【ハリウッドコラムvol.317】ジェームズ・ガン節炸裂! 狂騒と癒やしが共存した「ピースメイカー」
2022年2月20日 12:00
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ゴールデングローブ賞を主催するハリウッド外国人記者協会(HFPA)に所属する、米ロサンゼルス在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリストの小西未来氏が、ハリウッドの最新情報をお届けします。
年が明けたばかりなのに、2022年の個人的ベストドラマはすでに決まっている。HBO Maxで1月から全米配信を開始している「ピースメイカー」だ(日本では、4月15日よりU-NEXTにて見放題で独占配信)。DCコミック原作なので、上品さや重厚さは皆無で、笑いとバイオレンスと非現実的な展開が詰まったジャンクフードのような作品ではある。なのに、不思議と胃もたれすることはなく、むしろ滋味溢れるスープのように心と体をじっくりと温めてくれるのだ。
「ピースメイカー」は、「ザ・スーサイド・スクワッド」に登場する同名キャラを主人公にしたスピンオフドラマだ。平和を実現させるためにはどれだけ犠牲者を出しても構わないという倒錯した殺し屋で、ジョン・シナが演じている。「ザ・スーサイド・スクワッド」を見た人なら、ピースメイカーが主人公に抜擢されたことに首を傾げる人は少なくないはずだ。「ザ・スーサイド・スクワッド」には10人以上のヴィランが登場するが、ピースメイカーは人気キャラとは言いがたい。愚直で自己中心的な筋肉男は「イヤな男」を意味するdouchebagの典型で、ドラマの主人公にはふさわしくない。
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だが、結果的には、これが大成功だった。マーベル・スタジオが制作するMCUのサブキャラを主人公にした一連のスピンオフドラマをみても、ファルコンやホークアイといった正統派のヒーローよりも、ロキやスカーレット・ウィッチといったくせ者を題材にしたドラマのほうが面白く仕上がっている。主人公が善良ではないため、ドラマ作りにおいて視聴者を惹きつける工夫を強いられるからではないかと想像する。その結果、通常のスーパーヒーロー物のパターンをはずれ、意外性に満ちた作品が生まれやすいのだ。
「ピースメイカー」は、「ザ・スーサイド・スクワッド」の直後からはじまる。奇跡的に一命を取り留めた彼は、刑務所に戻されるかわりに、A.R.G.U.S.という政府の秘密組織に協力せざるを得なくなる。かくして、ピースメイカーをはじめとする寄せ集めのチームは、「プロジェクト・バタフライ」と呼ばれる謎の作戦に参加することになる。アメリカの田舎を舞台にした小規模版「ザ・スーサイド・スクワッド」といえるかもしれない。
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企画・製作総指揮は「ザ・スーサイド・スクワッド」のジェームズ・ガン監督で、彼がシーズン1全8話の脚本を執筆し、そのうち5話で演出も手がけている。バカバカしいキャラクターたちが繰り広げる笑いと、意外性に満ちたストーリー展開、はみだしものたちの間で育まれていく友情、とめどなく流れるゴキゲンな音楽――とくに、オープニングのミュージカル場面は必見だ――など、ジェームズ・ガン作品に期待するものすべてが詰まっている。
ヴィランで嫌われもののピースメイカーも、本ドラマでは共感できる存在として描かれる。douchebagらしい素行は変わらないが、そんな彼の心理や過去が描かれるのだ。彼に強すぎる悪影響を与えたのが、白人至上主義者の父(ロバート・パトリック)であることが明かされる。
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主人公のキャラ設定は、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」シリーズのロケットと非常に近い。ロケット・ラクーンは、アライグマの愛くるしい外見とは裏腹に、口汚く凶暴だ。いつも余計なことをして、仲間をトラブルに巻きこんでしまう。
だが、そんなロケットも、実験でアライグマにされてしまったトラウマを抱えている。毒親に育てられたピースメイカーには、ロケットほどの愛くるしさはないものの、中身は同じ。他人を遠ざける言動をしながら、実は繋がりを求めているところもそっくりだ。
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「ピースメイカー」では、荒唐無稽な事件の調査と並行して、チーム間に芽生える友情が丁寧に描かれる。だからこそ、とてつもなく暴力的で騒々しいのに、余韻がとてつもなく心地良いのだ。
以前、インタビューでジェームズ・ガン監督は、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」のキャラクターのなかで、ロケットにもっとも共感できると語っていた。かつての彼もおそらく似たタイプだったのだろう。数年前に毒を吐きまくっていた時代のツイートが掘り起こされて、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー3(仮題)」の監督を降板させられたほどだ。
この解雇がきっかけとなって、マーベルからDCに電撃移籍し、「ザ・スーサイド・スクワッド」と「ピースメイカー」に着手。さらに、マーベルの「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー3(仮題)」にも無事復帰できた。どんなトラウマを抱えていたにせよ、監督は成長することができた。だからこそ、ファンだけでなく、スタジオからもキャストからも愛される存在となったのだ
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