佐藤健VS新田真剣佑、死闘に見た“変態的”こだわり 「るろうに剣心」最終章、壮絶アクションの舞台裏に迫る
2021年4月19日 08:00
雪代縁は全身全霊を以て倭刀を振り下ろした。刀身が歪んで見えるほどの憎悪がこもった、あまりに強烈な一撃だった。
その刹那。いつもの昼行灯の顔を捨てた緋村剣心は逡巡する。これを受けるか否か、縁との戦いに自身が何を望むのか――。答えの出ぬまま、剣心はすんでのところで「回避する」ことを選ぶ。
2人が至近距離で向き合った。周囲の空気が、手を触れればたちまち裂けてしまいそうなほど、ぴんと張り詰めた。
2019年3月29日、東京・世田谷区は東宝スタジオ。剣心役・佐藤健と縁役・新田真剣佑が激しくぶつかり合い、精巧なセットがみるみる破壊されていく光景を、報道陣は遠巻きに眺めていた。わずか5秒にも満たないアクションシーンをカメラに収めるため、1日がかりの撮影が始まった。
「るろうに剣心 最終章 The Final」「るろうに剣心 最終章 The Beginning」の公開に向け、映画.comでは撮影現場レポートなどを数回にわけてお届け。第2回となる今回は、東宝スタジオでの壮絶なアクションシーン撮影を通じて垣間見た、佐藤健と新田真剣佑の“真価”に言及していく。
東宝スタジオでの撮影は、「The Final」ラストバトル、縁のアジトでのひと幕である。すべての因縁に決着をつけるため、剣心と縁は死闘を繰り広げる。かいつまんで文字にすると30文字ほどのシークエンスだが、カット数は125カットにのぼる。めったにお目にかかれない数字である。
アクションの手順を確認するリハーサルが数回重ねられたあと、本番へ。カメラが回る直前、それまで怒号が飛び交っていたスタジオは、水を打ったように静まり返る。それぞれのルーチンで集中力を高める佐藤と新田。2人に向け、アクション監督の谷垣健治が「おふたり、思い切って」と声をかけた。「本番、よーい、スタート!」。佐藤と新田が互いをめがけて猛然と突進する。場の空気が一瞬にして沸騰した。
屋敷の広間の中央でふたりは激突。いきなり、縁がダイナミックに回し蹴りを繰り出した。手加減はない。殺気すらただよう蹴りは空を切り、手近にあった陶器類が粉々に吹き飛んでいった。最小限の上体そらしのみで蹴りをかわした剣心は、地表を滑空するような独特のフォームで部屋の対角線へと走る。プレッシャーを感じ、思わず振り返った剣心。眼前に飛び込んできたのは、高く高く跳躍し倭刀を振り上げる縁の、鬼のような形相だった。
「カット!」。わずか数秒のシーンだが、とてつもない情報量と密度であった。
大友啓史監督が報道陣の取材に応じた。撮影の日々を「42.195キロを100メートル走の速さで走り続けている」と例えたうえで、アクションについてこう語る。「“役者の身体による表現”を追求し、ワイヤーアクションも“ワイヤーアクションに見えない”がコンセプト。(アクション監督の)谷垣さんとは約5年ぶりのタッグ。今まで“横の動き”だけだったワイヤーが、縦と横と縦とか、多彩な動きを追求している。アクションシーンには、シリーズのこれまでで溜め込んできたアイデアが、可能な限り詰め込まれているんです」
また、アクションの迫力を増すためには、役者やスタントの身体表現を見せるだけでは不十分。“美術”にこだわることで、クオリティが底上げされるのだという。「役者たちの気力を受け止められる美術セットがあるかどうかが重要。扉が吹っ飛ぶなどの“壊し”や、衣装の汚しなど、様々な仕掛けが必要になってくる。例えば“攻撃の強さ”の表現として、剣と剣のぶつかり合いだけでなく、両者の真ん中にある机が壊れたり。『るろ剣』の場合はチームで積み重ねてきていますから、作り物の精度もすごく高くなっているし、今回もアクションの迫力は増していると自負しています」
そして、こう付け加え大笑いする。「アクションシーンを撮ったあとは、草1本生えない。爆破でもしたの?くらいのスケールで撮影しています」。この作品に携わるスタッフ・キャストのこだわりの強さは、いい意味で“変態的”と言ってもよいくらいだ。
「The Final」は縁による剣心への復しゅう劇である。それゆえに今回取材した“ラストバトル”は作劇上、それぞれの抱える怨嗟や葛藤や苦悩や原罪が一挙手一投足から溢れ出し、すべてが雪がれていく筋書きが必要になる。本作で目指したのは、セリフや物語運び以上に、アクションのみでドラマをエモーショナルに表現することだった。
