イギリスの英雄を描いた絵画、なぜ無表情? 山田五郎が名画盗難事件の背景を徹底解説
2022年2月3日 15:00
ロンドンのナショナル・ギャラリーで実際に起きた絵画盗難事件の知られざる真相を描く「ゴヤの名画と優しい泥棒」の公開記念イベントが2月1日、都内で行われ、評論家の山田五郎、ウェブ版「美術手帖」編集長の橋爪勇介氏が登壇した。
1961年、ナショナル・ギャラリーからゴヤの名画「ウェリントン公爵」が盗まれた。前代未聞の大事件の犯人は、60歳のタクシー運転手ケンプトン・バントン。孤独な高齢者が、テレビに社会との繋がりを求めていた時代。彼らの生活を少しでも楽にしようと、盗んだ絵画の身代金で公共放送(BBC)の受信料を肩代わりしようと企てたのだ。しかし、事件にはもう一つの隠された真相があった。
「ノッティングヒルの恋人」「恋とニュースのつくり方」などを手がけ、昨年9月に死去したロジャー・ミッシェル監督の長編遺作となり、オスカー俳優ジム・ブロードベントとヘレン・ミレンが共演した。
山田は本作の感想を「面白いポイントはセリフ。夫婦のやりとりも面白いけど、特に裁判のシーンのセリフ回しは、イギリスらしくユーモアにあふれている」と語り、ロンドン・ナショナル・ギャラリーについて「ヨーロッパの美術館は王室コレクションがベースとなった美術館が多いが、ここは個人コレクションから始っているのが珍しくて異色。銀行家であるジョン・ジュリアス・アンガースタインの個人コレクションがベースになっていて、その後国が買い上げて市民のために運営していっているので、非常に開かれた美術館であること。イギリスはヨーロッパ全体においてターナーが登場するまで、絵画の分野で美術後進国と言えるので、ナショナル・ギャラリーが美術史を教えようとしている教育的配慮があり、西洋美術史を俯瞰するようなコレクションになっている」と解説する。
また、イギリスの英雄を描いた絵画「ウェリントン公爵」について「表情については無表情だ、冷たい顔をしている、と評されることがあって、ゴヤはウェリントン公爵に反感をもっていたのではないかと言われるが、そんなことはない。彼は数多くの戦勝を上げて公爵までスピード出世した軍人であり、ナポレオン率いるフランスからスペインを救った英雄なので、ゴヤは宮廷画家としてきちんと描いた。ゴヤは本当に絵が上手い人で、実際にウェリントンさんは戦争続きで本当に疲れた顔をしていたんだと思う(笑)。トーマス・ローレンスというイギリスの宮廷画家が描いたウェリントンも疲れているから、本来この顔なんだよ(笑)」と語り、会場を沸かせていた。
最後に、「60年代のロンドンが忠実に表現された、時代を感じる映画だと思う。おそらく当時の映像も使用されているんじゃないかな。主人公は労働者だけど、戯曲を書いたり本を読んだり、昔の労働者階級は教養があったんだなと思った。かつての日本も同じだったと思う。この事件が起こった1961年は、ガガーリンが月に行った、ケネディが大統領になった、日本ではトリスを飲んでハワイに行こう、と言っていた時代だった」と懐かしんでいた。
「ゴヤの名画と優しい泥棒」は、2月25日から公開。
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