【「トゥルーノース」評論】3Dアニメ表現が効果的な“北朝鮮強制収容所の真実” プリズン系ドラマとしても秀逸の出来栄え
2021年5月30日 18:00
北朝鮮強制収容所を舞台に描かれる“過酷な日々”。その光景を言い表すための最も的確な言葉、それは“地獄”だ。監督・脚本・プロデューサーを務めた清水ハン栄治が、収容体験を持つ脱北者、元看守にインタビューを行い、10年の歳月をかけて完成させた物語には、目を覆いたくなるような現実がまざまざと映し出されている。
物語の中心となるのは、1950年代から1984年まで続いた在日朝鮮人の帰還事業で北朝鮮に渡ったある家族。父が政治犯の疑いで逮捕されたことをきっかけに、主人公・ヨハンは連座制によって母&妹とともに強制収容所に連行。凄惨を極める極寒の収容所での日々が描かれていく。過酷な状況下においても、生きるべき目的、進むべき方向を見失わないための「絶対的な羅針盤」(英語の慣用句)、報じられることのない「北朝鮮の現実」という二重の意味が込められたタイトルも秀逸だ。
特筆すべきは、3Dアニメーションという手法だろう。劇中で描出されるのは、あまりにも悲惨な生と死だ。老若男女問わず労働資源としての生き方を強制され、収容者たちは公開処刑を見届けることを義務付けられる。力尽きた者達への尊重は、一切感じ取ることはできない。「実写で作ってしまうと“ホラー映画”になってしまう懸念があった」と清水監督が説明するほど、収容者を見舞う運命に容赦はない。語られるべき真実は、多くの人々に届いてこそ意義がある。もし実写映像であれば、見ることを躊躇う者もいたはずだ。
過度にデフォルメせず、一方でリアルすぎない。この絶妙な塩梅のキャラクター造形も印象的。やわらかなタッチのキャラクター像は、まるで寓話に触れているかのような風合いを醸し出す。ここに「想像の余地」が生まれてくる。アニメーションで描かれた人物たちの“奥”には、同様の運命を辿った“実在の人々”がいる。スクリーンに投影されたキャラの表情、仕草を通じて、そのことを強烈に意識せざるを得なくなり、感情を激しく揺さぶられてしまった。
収容所内でのヒエラルキー、各々の命を守るために行われる監視と密告、拷問が繰り返される地下留置所の存在、自由を求めて挑む脱獄の行く末――いわゆる“プリズン系ドラマ”としても見応えがある内容だ。冒頭にリンクする伏線回収にも、思わずうならされたことを付け加えておこう。作品全体を通じて浮き彫りになっていくのは、人間扱いされない場所で「人間として生きる意味」。絶望が満ちたストーリーだけに、ラストに提示された希望が一際輝いて見えたように思える。
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