大友監督「谷垣さんにお願いしているのは、『感情が見えるアクション』。縁は作品のラスボスではありますが、剣心にとって本来倒すべき敵ではない。自分が手にかけてしまった最愛の女性・巴の弟ですから、“戦いたくない相手”ですらある。だから『さあ、倒すぞ』という感じでもないわけです。縁にとっても、実は同じかもしれない。それは新田真剣佑が役に違う肉付けをしてくれたおかげで、なにか憎しみ以外の感情が表現されつつある。だから戦いは“不思議な導入”で始まります。お互いが向き合い、戦いが始まる……というのでもない。かたや妻を失い、かたや最愛の姉を失った男たちによる戦い。彼らの感情が、一振り一振りに見えてくる」
ここからは、よりキャストにクローズアップしていこう。
新田はどちらかというと、いわゆる“憑依型”の俳優のように思える。例えば「ジョジョの奇妙な冒険」(2017)の撮影現場では、演じていた虹村億泰の人格が抜けきらず、報道陣の取材に“億泰として”応じて我々を驚かせた。さらに「るろうに剣心 最終章 The Final」の熊本・人吉の現場(18年)では、喉を潰して声にすごみを持たせるべく、ことあるごとにタオルを口に当て大声を出すという独自の役作りを試みていたりした。彼の役に対する思いの強さを象徴するエピソードは、枚挙にいとまがない。
大友監督は新田の身体表現について「新田真剣佑のアクションは大きくて正確。すごく魅力的ですね。そして身体と心の結び付きが強い」と褒めちぎる。
「彼にはもともと素養もある。しかし、素養があるからといって、アクションが出来るわけではないのが難しいところ。彼の場合はちゃんと“キャラクターから入って”くれていて、『縁にみえるか』『縁らしい立ち回りが出来ているか』ということを考えながらやってくれている。アクションシーンでもとても謙虚。彼の性格のようにまっすぐで、綺麗な立ち回りを見せてくれる。憎しみに充ち溢れているはずが、どこか“澄み切った剣”を感じています」
憎しみに端を発するエネルギーをぶつけてくる縁/新田に対し、剣心/佐藤は受けて立つ立場である。剣心は縁にかつての自分を重ね、彼の現在と戦うことで、自身の過去の罪と向き合っていく。怒り、悲しみ、苦しみ、後悔……場面ごとに代わる代わる顔を出す感情を、正確に、かつ見る者が奥行きを感じるよう表現しなければならない。佐藤には10年間の「るろうに剣心」の歴史のなかで、最も難易度の高い多層的な芝居が要求される。
大友監督は「剣心・佐藤健も、縁・新田真剣佑の剣を全て受け止める覚悟でここに来ている。立ち回りや言葉の端々から、そんなことが感じ取れる」と思いを代弁する。
「佐藤健とは、今もギリギリまで意見交換していたところ。セリフのやり取りのなかで、こうした方がいいんじゃないかだとか。そして新田真剣佑も『現場で自分はこういう風に動きたい』と気持ちをぶつけてきてくれる。2人のアイデアと、役に対するそれぞれの解釈。それらをできる限り受け止め、撮影にいかすことで、良い“戦い”になっていると手応えがある」と頼もしそうにほほ笑む。
キャストのアイデアと情熱が、スタッフのアイデアと情熱と融合し、唯一無二のシーンを具現化していく。
佐藤と新田とともに目指すラストは、果たしてどんな仕上がりになるだろうか。大友監督は、すこしだけヒントを教えてくれた。
「剣心は縁の感情を受け止めるしかない。だからアクションの間隙に、縁に対する“剣心なりの贖罪の念”が見えてくる。剣心と縁は、戦わないとわかりあえないんですよ。逆に言えば『剣を交えて初めてわかる思いがある』。そこが『るろうに剣心』の面白さでもあります。いうなれば『Heart of sword』、剣の心。縁と剣心は鏡合わせであり、剣を通して自分の心をとらえ続ける物語でもあります。そしてラストは、いつもの“狭い空間でダイナミックに”、“濃密な感情がほとばしる”ようなものを目指しています」
さて、出来栄えは乞うご期待。「るろうに剣心 最終章 The Final」は4月23日、「るろうに剣心 最終章 The Beginning」は6月4日から公開される。
「るろうに剣心 最終章」連載は、キャストインタビューへと続いていく。
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