【ブリランテ・メンドーサ監督「復讐」インタビュー】映画を作ることによって力を得ることができるし、誰かに力を与えることもできる
2021年11月7日 16:30

現在開催中の第34回東京国際映画祭コンペティション部門に、ブリランテ・メンドーサ監督作「復讐」が選出されている。父の借金返済のためにやむなくバイク強盗をしているイサックは、ある日、警察から指名手配される。窮地に陥った彼は、窃盗団のボス、ジェポイに助けを求めるが、取り合ってもらえない。怒りをつのらせたイサックは復讐を企てるが…。格差による貧困、麻薬売買、汚職警察など、自国を蝕む問題を鋭く描き続けるメンドーサ監督の新作「復讐」。ドキュメンタリーとエンタテインメントを融合したエネルギッシュな作風は、まさに“メンドーサ節”健在、といえる。
ブリランテ・メンドーサ監督(以下、メンドーサ監督):実際に、フィリピンでは中産階級というものがありません。そんな富裕層と貧困層の差がものすごく大きい現状からアイデアを得ました。この映画で描いているように、富裕層が政治的な権力を手に入れるために、あるいは莫大な利益を得るために、貧困層を利用し操作することが多々あります。その歪んだ現実に目をつけたのです。
メンドーサ監督:青年評議会は今はないのですが、かつてのフィリピンにあったものです。以前は、若者が選挙で選ばれると、ある程度の特権や助成金が得られ、周囲からも尊敬され、信用も増します。そういうものをストーリーの一部として取り入れた場合、若者が政治に関わって大物政治家とからむと政府の中でどういう地位や権力を与えられるのか、この組織を出すことでわかりやすく描けると思い、取り入れました。

メンドーサ監督:バイクのシーンは、危険も伴いますから簡単ではありません。いま思い返してみると、コロナ禍の前に撮影が終了していたことが幸いでした。このドキュメンタリーのようなシーンは、実際に起こっているような場所を再現しなければ撮れませんでしたし、選挙のシーンも出演者だけでなく大勢のエキストラを操作していくわけですから。その混乱に対処しながら、複数の出演者の演出をするのも大変で…。とにかく、いまの状況ではあのように人がたくさん集まったシーンを撮るのは不可能。墓地にも行けない状態ですからね。
メンドーサ監督:ラップは世界中で若者に人気のある音楽です。フィリピンでもほとんどの若者たちが多くのグループをフォローしています。じつは、この映画を作るうえで、登場する若者たちが政治に関しての直接的な意見を言うのは、もしかしたらリスクのあることかもしれないと思いました。ただストレートに批判するのではなく、音楽を通して現在の状況を自分たちがどう感じているかを、他人を怒らせない形で伝えるデバイス(仕掛け・回路)としては、ラップは好都合だと思いました。同時に、映画にノリの良いグルーブ感も与えていたと思います。
メンドーサ監督:ビンスは若い頃、「Captive」(「囚われ人 パラワン島観光客21人誘拐事件」)からずっと私の映画に出ていて、今回の東京国際映画祭のガラ・セレクションで上映される「GENSAN PUNCH 義足のボクサー(仮題)」にもひとりのボクサーに扮して出演しています。とにかく彼は私の撮り方、仕事の仕方に慣れているから、多くを語らなくてもいい。楽なんです。しかも、イサック役に必須だったバイクにも乗れるとなれば、私としてはキャスティングしないわけがないでしょ。

メンドーサ監督:他の俳優さんたちに関しては、ビンスのようにはいきませんでした。アルビーノ・カシノをはじめ、他のメンバーは日頃からテレビやCMに出ている、いわゆるメインのところで活躍している俳優さんたちですから簡単ではない。ビンスとは違ったアプローチをして、私の映画に参加していただきました。ビンスのように何も言わなくてもスムーズに仕事が進むというわけにはいかず、細かく説明をしなければならない部分もありました。とはいえ、みなさんとても協力的で、良い結果を出してくれたと感謝しています。
メンドーサ監督:その質問はよくされるのですが、まずお伝えしたいのは、私はこのような状況にあっても、たゆまず映画を撮影し続けています。映画を作るということは、私自身を表現する手段であり、ライフスタイルなのです。映画を作ることによって私自身が力を得られるし、その力を誰かに与えることもできる。そして、自分が何かの役に立っているという手応えを感じて、心が満たされるのです。それと同時に、私が映画を作ることでこれまでとは違う世界が作れたら、何かを変えられたらいいなという気持ちを常に持っているんですよ。
メンドーサ監督:自然なんですね。なにか特別なことというより、自然に毎日を過ごしています。エクササイズはしていますよ。先日62歳の誕生日を迎えましたので、とにかく健康に気をつけて映画を作り続けようと思っています。
メンドーサ監督:もちろんです! 私は東京が大好きですし、東京国際映画祭に関しても心が通じ合っていると思っていますから。審査員でなくても、ひとりの観客としてもぜひ足を運びたいですね。
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