【コラム/細野真宏の試写室日記】「るろうに剣心 最終章 The Beginning」。緊急事態宣言の危機は「チャンス」にも?
2021年6月3日 12:00
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映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)(文/細野真宏)
4月23日(金)から公開されている「るろうに剣心 最終章 The Final」が象徴的ですが、映画業界は新型コロナウイルスの第4波の影響を大きく受けています。
2回目の緊急事態宣言の際は「レイトショーの自粛要請」レベルでしたが、4月25日(日)からの3回目の緊急事態宣言は、東京、大阪、兵庫、京都の4都府県で「映画館が休業要請」される事態にまでなりました。
この日程は、まさにゴールデンウィークの狙い撃ちの形で始まり、「るろうに剣心 最終章 The Final」に関しては、公開3日目から影響を受ける形になったわけです。
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しかも、期間延長が続き、東京と大阪では、5月31日まで映画館が休業要請される事態にまで陥っていました。
今年のゴールデンウィークで特に期待されていたのは「るろうに剣心 最終章 The Final」と「名探偵コナン 緋色の弾丸」でしたが、「るろうに剣心 最終章 The Final」は4月24日(土)に舞台挨拶のライブ中継を2回にわたって全国で実施できました。
その一方で、「名探偵コナン 緋色の弾丸」については、4月25日(日)に舞台挨拶のライブ中継を予定していましたが、急きょ実施中止にまで追い込まれてしまい、現時点では実施の見通しも立っていない状況です。
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さて、そんな中、「るろうに剣心 最終章 The Final」は公開から約1カ月半が過ぎ、予定通り今週末の6月4日(金)から、シリーズのラストとなる「るろうに剣心 最終章 The Beginning」が公開されます。
この公開日は、東京と大阪での映画館の休業要請が緩和された(大阪では「土日は休業要請のまま」ですが)ので、タイミング的には最悪な状況は免れたと言えそうです。
ただ、ものは考えようで、私は、このような状況下は「るろうに剣心 最終章」にとっては「チャンスにもなり得る」と思っています。
というのも、そもそも、この「るろうに剣心 最終章」は、「The Final」と「The Beginning」という2部作で、この公開の順番は「分かりにくい」と思っていました。
なぜなら、普通は“始まりがあって終わりがある”ので、「The Beginning」が最初で、「The Final」が後だと思うのです。
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では、なぜそうなっていないのか?
これは、私の推察ですが、おそらく「興行収入」という観点から、「The Final」が最初で、「The Beginning」が最後になったと思っています。
まず、「るろうに剣心 最終章」は「2作の総製作費が50億円」と公表されています。
この「総製作費」というのは、宣伝費も込みなので、当然ぴったしの金額ではないのですが、「2作品の制作費と宣伝費を合わせて50億円という規模感のプロジェクト」ということを意味しています。
そこで、「2作の総製作費が50億円」という前提で考察すると、「るろうに剣心 最終章」の2部作となる第4弾と第5弾の合計で興行収入100億円は狙いたいところでしょう。
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大友啓史監督×佐藤健主演の10年間に及ぶ集大成的な作品であれば、なおさらです。
また、一般的には、連続公開作品の場合では右肩下がりの傾向が出るので、第4弾で55億円、第5弾で45億円くらいが目標だったと思います。
そして、「The Beginning」と「The Final」では、どちらがヒットしやすいのか、というと、やはりアクションシーン満載で、最後の総決算的な「The Final」だと思われます。
そこで、まずは景気よく「The Final」を先に「第4弾」として公開し、大ヒットに導き、その流れで「The Beginning」も「第5弾」として大ヒット、と考えていたのでは、と推察しています。
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この戦略は基本正しいのでしょう。
ただ、あえて懸念事項を挙げると、「The Final」だけでは感情移入しにくいという面があるかと思います。
つまり、「The Final」では、必要に応じて「The Beginning」の映像も使っているのですが、あれだけだと中途半端な感じはあるのです。
そのため、「The Final」のみだと「アクションは凄いけれど、そこまで入り込めなかった」という感想になり得るリスクを危惧しています。
実は、「るろうに剣心 最終章 The Final」という作品の本当の出来の良さは、「るろうに剣心 最終章 The Beginning」を見てからでないと実感しにくい、という面があると思っています。
というのも、「The Final」での最後の強敵となる雪代縁(ゆきしろ・えにし)の行動の背景には「The Beginning」があって、「The Beginning」を見てからの方が、分かりやすいし感情移入もしやすくなるからです。
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つまり、通常の時間軸の通りに「The Beginning」が最初で、「The Final」が後、という流れで見ると、かなり満足度が変わってくるはずなのです。
そこで、特に、緊急事態宣言の影響で見られなかった人は、これを「チャンス」と捉え、まずは「The Beginning」を見て、その後で「The Final」を見る、という流れをお勧めしたいです。
ちなみに、私自身もこの流れで見直してみたら、「The Final」の評価が全く変わりました!
とは言え、すでに「The Final」を見た人も多いでしょうから、ここからは「The Beginning」について解説します。
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まず、「The Beginning」の「第5弾」だけは、映画「るろうに剣心」シリーズで異色な作品と言えます。
というのも、「るろうに剣心」という作品は、主人公・緋村剣心(=緋村抜刀斎)が、“斬れない刀”である「逆刃刀」を使うなど、「不殺(ころさず)の誓い」をしているという非常に珍しい設定になっています。
では、なぜこのようなタイプの人物が形成されたのか。まさにその答えが、本作「るろうに剣心 最終章 The Beginning」で明かされます。
「第1弾」から「第4弾」までとの根本的な違いは、この「第5弾」では緋村剣心(=緋村抜刀斎)は、通常の刀を使い「人斬り抜刀斎」として幕末で恐れられた「伝説の剣客」そのものとなっているのです。
緋村剣心(=緋村抜刀斎)は、「話し方」から違っています。
その一方で、これまでの作品とは「静」と「動」のバランスも異なり、意外にも「静」のイメージも強くあります。
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本作は、「かなり出来の良い本格的な時代劇」だと捉えた方がしっくりくるのかもしません。
しかも、「The Beginning」でありながら完結もしています。
ラストは、キチンと「第1弾」とつながっている点も、緻密に作られている証です。
このように、これまでマンガの実写化と敬遠していた人は、トップクラスの出来栄えの「時代劇」として見てもらえると、本作の良さが分かると思います。
そして、その流れで「るろうに剣心 最終章 The Final」も見てもらえると、日本のアクション映画は、ここまでのクオリティーになっていると、今の邦画実写のポテンシャルも感じてもらえるはずです。
冷静に分析すると、緊急事態宣言の影響も大きく、現状では「るろうに剣心 最終章」の興行収入は、目標には少し遠いところにあるのかもしれません。
ただ、作品の出来が良いのは間違いないので、この「The Beginning」を機に、どこまで盛り返すことができるのか期待したいと思います。
(C)和月伸宏/ 集英社 (C)2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Beginning」製作委員会
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