【「グロリア 永遠の青春」評論】グロリアの「たったひとりで踊る」という自由が、最高に輝いている
2021年12月5日 19:00
「グロリア、いつだって駆け足で誰かを追っかけて捕まえようとしてる」――主人公と同じ名前の女の子の恋を歌った1980年代のヒットナンバー「グロリア」。この楽曲のほかにも、劇中で流れるエモーショナルな音楽の数々は、彼女の心模様を映す鏡のような役割を果たしている。
「グロリア 永遠の青春」は、「ナチュラルウーマン」などで知られるチリのセバスティアン・レリオ監督が、「グロリアの青春」(2013)をセルフリメイクした作品。主演のジュリアン・ムーアが演じることを熱望し、レリオ監督が時を経て再び向き合うのも納得できるほど、グロリアというヒロインの魅力は圧倒的だ。
グロリアは、離婚と子育てを経験し、いまは自立した自由な生活を謳歌しながらも、満ち足りない思いをくすぶらせるアラフィフ女性。ある日、紳士的かつ知的な、同じく離婚経験を持つアーノルド(ジョン・タトゥーロ)とクラブで出会い、付き合うことになる。
クラブやヨガに通い、一夜の関係も楽しみつつ、アーノルドとの新たな恋の予感に胸を高鳴らせるグロリアは、全身で「いまが人生最高のとき」というメッセージを発しているかのように軽やかだ。しかし、眠れない夜、アパートの上階から聞こえる騒音に頭を抱えたり、出産のため、夫のいるスウェーデンに向かう娘のあとを追いかけたりと、例えようもない孤独や心細さがふと顔をのぞかせる。そんなグロリアの心の移ろいを繊細に表現するムーアは、やはり素晴らしい。
一方で、グロリアと似通った状況でありながらも、前妻とふたりの娘との複雑な関係に絡めとられるアーノルドからは、晩年期の男性が直面するリアルが垣間見える。新しい恋に踏み出そうとしながらも、グロリアの存在を家族に伝えられないアーノルド。自身の恋を娘たちには分かってもらえないと説明するが、グロリアはその心情を理解できない。誰もがグロリアのように前を向いて生きられたらと思うが、年齢を重ね、身軽ではいられなくなったアーノルドの生きづらさにも、見過ごせないものがある。
冒頭でグロリアは、クラブの片隅で、どこか浮かない表情で音楽に身を委ねている。そして理想の相手と出会うも、いくつになってもままならない恋に傷付く。終盤にはある決断を下した彼女が、たったひとりで踊るシーンがある。そこには寂しさや、恋への執着から解き放たれ、自分が自分らしくいられる選択をした彼女だけが手にできた、本当の自由が宿っているように見える。「いつか終わりはやってくる」「そのとき私は踊っていたい」――そんなグロリアの言葉が、脳裏に力強くよみがえる。
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