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父親は処刑、母は連行…旧ソ連時代を生きた91歳ジョージア人監督作「金の糸」公開 激動の人生は「文化の力で救われた」

2022年2月26日 10:00

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ラナ・ゴゴベリゼ監督
ラナ・ゴゴベリゼ監督

およそ60年のキャリアを持つジョージアのラナ・ゴゴベリゼ監督が、27年ぶりに発表した新作映画「金の糸」が、本日2月26日から東京・岩波ホールほかで公開される。主人公は娘夫婦らとジョージアの首都・トビリシに住む、79歳の作家エレネ。自分の誕生日は家族から忘れられ、ある日、同居を提案された娘の姑はソビエト時代の政府の高官であり、そして60年前の恋人から突然の電話がかかってくる……。

日本の“金継ぎ”やプルーストの「失われた時を求めて」をモチーフに、激動の時代を生き抜いた3人の過去、そして現在を生きる世代と、未来への希望を美しいパッチワークのようにつなぎ合わせた人間ドラマだ。ゴゴベリゼ監督が、オンラインインタビューで作品と映画人としての人生を語った。

画像6(C)3003 film production, 2019
――この映画を製作する、大きな原動力となったものはなんでしょうか?

人間が年齢を重ねて老いていくと、人生の新しい問題が生まれてきます。老いとともに生まれてくる様々な問題への私の答えを示したかったのです。まずはそれが一つの大きな理由です。そして人間と社会の過去を描きたかったのです。過去が今の自分にどういう影響を及ぼしているか――過去は、重荷でもあると同時に豊かさでもあります。過去は、このジョージアという国では特に、難しい問題です。ソ連時代に全体主義社会が続き、それは別の国の支配を受けた特殊な時代です。そういった過去と我々はどう向き合うのか? それは難しく、大切な問題です。

金を糸のように使って、壊れた器を修復する「金継ぎ」という日本発祥の技術を知りました。金継ぎのように、私たちの過去に対する態度も同じように、愛や理解、思いやりで過去を美しく修復することができるのではないか、そうして人生がより豊かに興味深い人生になるのではと思ったのです。

画像2(C)3003 film production, 2019
――主人公の家族を軸に、ジョージアの数世代の人々を描く物語です。あなたが若い世代に継承したいことはどのようなことですか?

たくさんの世代が映画に出てきますが、ジョージアでは欧米とは異なり、3~4世代が共に暮らすことが今でも多いのです。一人暮らしの老人は稀です。別々の世代とも交流は密接で、大事なことです。若い人たちとの交流は、生きる希望を与えてくれます。主人公がひ孫に対し、「あなたの力を頂戴」と言う場面もあります。いくら年をとっても、誰かに必要とされていれば生きている実感を感じられるからです。また、若い世代の映画監督は、心の中にある言いたいこと、表現したいことを大事にしてください。無理に言葉にする必要はありませんが、自分が言いたいことを言うために、どういう形で表現した方がいいのか。それを一生懸命探して見出すこと、それが大事です。

画像3(C)3003 film production, 2019
――映画監督として長くキャリアを重ねてきて、女性であることでの困難やご苦労はありましたか?

ソ連体制では多くの問題がありましたが、男女の平等ということではかなり徹底していました。ソ連時代に公的には男女差別はありませんでした。多少の差別もあったかもしれませんが、報酬も男女ともに同じでした。一方で古いジョージア社会は、男性優位の伝統がありました。その点では、ソ連時代に女性監督であったことで困難や不利を感じたことはありません。

しかし、ソ連の全体主義の中では個人の自由が否定され、厳しい検閲が行われていました。特に映画に対しての検閲は厳しかったので、我々はいかにその検閲をかいくぐるか。言葉でだますのは難しいので、どのように映像で言いたいことを主張するのかを工夫しました。そのおかげで傑作がソ連時代に生まれました。

付け加えると、ソ連では男女平等が謳われていましたが、50~60年代にソ連ではフェミニズムの概念すらなかったのです。ですから、当時私が西側のヨーロッパの国々に呼ばれて、フェミニストであるかと聞かれると、何のことだか分らなかったのです。しかし、今振り返ると、確かに私はフェミニストでした。女性の権利と地位を守ることを映画で主張してきました。そして、男女の意見で違いがあることは我々の生活や文化をより豊かなものにしてくれるとも思うのです。

80年代に日本を訪れた際、「インタビュアー」(78)という私の映画が上映されました。その主人公である、女性の新聞記者は、自分の仕事に情熱を持つあまりに長時間労働となり、その後夫と不仲になって離婚する話です。日本での上映後に、「これは私の人生を描いた映画だと」書かれた多くの手紙をもらいました。このことで、世界のどこでも同じような問題があるのだと、はっきり覚えています。

画像4(C)3003 film production, 2019
――本作の主人公の生きざまから、政治に翻弄されながらも、先人が遺した伝統や文化を大事にするジョージア人の誇りを感じました。もし、次の人生があるとすれば、ジョージア人の女性として生きたいですか? 全く別の場所で、別の人生を生きてみたいですか?

私はもちろん、ジョージアの女性として生きることを選ぶと思います。確かにソ連時代の生活は大変でした。私が7歳の時に父親が処刑されました。ジョージア初の女性映画監督だった母は連行されて10年帰ってこれず、その後若くして亡くなり、とてもつらい時代を過ごしました。しかし、そういった困難を乗り越えたことで、我々は強くなりました。私たちの世代は様々な経験をし、我々の社会をいかに豊かにしていくかということを真剣に考え、取り組んできたのです。私たちは詩や映画など、文化の力で救われました。「美」が世界を救うのです。日本で印象に残っているのは、公園で咲いている花をじっと見ている人々です。日本人は美を評価する人達であり、その景観の美しさもとても印象に残っています。

ジョージアはとても小さい国ですが、長い歴史と豊かな文化がある国です。このジョージアに生まれ、ジョージア人であることを誇りに思っています。映画でも引用しましたが、ジョージアの著名な哲学者はジョージア人の性質を「陽気な悲劇性」と言っています。大国に侵略されてきた歴史は悲劇的ですが、ジョージア人は人生を喜ぶことができるのです。その性質を持っているからこそ、私たちは生き延びることができたのだし、これからも生き残っていけることを願っています。

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