【コラム/細野真宏の試写室日記】2021年映画ランキングから見える映画業界の実態と「ARASHI 5×20 FILM」興行収入
2022年1月27日 09:00
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)(文/細野真宏)
1月25日に映連(日本映画製作者連盟)から2021年の映画業界の概況と興行収入10億円以上の作品が発表されました。
今回は、2021年の総括として、この発表内容を考察します。
まず、映連が現在の「興行収入の形」で発表するようになったのは2000年以降のこと。1955年から1999年までは「配給収入」という指標で発表されていました。
とは言え、配給収入からおおよその興行収入は算出できるので、興行収入の比較は1955年から可能ではあります。
そういう視点で見ると、2021年の年間の興行収入1618.93億円というのは、2000年以前までの興行収入と実は遜色がないと言えます。
例えば、2000年の興行収入は1708.62億円とほぼ同水準で、2021年の年間の興行収入1618.93億円を上回っているのは、1955年から1999年までで15年しかありません。
特に、映画の平均単価が1200円台になった1992年以降では、1999年までの8年間のうち半分が2021年の年間の興行収入1618.93億円を下回っています。
そのため、ことさらニュースで「統計を取り始めてから過去2番目に少ない結果」という表現が強調されているのは、やや違和感を持ちます。
とは言え、新型コロナの影響なども含めて好調とは言えないのも事実。ここは冷静に現状を分析したいと思います。
まず、年間興行収入ランキングでは、1位「シン・エヴァンゲリオン劇場版」102.8億円、2位「名探偵コナン 緋色の弾丸」76.5億円、3位「竜とそばかすの姫」66億円と上位3作品がアニメーション映画となっています。
これは、日本のアニメーションの技術の進化と共に、日本ではアニメーションに親しむ人が全世代的に増えてきていることを意味していると言える現象でしょう。
この流れは、日本で今後も続くのではと想定されます。
そして、4位「ARASHI Anniversary Tour 5×20 FILM “Record of Memories”」45.5億円、5位「東京リベンジャーズ」45.0億円と邦画実写が続きます。
ちなみに、4位「ARASHI Anniversary Tour 5×20 FILM “Record of Memories”」については、現在も上映中のため、このような作品については2021年の年間ランキングでは取り扱いが難しくなるわけです。
23日時点で興行収入は43億2583万円で、この数字は今後もまだ伸びていきます。
そこで、映連では「公開中の作品については、事前に未使用分の前売り加算をできる」ようになっているので、その(すでに売り上げている)未使用分を加えた数字であると推測されます。
邦画実写1位の作品がコンサート映画であるのは史上初の結果で、この数字がこれから最終的にはどのようになり、また今後、このような作品が生まれるのか、など興味深い状況になっています。
一方、5位「東京リベンジャーズ」45.0億円は、平均単価の違いから、観客動員数では邦画実写1位なので、観客動員数では「邦画実写1位」と言える異例の結果にもなっています。
ここで注目したいのは、実は邦画の興行収入については、“歴代最高の興行収入2611.8億円を記録した記念すべき年”2019年の9割を超えるところまで回復しているのです!
