【「5月の花嫁学校」評論】ビノシュの新たな魅力と名女優のアンサンブルが心地よい “フェミニズム”コメディ
2021年5月21日 15:00
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元家政婦で、素朴派の画家セラフィーヌ・ルイの生涯を描いた「セラフィーヌの庭」(08)が日本でも注目を集めたマルタン・プロボ監督の新作。時は1968年5月革命直前、ドイツ国境のアルザス地方の田舎町が舞台。ジュリエット・ビノシュ扮する主人公のポーレットが、良妻賢母を育成する花嫁学校校長の夫ロベールに先立たれ、学校の経営を立て直そうとする物語だ。
死後に夫がギャンブル狂だったことが発覚し、ポーレットは多額の借金を背負うことに。しかし、そんな夫の不始末がきっかけで、ポーレットは第2次大戦で生き別れになった元恋人アンドレと再会する。ポーレット自身も、セリフからナチから生き延びた女性だという背景が分かる。かつての思いが再燃する二人、そして、生徒が起こすいくつかの事件から、“良き妻”であることが女の幸せと説いていたポーレットは自己矛盾に苛まれ、次第に意識が変化していく。
今作ではビノシュが、生真面目なしっかり者ではあるが、純粋で抜けたところもある快活な教師ポーレットを好演、コメディエンヌとして新たな魅力を発揮した。義妹を演じるヨランド・モロー、修道女役のノエミ・ルボフスキーというフランスを代表する名女優たちとのアンサンブルも心地よい。
フランスを代表するフェミニスト、ボーボワールの友人であった、知られざる女流作家の波乱の人生を描いた「ヴィオレット ある作家の肖像」、母娘の葛藤と助産師の仕事にスポットを当て、実際の出産シーンも映した「ルージュの手紙」という過去作と比べると、物語にやや優等生的な凡庸さも感じるが、保守的だった時代の価値観を紹介しながら、女性の意識の変化をコメディタッチで描いているので、男女間の対立や分断を煽ることなく、男性も委縮せずに楽しめるだろう。
映画は、一日の始まりに、首飾りを留めたり、髪型を整えて仕事へ向かう女性たちを後方から捉え、親愛を込めて見つめるようなオープニングから始まる。プロボ監督自身は男性だが、酸いも甘いも噛み分け、人生への諦念も軽やな希望に昇華させるような、中高年女性の心の機微を描くのを得意とするが、今作では、未来への道が“結婚”しかなかった10代の少女たちの不安や反抗、若さゆえの激しい情動も繊細かつみずみずしく表現している。
また、寄宿学校という舞台から、当時の教育制度に反抗しているという理由で1946年まで上映禁止となっていた、ジャン・ビゴ作品の名場面を女性だけで表現するという痛快なオマージュがあり、フランス古典文学よろしく、梯子をよじ登ってポーレットの寝室に忍び込もうとするアンドレとのコミカルなやりとりでも男女平等を唱えさせる。
そして、生まれ変わった花嫁学校の一団が、偉業を成し遂げた女性たちの名を呼びながら、革命が勃発し通行止めになったパリまで自分たちの足で歩こうとするラストは、他界した天才女性振付師のドキュメント「Pina」を想起させ、女たちが自由に生きる権利を全身でのびやかに宣言する、清々しいフィナーレとなっている。フランスの男性監督が撮る、フェミニズム映画という観点からも楽しめる一作だ。
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