「シャイニー・シュリンプス!」監督の人生を変えた、ゲイの水球チームとの出会い「人と違うことは素晴らしい」

2021年7月8日 16:00

実際の「シャイニー・シュリンプス」 「ユーロ・ゲームズ」参加時のヴェル・サーチェの扮装
実際の「シャイニー・シュリンプス」 「ユーロ・ゲームズ」参加時のヴェル・サーチェの扮装

フランスに実在するゲイの水球チームを題材にした映画「シャイニー・シュリンプス!愉快で愛しい仲間たち」が、7月9日に公開を迎える。実際に水球チーム「シャイニー・シュリンプス」のメンバーとして活動しているセドリック・ル・ギャロ監督、共同でメガホンをとったマキシム・ゴバール監督のインタビューを、映画.comが独占入手した。

物語は同性愛者への心ない発言の罰として、水泳選手でオリンピック銀メダリストのマチアス(ニコラ・ゴブ)が、ゲイのアマチュア水球チームのコーチに就任することから始まる。マチアスが任された「シャイニー・シュリンプス」は、パーティが大好きで、口を開けばジョークや下ネタばかり、試合の勝ち負けにはこだわらないお調子者の集団だった。

マチアスは、3カ月後にクロアチアで開催されるLGBTQ+のスポーツと文化の祭典「ゲイゲームズ」にチームを出場させるというミッションを課される。最初はチームのメンバーに振り回され、うんざりしていたマチアスだったが、次第に彼らの「自分らしく生きることこそが人生を輝かせる」という生き様に影響を受けていく。

インタビューに応じたセドリック・ル・ギャロ監督(左)とマキシム・ゴバール監督(右)
インタビューに応じたセドリック・ル・ギャロ監督(左)とマキシム・ゴバール監督(右)

――ギャロ監督は、もともとゲイの友人がひとりもいなかったけれど、チームに入ったことで人生観が変わったとおっしゃっていますね。

ギャロ監督「高校時代の体育の授業では、皆競い合っていて、周りとちょっと違うとからかわれるなど、スポーツで嫌な体験をした思い出がありました。ですが、『シャイニー・シュリンプス』と出会って、人と違うことを肯定するどころか、違うことは素晴らしいことなんだと、180度ガラッと見方を変えてもらいました。自分は自分のまま、ありのままでいい、そのままの自分を受け入れていいんだと、気づかされました。彼らは皆本当に愉快で外向的です」

劇中の「シャイニー・シュリンプス」
劇中の「シャイニー・シュリンプス」
実際の「シャイニー・シュリンプス」
実際の「シャイニー・シュリンプス」

――実際の経験をもとにした映画製作はいかがでしたか? またチームのメンバーから、本作について何か感想はありましたか。

ギャロ監督「もちろん不安だった部分はあります。事実を曲げてないか、モデルになった人たちが『これ僕らのことだね』とちゃんと自己投影してくれるか、少し心配していたのですが、彼らはすごく笑ってくれて、それ以上に感動してくれていたみたいです。自分たちの話だと実感してくれていたようで、僕もとてもホッとしたし嬉しくて、皆がハッピーでした。最初のお披露目がフランスでも有名なラルプ・デュエ国際コメディ映画祭で、賞をとったのですが、そこに本当のチームメンバーも全員来ていて感動的なプレミアになりました。それから、クラブで出会ったゲイの人に『あの映画を作ってくれてありがとう』とお礼を言われたことがあって、彼はこれでようやく両親にも、『これが僕の人生だから是非見てくれ』と伝えられると言っていました」

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――ゴバール監督は2018年にギャロ監督と出会い、「シャイニー・シュリンプス」の話をいろいろと聞かれたそうですね。

ゴバール監督「『スポーツ』というと成績重視で勝たないといけないという部分がありますよね。でも、『シャイニー・シュリンプス』は勝つことが目標ではなく他に目指すべきことがあるというところに驚きました。勝つことより、スペクタクルなショーのような衣装を着て輝くこと。いままで僕が知っていたスポーツと全然違う、こんなスポーツ選手がいるんだと魅力に感じました。『シャイニー・シュリンプス』という名前自体にもすごく惹かれました」

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――チームを盛り上げるのは、偏屈な最年長ジョエル、スパルタなフレッド、パートナーに嘘をついて活動するセドリック、秘密を抱えるリーダー・ジャン、ジャンに未練たらたらな元恋人アレックス、ムードメーカーのグザヴィエ、新入りのヴィンセントら個性豊かなメンバーたちです。それぞれのキャラクターは、どのように作り上げたのでしょうか。

