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平尾隆之と今井剛が“逆行”しながら練りあげた「映画大好きポンポさん」

2021年6月3日 18:00

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映画製作の裏側を描く劇場アニメ「映画大好きポンポさん」
映画製作の裏側を描く劇場アニメ「映画大好きポンポさん」
(C)2020 杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA/ 映画大好きポンポさん製作委員会

映画製作の裏側を描く劇場アニメ「映画大好きポンポさん」(6月4日公開)では、映像編集にスポットをあてたドラマが展開されている。映画マニアの主人公ジーンは予告編の編集を任されたことをきっかけに監督に抜てきされ、作中では編集の力で映画がどう変わっていくのかが物語とリンクして見事に表現されている。

同作を手がける平尾隆之監督は、本作を含め、ほとんどの監督作品で今井剛氏とタッグを組んでいる。今井氏は、実写映画「るろうに剣心」シリーズ(大友啓史監督)をはじめ、佐藤信介行定勲李相日らの作品などを多く手がける映像編集者。一緒に取材をうけるのは初めてだという2人に映像編集をテーマに話を聞いた。(取材・文/編集部)


画像2(C)2020 杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA/ 映画大好きポンポさん製作委員会
――アニメにおける編集の役割は、どんなところにあるのでしょうか。
平尾:アニメーションの編集の場合、主な役割はフィルムのリズムをつくっていくことなのかなと思います。例えば、あるカットが絵コンテで3秒と指定されていたとして、想像上の尺でしかなかったものが編集でつないで実際の尺の流れになったとき、この長さではキャラクターがやっていることが伝わらないからと尺を長くしたり、逆に間(ま)をつめるために短くしたり、そういう作業が主な感じです。
今井:今はいろいろなやり方があると思いますが、基本的にアフレコ前に編集で尺を決めるのは変わっていないってことですよね。先に編集で映像のリズムをつくっておいて、アフレコでは役者さんにそれにあわせてもらうのが主流で。
平尾:そこは、まったく変わっていないと思います。
今井:それが我々の場合、違うんですよね。
平尾:僕らの場合、各パートの絵コンテがあがったらまず仮のカッティング(編集)をして、その段階で今井さんを交えて「ストーリーラインがしっかりしているか」「そもそも映像として面白いのか」というところから一度話し合う工程をとっています。
今井:アニメの制作工程を知っている方向けに言うと、僕が平尾監督と一緒にやるときは、編集という立場で絵コンテの段階から足をふみいれて作品づくりをしているというと伝わりやすいかなと思います。
平尾:今井さんは実写映画の世界で、膨大な撮影素材のなかからストーリーを組み直していく編集の仕事をずっとされてきて、その経験から「これでは伝わらないのではないか」「こうしたらどうだろうか」ということをストーリーの部分ふくめて言ってくださるんです。今井さんに仮編集段階からいろいろと突っ込みをいれていただきながら、制作中何度もコンテやムービーを直すかたちでブラッシュアップしています。
画像3(C)2020 杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA/ 映画大好きポンポさん製作委員会
――アニメは完成映像をつくる前に編集しているから、今井さんの提案によって芝居を直したり新しいシーンが生まれたりできるわけですよね。そこは撮影した映像をもとに編集する実写と大きく違うところですか。
今井:そうですね。実写も役者さんがからまなければ小物撮りとかで再撮要求はできるので、まったくできないってわけではないですけれど。ただ基本的に実写はまず演じ手がいて、演じた映像があり、それは確実に変わることがないじゃないですか。俳優さんが演じたことをベースに、この表情がいいからそれを生かすためにどうつなげていこうかというふうに、まず現物の映像ありきなんですよね。

平尾監督のアニメの場合、絵コンテに近いところからタッチさせてもらっていますから、例えばいいセリフのカットがアップに決まったとき、「こんな感じの言い方にさせるのはどうですか」というところまで要求できます。こちらの提案によって絵のタッチや、場合によっては笑顔か泣き顔かということさえ変わってくるかもしれない。同じことをやろうとしても結果が違ってくるというか、実写とアニメの編集の違いはそうしたところにあるのかもしれないです。

