高地で、父方の祖父母と過ごしました。祖父母はスペイン語が話せなかったので、私は完璧なアイマラ語を話すことができます。この映画は、祖父母と過ごした日々と祖父母の父や他の子へのノスタルジアに基づいています。

父は6、7歳時の幼い私を祖父母のもとへ送りました。兄にもそうしました。学校が休みの間の3、4カ月は祖父母と暮らしていました。今は失われつつありますが、ペルーの高地に住む人の間では、必要な習慣です。父方の祖父母は数年前に亡くなりました。映画の制作にあたってふたりを演じる俳優を探していましたが、最終的に、アイマラ族でもある母方の祖父に任せることにしました。家族のことなので、祖父はこのプロジェクトにとても協力的でした。

――パクシを演じるローサ・ニーナさんは、実の祖母でも、女優でもないのですね。彼女との撮影はどうでしたか?

ローサさんは、彼女の芸術性と社交的な性格を知る友人が紹介してくれました。彼女の家へ行くと、彼女はすぐに映画への出演を承諾してくれました。 彼女は映画を見たこともなく、映画館へ行ったこともありませんでした。「何のことかよく分からないが、協力します」と言ったのをはっきり覚えています。私たちには信じられない返事でした。そして、ローサさんとはアイマラ語で話すことがポイントでした。

それから6カ月、集中的に演技指導を行いました。初め、ビセンテとローサはセリフをよく間違え、アドリブでやろうとしたり、間やリズムの取り方が容易ではありませんでした。ふたりにとって新しいことでした。

画像4(C)2017 CINE AYMARA STUDIOS
――あるシーンで、パクシはウィルカに息子が帰ってくるという夢を見たと話しています。息子探しは繰り返し出る話題ですね。その息子は誰を表しますか? 観客自身ですか?

そうです。何人かに、間接的にというより、親を放置した人への直接的な訴えだと言われました。でも、私たちの社会をも表しています。つまり、文化遺産を存続させることが出来ない子ども達です。よその地へ行ったその息子が自身の文化の知識を次世代へ伝えることが出来ないことです。生まれて来なかった子どものようです。まさに隠喩です。

――そのほか、どんな隠喩がこの映画にありますか?

多くあります。その一つがグローバリゼーションの産物であるマッチです。先住民の村はグローバル化のシステムに依存するようになりました。だから、映画では、一連の悲劇が起きます。

もう一つの隠喩は、最後のシーンで見せるアンデスの世界観です。そのため、<パチャママ(母なる大地)>についてよく話されます。アンデスの文化では、山々は性別があります。オス山とメス山、そして夫婦の山があります。おばあさん(パクシ)は女神、聖なる存在になる為にその山に入ります。映画に相応しい自然風景を見つけるのは簡単ではなく、撮影場所探しに長い時間を費やしました。

――山脈は映画のもう一つの主役ですね。標高5000メートル以上での撮影はどうでしたか?

大きな試練でした。標高3800メートルにあるプーノ市に住んでいるにも関わらず、さらに1000メートル登ると、気候の違いが著しいです。零度、時にはそれ以下の気温で撮影をしました。

でも、苦だったとは決して言いません。仕事に不満はありません。アイマラの文化では、仕事は決して神からの罰ではありません。それに、山は重要です。アンデス山脈はいい写真を撮るのに美しい風景画とされています。しかし、その山の向こうに隠されているものに気づきません。その山の裏には、ウィルカとパクシのように子どもの帰りを待つ家族や鉱山会社や他の機関の侵入により傷付けられてる文化があるかもしれません。この映画は、ある意味でその現実を暴いてます。

画像5(C)2017 CINE AYMARA STUDIOS
――この映画には政治批判の意図も込められていますね。

はい。先住民の村々を放置する国家への批判です。国家がこのような弱者に興味が持てるように、国家に対す政治的な見方です。ペルーは多文化国家です。およそ49の言語があり、いくつかは、徐々に消えていっています。ペルー国家は近年、やっとこれらの言語の回復や保護を奨励しています。

先住民族は何らかの形で支援を受け始めています。しかし、保護を口実に多くの人に利用され、悪用されることを恐れています。なので、慎重に取り扱わないといけないテーマだと思います。より多くの保護と支援政策はあるべきですが、慎重な対処が必要です。政府は、先住民族が政府に依存するのではなく、その後も自身で生計を立てられるような教育・保護支援をすべきです。国家はアイマラ族の人々が国家に依存することを避けるべきです。

――この映画を観る人に何を伝えたいですか?

家族の結束が人生で最も大切だということです。自身の習慣と伝統を大切にすることを学び、自分の家族を少しでも大切にすることです。過去を見て、ルーツを振り返ることが未来へつながることです。祖母は「あなたが親に接するように、年老いたあなたに子どもが接するようになる」とよく言っていました。

――では、どんな解釈はされたくないですか?

アイマラ族が無知で、惨めな人々だとは解釈されたくないです。アイマラ族の誉れの一つは誇りです。非常に耐える民族であり、その勇気で支配しようとしたいくつかの文明に立ち向かって来ましたから。

7月30日から新宿K's cinemaで公開。

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