【「犬王」評論】ポップな歌声響く「夢幻能」の如き怪作
2022年5月22日 21:00

先鋭的映像で知られる異才・湯浅政明監督による室町時代を舞台とした長編アニメーション。原作は実在の能楽師を題材とした古川日出男氏の小説「平家物語 犬王の巻」。日本人の骨格を感じさせるキャラクター原案は原作表紙も担当した漫画家の松本大洋氏、制作は「平家物語」のサイエンスSARU。
南北朝末期の京都。近江猿楽の比叡座棟梁に異形の子が生まれる。顔を面で覆い、疎まれながらも成長した子は、壇ノ浦出身の盲目の琵琶法師・友魚(ともな)と出会い、犬王と名乗る。二人の若者は、平家の亡霊群の声を聴き、喪われた平家の物語を自らに重ねて謡曲を新作する。その斬新なパフォーマンスは、瞬く間に民衆を魅了する。三代将軍・足利義満は、大和猿楽の結城座を率いる観阿弥の子・藤若(後の世阿弥)を寵愛していた。義満は、犬王の命運を定めるべく舞台を用意する──といった展開。
当時の能楽は猿楽と呼ばれ体系化の途上。後に世阿弥が能楽を完成し、その謡曲は現在まで伝えられている。しかし、世阿弥を上回る人気を誇った犬王の謡曲は一つも残っておらず、全ては謎だ。原作に曲名と語りは記されているが、当然メロディは不明。よって、犬王の新曲発表は本作の核だ。音楽の大友良英氏は振付先行を求めた。湯浅監督は大まかな歌詞とアクションのムービーを制作。これを基に大友氏が作曲し、犬王役のアヴちゃん(女王蜂)が歌詞・歌唱をアレンジして完成させた。三者のセッションである。
犬王と友魚(友有)の新曲熱唱は圧巻だ。派手な衣装と化粧のメンバーがカラフルな照明で浮かび上がる。激しく変形・躍動する犬王の肉体をカメラが高速で追いかける。スクリーンを突き抜けるような垂直方向の移動、真正面・真横の口元のアップなど多彩な画面設計が矢継ぎ早に繰り出され、各謡曲とシンクロする。
一方、漁村・市街・宮中などの日常は、枯れた色調で丁寧に描かれており、絵巻さながらの横移動や手前から奥への広がりがゆったりと映される。定点観測の短いカットで時間軸を一気に遡る演出や、視覚なき白昼や漆黒に立ち現れる滲んだ影と光、音の視覚化、宵闇と炎の明暗対比など、数多くの特殊作画シーンの挿入も効果的だ。それらは抽象的な音や時間から亡者まで描き得るという、アニメーションの底力を存分に示している。
湯浅監督は、大胆な解釈で犬王と友魚の友情物語を拾い、現代に蘇らせた。朗々と謳われるのは血生臭い敗者の美学なれど、二人を突き動かすのは芸能民の創作衝動だ。その場に満ちるのは大衆の感激と愉悦であって、怨念や諦観ではない。まるでポップな「夢幻能」。あるいは「無限能」とでも呼ぶべき怪作である。
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