画像4(C)2020 杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA/ 映画大好きポンポさん製作委員会
――平尾監督と今井さんの間で、どれぐらいやりとりされているのでしょう。
今井:今回はコロナもあったので、なかなか直接会ってという回数はそんなにはなかったです。ただ、我々のやり方だと仮に一緒にやっても結局まずお互いの意見のディスカッションをして、それを実際に作業して映像のかたちにして、それを見ていい悪いを判断するというように、すごく時間がかかってしまうんです。ですから、平尾監督からムービーを預かって、自分がこうしたいなっていうことを表現したものを返すまでに作業時間があったほうがありがたいんですよね。その間、こちらは悩みながら悶々と作業しているんですけど。
平尾:すみません(笑)。
今井:いえいえ。作業時間自体はあったほうがありがたいですし、いろいろと考えることができるのは大きいですから。
――編集の現場で一緒に何度も見返しながら作業するというより、お互い時間をとってやりとりされている感じなのですね。
今井:そのほうが「やりたいことはこうだ」というものをパッと映像で提示できますからね。いい悪いにしても、こうしたらどうだろうかという提案にしても、今のやり方のほうが次のステップにいきやすいのかなと思います。天才でもないかぎり、瞬時に「じゃあこうしましょう」っていうふうにはできませんからね。「こんなアイデアはどうだろう」と思いついたとき、本当にそのアイデアが作品のためにいいことなのか、一度いろんなパターンを組み直してみないと分からなかったりするので、そこに時間がかけられているのはありがたいです。
画像5(C)2020 杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA/ 映画大好きポンポさん製作委員会
画像6(C)2020 杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA/ 映画大好きポンポさん製作委員会
――今井さんは実写映画でいろいろな監督と組まれていて、監督によってもやり方が異なるのではないかと思います。今井さんから見て、平尾監督はどういう監督ですか。
今井:やっぱり任せてくれるっていうところが、いちばん大きいですね。実写でもそうなんですけど、何度もご一緒している監督はだいたいそういう傾向なんです。
――任せてくれるところが大きいと。
今井:任せてもらえないと、僕の場合、たぶんまったく何もできないので(笑)。
――言い方がよくないかもしれませんが、任せてもらえないとオペレーター的な作業になるのでしょうね。
今井:オペレーターが悪いとは思わないですけどね。監督の呼吸でちゃんと切っている人もいるわけですから、それはそれですごいことだと思います。だけど、それだとなんのアイデアも言えないじゃないですか。すべて監督の言うとおりだと、「はい、じゃあそうしましょうか」みたいになってしまいます。せっかく編集という立場で作品を一緒につくることができるのであれば、編集なりの作品の捉え方というか、「こういうテイストのものにしたい」「こういう感じのトーンがいいのでは」みたいなことを提示させてもらい、それを一緒に楽しんでくれる監督さんと僕はよく仕事をしている感じです。アニメ業界では平尾さんのような監督はなかなかいませんし、やっぱり一緒にやっていて楽しくつくれているっていうことですかね。
画像7(C)2020 杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA/ 映画大好きポンポさん製作委員会
――通常のアニメ制作では、映像の設計図である絵コンテをきちんとつくり、そこから絵コンテで考えた100パーセントをいかに減らさないでつくっていくかという部分が大きいと思います。お2人のやり方だと、絵コンテ以降でやり直すことをいとわないということですよね。
平尾:アニメーションづくりでは絵コンテをあげたあと、制作の段取りとしては完成まで一方向しかなくて工程が“順行”しかないのが普通なんですけど、僕らのやり方だとどこかで“逆行”するんですよね――最近「TENET テネット」を見たんで、順行と逆行って言ってみたんですけど(笑)。
――(笑)
平尾:順行していたと思ったら途中で逆行して、また順行にするっていうことがよくあるんです。
――「TENET テネット」で例えると、すごく分かりやすいです。アニメで逆行するというのはちゃぶ台返しに近いものがあると思いますが、「TENET テネット」と同じで、それをするのは大変ではないですか。
平尾:大変ですけど、逆行にもいくつか段階があるんですよね。「ここからだったらまだ逆行できる」という段階があって、そこは制作の進み具合を見ながら今井さんと密に相談しながらやっています。「今だったらこのストーリーラインの変更はできるかも」とか「制作がここまで進んでしまっているから、それを生かしつつ求めるものに近づけられるように上手くつないでほしい」みたいな感じですね。それでもどうしても現場に負荷はかかってしまうのですが、今井さんと相談して実際に編集の手が入ることで確実に面白いものになっていくんです。

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