しかも、昨年2021年は、「新型コロナの影響で緊急事態宣言などがあり映画館の休館もあった年」にもかかわらず、です。
そのため、邦画を扱う映画会社の業績は、新聞などで踊る「統計を取り始めてから過去2番目に少ない結果」という点とはかけ離れている面があるわけです。
では、なぜこのような乖離が生まれているのか。それは、本来「映画業界の“両輪”として機能すべき洋画」の不振があるのです。
日本では、1986年から2005年までは一貫して洋画が邦画よりも興行収入を上回っていました。
それが、新型コロナの影響が出始めた2020年では洋画のシェアが23.7%にまで減ってしまい、2021年には遂に20.7%と、1955年以降で最低のシェアにまで落ち込んでしまっているのです。
これは、もちろん、新型コロナの影響でハリウッド超大作映画が公開延期になっている点も少なからず関係していますが、私はディズニー映画の動きも小さくないと考えています。
例えば、2019年に日本の興行収入が年間歴代1位になったのは、やはり興行収入100億円超の作品を3本も出したディズニー映画の影響が大きくありました。
実際に2019年は邦画と洋画のシェアは、54.4:45.6と拮抗し“両輪”となっていることが分かります。
ところが、その後ディズニーはアメリカ本社が動画配信サービス「Disney+(ディズニープラス)」に力を入れ、かつてのように劇場で大きく利益を出す、というよりは配信で利益を出す、という方針に現時点ではなっているようです。
しかも、ディズニーは20世紀フォックスも買収したため、「20世紀スタジオ」作品も劇場で振るわなくなってきている印象です。
もちろん、ディズニー本社は会社としては黒字ですが、動画配信部門では、新作の制作コストなどの影響で赤字が続いている状況になっています。
私は、映画は、まずは劇場で最大限の利益を追求し、そこで世の中に広く認知された後で配信、という流れの方が、作品の価値も企業利益も増えるのでは、と考えています。
そのため、日本では日本に合ったビジネスモデルが追求できるように、ディズニーのアメリカ本社に対する日本支社の発言力が増すことを期待したいところです。
さらに、新型コロナの影響があるうちは特に洋画は公開延期等も含めマイナス要素が小さくないので、この点は仕方ないと言えるでしょう。
いずれにしても、洋画の復活こそが大きな課題であると、冷静に今回の結果を受け止めたいと思います。
ARASHI Anniversary Tour 5×20 FILM “Record of Memories”
劇場公開日 2021年11月26日
上映時間 148分 (G)
評価・レビュー (88件)
Amazonで関連商品を見る
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
十一人の賊軍
【本音レビュー】嘘があふれる世界で、本作はただリアルを突きつける。偽物はいらない。本物を観ろ。
提供:東映
知らないと損!映画料金が500円になる“裏ワザ”
【仰天】「2000円は高い」という、あなただけに教えます…期間限定の最強キャンペーンに急いで!
提供:KDDI
グラディエーターII 英雄を呼ぶ声
【人生最高の映画は?】彼らは即答する、「グラディエーター」だと…最新作に「今年ベスト」究極の絶賛
提供:東和ピクチャーズ
ヴェノム ザ・ラストダンス
【エグいくらい泣いた】「ハリポタ死の秘宝」「アベンジャーズ エンドゲーム」ばりの“最高の最終章”
提供:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
予告編だけでめちゃくちゃ面白そう
見たことも聞いたこともない物語! 私たちの「コレ観たかった」全部入り“新傑作”誕生か!?
提供:ワーナー・ブラザース映画
八犬伝
【90%の観客が「想像超えた面白さ」と回答】「ゴジラ-1.0」監督も心酔した“前代未聞”の渾身作
提供:キノフィルムズ
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
死刑囚の告発をもとに、雑誌ジャーナリストが未解決の殺人事件を暴いていく過程をつづったベストセラーノンフィクション「凶悪 ある死刑囚の告発」(新潮45編集部編)を映画化。取材のため東京拘置所でヤクザの死刑囚・須藤と面会した雑誌ジャーナリストの藤井は、須藤が死刑判決を受けた事件のほかに、3つの殺人に関与しており、そのすべてに「先生」と呼ばれる首謀者がいるという告白を受ける。須藤は「先生」がのうのうと生きていることが許せず、藤井に「先生」の存在を記事にして世に暴くよう依頼。藤井が調査を進めると、やがて恐るべき凶悪事件の真相が明らかになっていく。ジャーナリストとしての使命感と狂気の間で揺れ動く藤井役を山田孝之、死刑囚・須藤をピエール瀧が演じ、「先生」役でリリー・フランキーが初の悪役に挑む。故・若松孝二監督に師事した白石和彌がメガホンをとった。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。