【佐々木俊尚コラム:ドキュメンタリーの時代】「ミッドナイト・トラベラー」
2021年9月12日 13:30

今まさに観られてほしい映画。タリバンから死刑宣告を受けた映画監督が、家族とともにアフガニスタンから脱出し、安住の地ヨーロッパを目指してひたすら旅を続ける。その5600キロもの困難な道のりを、持っていたスマホで撮影し続けた。その成果がこの作品であり、ものすごいリアリティとともに、「難民になる」というのがどういうことなのかが恐ろしいほどに伝わってくる。
監督のハッサン・ファジリは2015年、「ピース・イン・アフガニスタン」というドキュメンタリを撮影し、国営テレビで放送された。タリバンのメンバーでありながら、武器を捨てて平和主義者となった男性を主人公にした作品だったのだが、これを観たタリバンが激怒。男性を殺害したうえ、ハッサンにも死刑宣告した。
ハッサンとその家族はアフガンを脱出せざるを得なかった。この時、彼らはパソコンさえ持っていくことができなかった。手もとにある撮影機材は、3台のスマホだけである。
イラン出身のプロデューサー、エムリー・マフダヴィアンが制作を裏面で支援した。ハッサンは撮影した映像をスマホからSDカードに 保存し、エムリーは一家の脱出ルートの各国に協力者を用意。その協力者たちがSDカードを受けとり、彼女の住むアメリカに発送した。そういう綱渡りの末に、この作品は世界に放たれたのである。

物語は、アフガンでの平和だった生活から始まり、子どもたちはメリーゴーランドで楽しそうにはしゃいでいる。しかし画面はすぐに反転し、あわただしく出発の準備が進められ、クルマに詰め込まれた一家は緊迫と恐怖の中でアフガンの街を走る。長女が、短い文章を読み上げる。
「人生への道は、地獄を通る」
これはアフガンの著名な作家サイード・バホダイン・マジローによって書かれた「エゴ・モンスター」という文学の一節という。マジローもアフガンからパキスタンに亡命し、最期は暗殺されている。
「地獄を通る」という言葉の通り、一家は波に翻弄される木の葉のように恐ろしい旅を続けていく。イランからトルコ、ブルガリア、そしてセルビア、ハンガリー。ときには森の中で毛布にくるまって眠り、廃墟の中で一夜を明かすこともあり、蚊の大軍に襲われて顔がふくれあがり……。ようやく到着した難民支援施設は、外国人ヘイトのデモ隊に包囲され「収容所を攻撃する」と脅される。

悪質な密入国業者たちも現れる。カネを払わないと子どもを誘拐するぞと脅され、そのあとに娘の一人の姿が見えなくなって、両親は半狂乱で探す。しかし必死になりながらも、映画監督であるハッサンは「森の中でもし娘の遺体を見つけたら、わたしはそれを撮影するだろう」と頭の片隅で考える。極限状態に置かれた当事者自身であるのと同時に、それを映画にする第三者でもあるという強烈な矛盾。
本作にはときおり、光り輝く夜明けの空や鳥たちが青空を横断していく美しいシーンがはさまれる。声高に政治的主張が語られることはなく、苦難の日々がひたすら当事者の目線で「日常」として重ねられていく。アジテーション映画ではないが、とはいえただの美しいアートでも単なるエンターテインメントでもない。

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