ゴバール監督「実際のメンバーのキャラクターからインスパイアされた部分もあります。35人もいるのでね。ほかにも自分が生きてきたなかで出会った『こういう人いるな』という経験からも着想し、ひとりのキャラクターに対していろんなところから要素を集めています。ひとりひとりのチームに対する関係性が画一的にならないよう多様性を持たせました。ゲイであることを強く主張する人もいれば、ただただ楽しくやっている人、たまたま機会があったからという人、ひとりになりたくなかった人。ほかのスポーツでも同じだと思いますが、モチベーションが違う人たちを最初に作っておいて、実際に役者をキャスティングしてから彼らの特徴を取り込んでいきました」

ギャロ監督「キャラクターそれぞれにちょっとずつ僕が入っている感じです。初めて水球クラブに入った7年前の僕はヴィンセントだし、エンタテイナーに徹するフレッドも、僕の一部だったりします。快楽主義的なところはグザヴィエだし、恋愛関係を継続しているところなんかはアレックス。一番遠いのがセドリックでしょうか。人生のいろんな段階の僕が、キャラクターの誰かに当てはまりますね」

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――劇中のストーリーに生かした実際のエピソードはありますか? グザヴィエが、お尻に入れたライアン・ゴズリングのタトゥーを仲間たちに見せる衝撃のシーンもあります(笑)。

ギャロ監督「タトゥーについては『シャイニー・シュリンプス』ではなくて、そういう写真を見せて、僕をナンパしようとした人がいて、その経験からとりました(笑)。ユーモアというものがチームのなかに常にあるので、本当に彼らが言っていたことをセリフにしたものもあります。例えばジャンの『皆が皆ゲイであるチャンスを手にしているわけではないからね』というセリフは、それを何度も言うメンバーがいて、僕自身もまったくその通りだと思っていたので盛り込みました。皆が『ゲイでよかった、ラッキーだった』と本当に思っているんです。だから今回、ゲイであることを問題としてではなくポジティブなことだと捉える見方もあるんだ、ということも映画で示したかったことのひとつです」

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――近年、LGBTQ+を題材にした映画も増えていますね。

ギャロ監督「数年前まではとてもレアなことで、そこで語られるとちょっとドラマティック過ぎることがあったのですが、いまのように様々な形のストーリーが生まれてきているということが重要ではないかなと思います。大切なのは、当事者の人たちがそれらの映画を見たときに勇気づけられること。いままではLGBTQ+の人がヒーロー、主役として描かれることが少なかったけれど、主人公になれるんだということを、特に若い人たちが見られるというのはすごく大事なことです。映画に限らず、テレビシリーズ等でもそういう主人公たちがたくさん出てくると、若いLGBTQ+の人たちにとって人生のロールモデルとして与えられるものがとても多いと思います。だからできるだけいろいろな職業・境遇のLGBTQ+の人たちが主役の作品がどんどん増えていってほしいです」

ゴバール監督「僕自身は、ふたつ見方があります。社会の一市民として思うのは、娯楽映画でありながら(様々な)人間関係や在り方を肯定するようなメッセージを持った作品が出てきているということは、とても良いことだと思います。作り手としてアーティスティックな面で良いなと思うのは、LGBTQ+の人たちが表に出てくることで、いままでと違う新しいストーリーが生まれることが増えたこと。観客もそれを望んでいると思いますし、すごく興味深い、語るべきことです。これまでの男女の関係などの伝統的な構図に新しい風を吹き込んでいて。(LGBTQ+の物語が増えたことは)いろいろな面で必然性があったことだと思います」

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――ギャロ監督は映画化を決断した理由として、「辛い現実をユーモアで乗り切る『シャイニー・シュリンプス』の圧倒的な強さを知ってもらいたい」とおっしゃっています。改めて、観客にどのようなメッセージを伝えたいですか。

ギャロ監督「とにかく『怖がらないでいいよ』と伝えたいです。もしLGBTQ+の当事者の方なら『自分のことだな』と何かしらの形で思ってくれるだろうし、僕たちのコミュニティのことを知らなかった人たちも新しい友達を発見する体験ができるんじゃないかと思います。『おいてけぼり、仲間外れかも……』という気持ちになることは絶対にありません」

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ゴバール監督「実は続編の制作が決まっていて、なんと第2弾は日本で撮影されます! ぜひ1本目から楽しんで続編も楽しみにしていてくださいね」

シャイニー・シュリンプス!愉快で愛しい仲間たち」は、7月9日から東京のヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、Bunkamura ル・シネマほか全国順次公開。

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