【「カモン カモン」評論】“対話”が心に染み入る甥との共同生活 愛しているのに「ゾッとする」という感覚に共感
2022年4月23日 07:00
子どもは、容赦をしない。所構わずに笑って泣いて、自分の訴えを理解させるために粘り、不快な出来事には徹底して抗う。過去の正解は、いつの間にか誤答に代わり、いつだって“普通”から離れていく。親になってみて、そんなことを思う。だからこそ、マイク・ミルズ監督が「自身の子どもを風呂に入れている時に着想を得た」という物語には、何度も何度も頷いた。あまりにも共感できてしまったから。
主演のホアキン・フェニックスが演じるのは、NYを拠点に全米各地を取材して回るラジオジャーナリストのジョニー。妹・ヴィヴが家を留守にする数日間、9歳の甥・ジェシーの面倒を見るためにLAに渡る。突然始まった共同生活――ふたりは戸惑いながらも歩み寄っていく。「ジョーカー」では、世間に“混乱”を伝播させたフェニックス。本作では、甥っ子との日々に“混乱”。ちなみに、ジェシーを演じたウディ・ノーマンは、フェニックスに負けず劣らずの存在感を放っている。今後の活躍にも期待大の逸材だ。
ストーリーをシンプルに言い表せば「ジョニーが、甥のジェシーに延々と振り回される」。そんな日々の中にも、思わずハッとしてしまうシーンが溢れている。例えば、ジェシーの“奇妙な行動”について、ジョニーが「君は慣れているだろうけど……」とヴィヴに電話で話しかける場面だ。
ヴィヴは、こんな風に切り返す。「慣れていない。時にはゾッとする。自分でも分からないほど。愛しているけど。だからこそ、同じ部屋にいるのが耐えられなくなる」。子育てに慣れはない。常に事故と巡り合うようなもので、考えもしないようなことが起こる。頭の中は「?」だらけだ。愛しているのに、ゾッとする。ゾッとするのに、愛している。これが成り立つということを、彼女の言葉で改めて思い知らされた。
タイトルが指し示すのは「先へ、先へ」というもの。未来の予測がつかないからこそ、まずは進むしかない。本作では、正しき方向へと向かえる様に「対話」というものがキーとなっていく。ジョニーとジェシー、さらに“会話しかなかった”ジョニーとヴィヴの関係にまで、この「対話」は作用する。また劇中には、9~14歳の子どもたちの生の声が度々挿入されている。これは、フェニックスが台本ナシで試みたインタビューシーンだ。面と向かって、話す。そして、きちんと聞く。互いへの思いやりを欠かさずに――。全編を貫く「対話」が、心に深く染み入るはずだ。
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